経理アウトソーシングのデメリット|出したあとに社内で起きることを、隠さず書く
経理代行を提供している会社が「デメリット」というタイトルで記事を書くと、たいてい途中から話が変わります。デメリットを3つ挙げて、そのあとに「しかし当社ではこのように解決しています」と続く。読んでいる側からすると、それは営業資料であって、デメリットの説明ではありません。
この記事では、その書き方をしません。当社(シメゴ)にご依頼いただいた場合でも消えないもの、当社では解決できないものを、そのまま書きます。解決策で相殺して終わりにしない、という意味です。
導入を検討している段階で本当に必要なのは、「デメリットが存在するかどうか」ではなく、「そのデメリットが自社にとって許容できる範囲かどうか」を判断する材料だと考えているためです。経理を外に出すこと自体の全体像は経理アウトソーシングとはに、外注先の3つの型の違いは経理の外注先は、個人か・事務所か・BPOかに整理しています。この記事は出したあとに社内で何が起きるかだけを扱います。
1|先に結論|消えないデメリットは6つある
実務で繰り返し起きるものを先に並べます。表の右列は「どうすれば消えるか」ではなく、誰が負担することになるかを書きました。デメリットの多くは消えるのではなく、置き場所が変わるだけだからです。
| 起きること | いつ効いてくるか | 誰が負担するか |
|---|---|---|
| 立ち上げ期に、社内の手間がむしろ増える | 契約〜3か月目 | いま経理をやっている人。最も忙しい人に集中する |
| 細かい質問への回答が、その場で返ってこなくなる | 運用開始後ずっと | 現場(営業・購買)と、社内の窓口担当 |
| 社内に、数字を読める人が育たなくなる | 1〜3年後 | 経営者本人。気づくのが最も遅い |
| イレギュラー処理が金額として見える | 決算期・特殊取引の発生時 | 予算を持っている管理部門 |
| 情報を社外に預けることになる | 契約時から | 会社。契約と運用で管理するしかない |
| やめるときに、元へ戻すコストがかかる | 解約時 | 次の担当者、または次の委託先 |
このうち3番目と6番目は、当社にご依頼いただいても構造的に消えません。以下、順に書きます。
2|立ち上げ期は、社内の手間が増える
いちばん最初に来るのがこれです。そして、いちばん軽く見られています。
外注を始めるとき、委託先は当然ながら御社の業務を知りません。どの取引先の請求書がいつ来るのか、なぜこの支払だけ処理が違うのか、この科目はどういう理由でそう分けているのか。これを説明できるのは、いま経理をやっている人だけです。
つまり、立ち上げ期に負荷がかかるのは、いちばん忙しくて、いちばん外注を必要としていた人ということになります。ここで「思ったより楽にならない」という感想が出ます。事実として、楽になるのはそのあとです。
どれくらいの期間かかるのか
当社の場合、通常の月次業務であれば2〜3か月目から手離れが始まることが多く、年次業務(決算、年末調整など)まで含めると、ひととおり回るまでに1年かかります。1年に1回しか起きない作業は、1年経たないと引き継げないためです。
この期間を短くする方法はありますが、ゼロにはできません。短くする方向の話は経理の引き継ぎと経理マニュアルの作り方に書いています。ただ、引き継ぎ期間中は現任者の負荷が上がるという前提自体は動かせません。
ここで最も危険なのは、退職が決まっている経理担当者の穴埋めとして外注を入れるケースです。引き継ぎ元がいなくなる日と、委託先が立ち上がる日が重ならない。この形は、退職日から逆算して3か月以上の余裕がないと苦しくなります。人手不足を理由にした急ぎの外注については経理の人手不足にも書きました。
3|その場で聞けなくなる、という不便
社内に経理担当がいるときは、「この請求書、どう処理すればいいですか」と席まで行けば数秒で終わっていました。外に出すと、これがメールやチャットになります。
1件あたりでは数分の差です。ただ、件数が多い会社ほど、この差が積み上がります。そして積み上がった結果、現場が「聞くのが面倒だから、とりあえず自分で判断して出しておく」という行動を取り始めます。これが後々、修正作業として返ってきます。
もう一つ効くのが、回答までの時間が読めないと、現場の予定が組めないことです。「今日中に判断が要るのに、明日返ってくるかもしれない」という状態が続くと、現場は経理を待たずに動くようになります。
窓口を1人置けば軽くなるが、消えはしない
実務上の緩和策は、社内に窓口を1名置いて、現場からの質問をその人が受け、まとめて委託先に投げる形です。当社でもこの形をおすすめしています。
ただし、これは窓口担当者の仕事が増えるということです。会社全体では手間が減っていても、その1人の手元では増えます。外注を検討するときに「誰の何時間が減って、誰の何時間が増えるか」まで見ておかないと、この人が最初に疲れます。業務を工程で切る考え方は経理業務のアウトソーシングに整理しました。
窓口をどの立場の人に置くか、そして窓口・承認・締めの3つをそれぞれ誰が持つかの決め方は、経理を外に出したあと、社内に誰を残すかに切り出しました。1人が兼ねてよい会社と、分けたほうがよい会社の線引きも書いています。
4|社内に、数字を読める人が育たなくなる
これが最も静かに効いてくるデメリットで、当社では解決できない領域です。
経理を外に出すと、社内の人は「出来上がった数字」を受け取る側に回ります。仕訳を切る過程も、なぜその数字になったのかも、見なくなる。すると数年後、試算表は毎月届くのに、社内でその中身を説明できる人が誰もいないという状態になります。
これが問題になるのは、たとえば次のような場面です。
- 銀行との融資交渉。数字の背景を聞かれて、その場で答えられない。
- 予算を組むとき。過去の数字がどういう性質のものか分からず、前年比だけで組んでしまう。
- 委託先を変えるとき。次の委託先への説明が、社内の誰にもできない。
- 出資・M&Aの検討時。相手からの質問に、外注先を経由しないと答えられない。
ここで申し上げたいのは「だから外注すべきでない」ではありません。作業を外に出しても、読む力は社内に残す設計にしないと、自動的には残らないということです。当社では月次報告の際に数字の背景をお伝えしていますが、それを聞く人が社内にいなければ意味がありません。
逆に言えば、社内に「毎月30分、数字を見る人」を1人決めるだけで、このデメリットの大部分は防げます。ただしそれは委託先の仕事ではなく、御社が決めることです。何を見ればよいかは試算表の見方に書きました。
上に挙げた場面のうち、銀行との融資交渉については1本に切り出しました。外注していること自体より、直近の数字がいつ出るか、その出どころを社内の誰が説明できるか、会社と社長のお金が分かれているかのほうが問われる、というのが当社の理解です。詳しくは経理の外注は融資で不利になるか|金融機関に聞かれるのは、試算表の出どころと出てくる早さをご覧ください。
5|イレギュラーには弱い、という前提
外注の料金が抑えられる理由は、決まった作業を、決まった手順で、繰り返すからです。裏返すと、決まっていない作業には弱くなります。
実際に追加費用や追加日数が発生しやすいのは、次のような場面です。
| 起きること | なぜ追加になるか |
|---|---|
| 新しい事業・新しい取引形態が始まった | 処理の型が無いため、判断から作り直しになる |
| 会計ソフトや請求システムを入れ替えた | データの受け渡し方法を作り直す必要がある |
| 過去分の遡り修正が必要になった | 月次の定型作業の外側。件数に比例して工数が出る |
| 補助金・監査などで、特定形式の資料を求められた | 通常の帳票とは別に作るため |
| 締め日を急に前倒ししたい | 受け側の人員配置が組み直しになる |
社内担当者であれば、こうしたときに「今月だけ残業して対応する」という融通が利きます。外注では、その融通が金額として見えます。見えること自体は健全ですが、想定していないと「思ったより高い」という印象になります。
見積の段階でここを潰すには、範囲外になる作業の一覧と、そのときの単価の決め方を、先に書面で確認しておくことです。金額の内訳の読み方は経理代行の料金相場に、選定時の確認項目は経理代行サービスの選び方にまとめてあります。
6|情報を社外に預けるということ
経理を外に出すことは、取引先の名称、単価、給与額、口座情報を社外の会社に渡すということです。これは契約と運用で管理するしかなく、「預けない」という選択肢は外注と両立しません。
確認しておくべきなのは、次の点です。
- 誰がアクセスできるか。担当者だけか、再委託先も含むか。再委託の有無は必ず聞いてください。
- どこに保管されるか。会計ソフト上だけか、委託先のストレージにも複製されるか。
- 契約が終わったとき、預けたデータはどうなるか。返却か、削除か、その証明は出るか。
- 事故が起きたときの責任範囲。賠償額の上限が契約書に定められているのが通常です。金額と算定方法を確認してください。
4番目は特に見落とされます。賠償の上限は、委託料の一定期間分を基準に設定されることが多く、実害がそれを超える可能性はあります。これは当社に限った話ではなく、業務委託契約で広く見られる形です。金額は契約ごとに違いますので、契約書の該当条項を必ずご確認ください。権限の渡し方とデータの戻し方は経理の外部委託に詳しく書きました。
7|やめるときのコストは、始めるときに決まる
最後が、終わり方です。外注をやめて社内に戻すとき、または別の委託先に移すとき、戻ってくるものは3層に分かれます。
- データ。仕訳・証憑・マスタ。これはほぼ確実に戻ります。
- 手順。どの証憑をどう受け取り、どの順で処理するか。契約で決めていないと戻りません。
- 判断の理由。なぜその科目か、なぜこの取引だけ処理が違うか。戻らないことのほうが多い。
2と3が戻らないと、次の担当者はゼロから同じ作業を再構築することになります。そしてこれは、委託先を変えるたびに繰り返されます。
当社では手順書は依頼元の資産という前提で作っていますが、これは業界の標準ではありません。事業者によって扱いが違いますので、契約前に「手順書は誰のものか」を確認してください。社内に戻す方向の段取りは経理の内製化に書いています。
社内に戻すのではなく別の委託先へ移す場合は、この3層をどの順で取り戻すかが段取りの中身そのものになります。解約を伝える前に契約書のどこを見ておくか、旧と新が重なる期間をどう作るかは経理代行を切り替えるときに、逆算の表として並べました。
外注が長く続いている会社ほど、この3層目が痩せていきます。属人化が解けたのではなく、属人化の場所が社内から社外に移っただけという状態です。社内側の構造は経理の属人化に書きましたが、外注しても同じことが起きます。
8|それでも許容できる会社と、そうでない会社
ここまで6つ書きました。判断のために、当社が実際に見ている線を出します。
許容しやすい会社
- 作業が定型的で、量が読める。イレギュラーが少なければ、5番の弱点が出にくい。
- 社内に、数字を見る人が1人いる(または置ける)。4番のデメリットがほぼ消えます。
- 引き継ぎに使える期間が3か月以上ある。2番の負荷を分散できます。
- 止まったときの復旧を、価格より重く見ている。外注の価値が出るのはここです。
いま出すと苦しくなる会社
- 経理担当者の退職まで1か月を切っている。引き継ぎ元がいない状態での立ち上げは、費用も期間も想定を超えます。
- 処理ルールが毎月変わる。事業の立ち上がり期はこの状態になりやすく、型が固まってからのほうが安く済みます。
- 月の仕訳が数十件しかない。工程を分ける手間のほうが大きくなります。この規模なら個人の方への委託か、社内で完結させるほうが素直です。
- 社内に窓口を置けない。誰も間に立たない外注は、現場からの質問が滞留して破綻します。
中小企業がどこから出すと失敗しないかの順番は中小企業の経理アウトソーシングに、そもそも採用と比べてどうかは経理担当を1人雇う vs 経理代行に書いています。
シメゴの場合
当社はBPO型で、業務を工程に分けて複数名で受けます。したがって立ち上がりは遅く、独自ルールをそのまま飲むのは苦手です。これは短所として先に申し上げています。
無料コスト診断では、いまの経理業務を工程に分けて、外に出す部分・社内に残す部分・そもそもやめてよい部分に仕分けたうえで概算をお返ししています。その結果、「いまは出さないほうがよい」「この規模なら社内で完結させたほうが安い」とお伝えすることもあります。上に書いた「いま出すと苦しくなる会社」に当てはまる場合は、その旨をお伝えして終わりにします。
まとめ
経理アウトソーシングのデメリットは、設計と契約で軽くできるものと、できないものに分かれます。
立ち上げ期の負荷、質問のしづらさ、イレギュラーの弱さは、進め方でかなり軽くなります。一方で、社内に数字を読める人が育たなくなることとやめるときのコストは、委託先を変えても消えません。前者は社内に見る人を1人置くこと、後者は契約時に手順書の帰属を決めること。どちらも御社側からしか手が打てない領域です。
検討段階でやるべきなのは、デメリットを消してくれる会社を探すことではなく、6つのうちどれが自社にとって痛いのかを先に決めることだと考えています。それが決まっていれば、見積の比較も契約書の確認も、見るべき場所が絞れます。
「いまは出さないほうがよい」も、そのままお伝えします。
いまの経理業務を工程に分けて、出す部分・残す部分・やめてよい部分に仕分けたうえで概算をお出しします。上に書いた条件に当てはまる場合は、その旨をお伝えして終わりにします。
無料コスト診断を受ける →※本記事は一般的な実務の整理であり、個別の会計処理・税務上の取扱いについて結論を保証するものではありません。委託先の体制・契約条件・料金・賠償の範囲は事業者により異なりますので、実際の判断は各社の提示内容と契約書をご確認ください。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士法第2条第1項に定める税理士の業務であり、当社では行いません。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。労働者派遣に該当する形での役務提供は行っておりません。