経理アウトソーシングは、何から決めると後戻りしないか|範囲・費用・社内体制の決める順番
「経理をアウトソーシングしたい。まずどこに見積を取ればいいですか」。中小企業の経営者や管理部門長から、いちばん多くいただく最初の一言です。気持ちはよく分かります。ただ、私はここで一度止まっていただくようにしています。頼み先から決めると、多くの場合どこかで後戻りが起きるからです。
見積を取った時点で、範囲は相手の得意な形に寄ります。費用は「別途」の欄が会社ごとに違い、横に並べられません。社内に誰を残すかを決めていないので、稼働して2か月目に仕事が戻ってきます。どれも頼み先の良し悪しではなく、決める順番の問題です。
この記事では、経理アウトソーシングで決めることを6つに分け、後戻りしない順番に並べました。それぞれを掘り下げた記事がシメゴコラムにあるので、各章から送ります。まず全体の順番をつかみ、自社がいまどこで止まっているかを確かめる地図として使ってください。
1|先に結論|決める順番は「目的→範囲→社内の役→費用→相手→始める月」
6つを表にまとめます。右の列は、その項目を後回しにしたときに起きる後戻りです。
| 順番 | 決めること | 飛ばすと起きること |
|---|---|---|
| ①目的 | 何が止まると困るのかを1行で書く | 「安くしたい」と「止めたくない」が混ざり、見積の比べ方が決まらない |
| ②範囲 | 業務で切るか工程で切るか、どこまで出すか | 相手の得意な範囲に寄せられ、社内に中途半端な作業が残る |
| ③社内の役 | 窓口・承認・締めを誰が持つか | 稼働後に質問と確認が社内に戻り、「頼んだのに楽にならない」になる |
| ④費用の比べ方 | 月額ではなく課金の単位と「別途」の中身で並べる | 安く見えた見積が、稼働後の追加請求で逆転する |
| ⑤相手の型 | 個人・事務所・BPO会社のどれに頼むか | 担当が止まったときに誰も代われない形を選んでしまう |
| ⑥始める月 | 移行の山をどの月に置くか、社内にどう伝えるか | 決算や年末調整と重なり、現担当者が二重の作業で倒れる |
①〜③は社内だけで決められます。④〜⑥は相手と話しながら決めます。社内で決められることを先に済ませてから、外と話す。順番の考え方は、これに尽きます。
2|そもそも経理アウトソーシングとは
経理アウトソーシングとは、社内で抱えている経理業務の一部または全体を、外部の会社に継続して任せることです。日々の記帳から月次の締め、給与計算、支払・請求の準備まで、これまで社内の誰かが手を動かしていた作業を外の体制に移します。単発で手伝ってもらうのではなく、毎月続く流れごと預けて、担当が抜けても止まらない状態にするところに意味があります。
似た言葉に「経理代行」「経理BPO」があります。厳密な定義はサービス提供者によって幅がありますが、実務では次のように捉えておくと分かりやすいです。
| 呼び方 | ニュアンス |
|---|---|
| 経理代行 | 記帳や給与計算など、決まった作業を代わりに行うことに重心 |
| 経理アウトソーシング | 経理業務を外に出すこと全般を指す、いちばん広い言い方 |
| 経理BPO | 業務プロセスごと設計し直して外部化する、より仕組みづくりに寄った言い方 |
これらはきれいに線引きされておらず、重なって使われています。呼び名で相手を絞るより、この記事の①〜③を先に決め、「自社のこの範囲を、この形で受けてもらえるか」を聞くほうが、ずっと早く答えにたどり着きます。BPOという言い方の中身は経理BPOとはで整理しています。
3|①目的|「何が止まると困るか」を1行で書く
最初に決めるのは、外に出す目的です。立派な文章は要りません。「いま何が止まると、会社のどこが困るか」を1行で書くだけです。
ご相談を伺っていると、目的はだいたい次の3つのどれかに寄ります。
- 止めたくない:経理を1人が持っていて、その人が休むと支払も請求も止まる
- 早く知りたい:試算表が出るのが遅く、数字を見て手を打つのが後手に回る
- 手を空けたい:社長や総務が経理の手作業に時間を取られ、本来の仕事が進まない
どれを主目的にするかで、あとの判断が変わります。「止めたくない」なら頼み先を選ぶ軸は担当が止まったときに代わりがいるかどうか、「早く知りたい」なら締めの日程、「手を空けたい」なら範囲の広さです。3つとも欲しい場合でも、1番目を1つに決めておくと、見積が割れたときに迷いません。
そもそもいま動くべき状態かを測りたい場合は、経理アウトソーシングを入れる基準に、仕訳件数・試算表が出るまでの日数・経理を触れる人数・転記の割合・止まるまでの日数の5つで判定する手順をまとめています。「早く知りたい」が目的の会社は、締めを遅らせている原因が経理の外にあることも多いので、月次締めの早期化を先に読んでおくと、外注に期待してよいことがはっきりします。
4|②範囲|業務で切るか、工程で切るか
目的が決まったら、どこまで外に出すかです。「経理を全部」という頼み方では、見積を比べられません。手を動かす定型業務ほど外に出しやすく、経営判断に近い部分ほど社内に残る、というのが大まかな線です。
| 業務 | 外注のしやすさ | 補足 |
|---|---|---|
| 日々の記帳・伝票入力・仕訳 | 外注しやすい | 定型作業の代表。まずここから任せる会社が多い |
| 月次決算(試算表・月次レポート作成) | 外注しやすい | 毎月同じ日に数字が出る状態をつくれる |
| 請求書の発行・入金確認・支払データ準備 | 条件付きで外注可 | 承認や資金移動の権限は社内に残す設計が基本 |
| 給与計算・明細作成 | 外注しやすい | 社会保険の役所手続きは社労士の領域 |
| 年次決算・税務申告 | 専門家の領域 | 税務申告は税理士が担う。代行会社は資料整備で連携 |
| 資金繰りの判断・投資の意思決定 | 社内に残る | 数字を根拠に決めるのは経営の仕事 |
もう一つ決めておきたいのが切り方です。「記帳」「給与」のように業務の単位で切るか、「入力」「確認」「承認」のように工程の単位で切るか。業務で切ると業務と業務のつなぎ目に作業が落ちやすく、工程で切ると承認を社内に残す前提で組み立てる必要があります。実務では、工程で切ってから業務で束ねる順番をお勧めしています。詳しくは経理業務のアウトソーシング|業務単位で切るか、工程単位で切るかに書きました。
範囲を決めるときに忘れやすいのが、外に出しても会社から消えない仕事です。帳簿を保存する義務や申告の最終責任は、頼んだ後も会社に残ります。どこまでが「手放せる手間」で、どこからが「残る責任」かは経理は「丸投げ」できるかと経理を外に出しても、会社から消えない義務があるで整理しています。
5|③社内の役|窓口・承認・締めを誰が持つか
範囲が決まると、社内に残る仕事の輪郭が見えます。ここで残る仕事を誰が持つかを、名前で決めておきます。外に出して消えるのは手間であって、役割ではないからです。
残る役は大きく3つです。
| 役 | 中身 | 決めていないと起きること |
|---|---|---|
| 窓口 | 外注先からの質問に答え、資料を集めて渡す | 質問が社長に直接届き、手が空くどころか増える |
| 承認 | 支払・請求・計上の最終判断をする | 外注先が判断を肩代わりする形になり、責任の所在があいまいになる |
| 締め | 月次の数字を受け取り、中身を確かめて使う | 試算表が出ても誰も読まず、外に出した目的が果たせない |
3役を1人に寄せてよい会社と、分けたほうがよい会社があります。その分かれ目と、稼働1〜3か月目に実際に起きることは経理を外に出したあと、社内に誰を残すかにまとめました。承認のうち、振込の権限をどこまで渡すかは別に判断が要るので、支払代行を入れる前に決めることで扱っています。
正直に申し上げると、立ち上げの時期は、社内の手間がむしろ増えます。資料の渡し方を決め、質問に答え、手順を固めるまでの期間です。この「出したあとに起きること」を解決策で相殺せずに書いたのが経理アウトソーシングのデメリットです。③を決める前に目を通しておくと、窓口役に誰を置くかの判断が現実的になります。
6|④費用|月額ではなく「課金の単位」で並べる
ここで初めて見積の話になります。金額は依頼範囲・仕訳数・会社の規模で変わるため一概には言えませんが、料金の組み立て方にはパターンがあります。
| 費用のタイプ | 特徴 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 従量制(仕訳数などに応じる) | 使った分だけ。取引量に波がある会社に合う | 取引が月によって増減する |
| 月額固定制 | 毎月定額。予算が読みやすい | 取引量が安定している |
| 範囲パッケージ制 | 記帳+月次など、範囲をまとめた料金 | まとめて任せて手間を減らしたい |
比べるときの落とし穴は、月額の数字だけを横に並べることです。同じ「月額」でも、何を1件と数えるか、どこからが追加料金か、立ち上げの費用が別かどうかが会社ごとに違います。課金の単位をそろえ、「別途」の欄に落ちている項目を拾ってから並べると、安く見えた見積の中身が見えてきます。横に並べる手順と、別途欄に落ちやすい項目は経理代行の見積の内訳に、料金の相場観は経理代行の料金相場に書いています。
社員を1人採る場合との比較も、ここで出てきます。月額と人件費を並べたくなりますが、分かれ目は金額だけでは決まりません。採用・教育・引き継ぎにかかる時間と、その人が抜けたときに止まる期間まで含めて見ると、判断が変わることがあります。①で「止めたくない」を目的にした会社ほど、この点が効きます。
7|⑤相手の型|担当が止まったとき、誰が代わるか
費用の比べ方が決まったら、頼み先の型を選びます。経理の外注先は、実務上個人・事務所・BPO会社の3つの型に分かれます。どの型が上ということではなく、目的によって合う型が違います。
比べる軸として私が最初に置いているのは、担当が止まったとき、誰が代わるかです。個人に頼めば費用は抑えやすい一方、その方が止まれば経理も止まります。社内の属人化を解消するつもりで外に出したのに、外で同じ属人化が起きる形です。逆に、規模が小さく取引が単純な会社なら、個人の方に頼むほうが合理的な場合もあります。3つの型の比較表と、税務の入口・やめたときに社内へ戻るものまで含めた比べ方は経理の外注先は、個人か・事務所か・BPOかにあります。同じ型の中で1社に絞るときの確認項目は経理代行サービスの選び方が使えます。
8|⑥始める月と、社内への伝え方
最後に決めるのが、いつ始めるかです。ここを軽く見ると、最後の最後で後戻りが起きます。
移行の月は、旧体制と新体制が二重に走る1か月になります。そこに決算や年末調整、賞与の計算が重なると、現担当者の負担が一気に跳ね上がります。重くなる月は会社の期限から機械的に決まるので、開始月を決めたら、そこから3か月ぶん戻して準備の予定を置きます。逆算の仕方は経理代行の切り替え時期に書きました。
もう一つは、社内への伝え方です。とくに現担当者がいる会社では、外に出すと決めた後の話し方で結果が大きく変わります。反対の声は、雇用への不安・品質への不信・情報漏えいへの心配が混ざって出てくることが多く、1つの塊として説得すると3つとも外します。処遇を先に決めてから話すなど、話す順番は経理を外に出すと決めたあと、社内をどう通すかに整理しています。
9|順番を飛ばしたときに起きる、3つの後戻り
ご相談の中でよく伺う後戻りを、どの順番を飛ばしたかで3つに分けます。
頼み先から決めた
紹介や広告で相手が先に決まり、そこから範囲を話し合う形です。範囲が相手の得意な形に寄り、自社でいちばん困っていた作業が範囲の外に残ります。①と②を社内で決めてから相手に当てれば、防げます。
月額の安さで決めた
いちばん安い見積で決めたところ、証憑の回収や質問への対応が「別途」で、稼働してから追加の請求が来る形です。④で課金の単位をそろえていれば、契約前に見えていた差です。
社内の役を決めずに始めた
契約して資料を渡せば、あとは外注先がやってくれると考えていた形です。質問が誰にも拾われず、月次の数字が遅れ、「頼んだのに楽にならない」という話になります。③で窓口を名前で決めていれば、ほとんど起きません。
シメゴの場合と、正直に申し上げること
シメゴは、記帳・月次決算・給与計算・請求サポートまでを、中小企業向けに代行しています。ご相談では、この記事の①〜③を一緒に書き出すところから始めます。毎月同じ日に、同じ品質で数字が出る状態をつくり、担当が抜けても止まらないようにするのが私たちの役目です。
そのうえで、先にお伝えしておくことがあります。
- 税務申告はお引き受けしていません。シメゴは税理士法人ではないため、申告は顧問税理士の担当です。資料の整備で連携します。
- 承認と振込の実行は、社内に残していただきます。③の「承認」の役は、外に出さない前提で組み立てます。
- 立ち上げの時期は、社内の手間が一時的に増えます。手順が固まるまでは、窓口役の方に質問が集まります。
- 取引が少なく記帳だけを安く出したい会社には、個人の方に依頼されたほうが合理的な場合があります。その場合は、そうお伝えします。
まとめ
経理アウトソーシングは、頼み先から決めると後戻りが起きます。①目的→②範囲→③社内の役を社内で決め、そのあとで④費用の比べ方→⑤相手の型→⑥始める月を、外と話しながら決める。この順番を守るだけで、見積の比べやすさも、稼働後の手間も、ずいぶん変わります。
外注しやすいのは記帳・月次・給与などの定型業務で、社内に残るのは承認・判断と税務申告の領域です。どこまで出せそうか、いまの体制で何が止まりやすいかを一緒に整理したい場合は、無料コスト診断で①〜③の書き出しから始めてみてください。
※費用・対応範囲は依頼先ごとの条件で異なります。「3つの後戻り」は当社がご相談で伺った内容を類型にまとめたもので、統計ではありません。2026年9月14日に内容を改訂しました。