経理業務のアウトソーシング|業務単位で切るか、工程単位で切るか
経理業務のアウトソーシングを検討されている会社から見積依頼をいただくとき、依頼文にいちばん多く書かれているのは「経理業務を全般的にお願いしたい」という一行です。私はこの一行を読むと、金額を出す前に必ず打ち合わせをお願いしています。理由は単純で、この一行のままでは見積が出せないからではありません。出そうと思えば出せます。出せてしまうことのほうが問題なのです。
先に結論を書きます。経理業務のアウトソーシングで最初に決めるべきは、外注先でも金額でもなく「どの軸で業務を切るか」です。切り方には大きく2つあります。売掛管理・支払・給与といった業務単位で切るか、収集・入力・照合・承認・出力という工程単位で切るか。この2つは似て見えて、社内に残る仕事の量も、契約書の書き方も、事故が起きる場所もまったく違います。
この記事は「切る軸をどう選ぶか」という設計の話に絞っています。そもそも経理アウトソーシングとは何か、外注できる範囲や費用の考え方は経理アウトソーシングとはに、自社の経理業務の全体像を洗い出す手順は経理業務の一覧にまとめています。
そもそも「経理業務を全般的に」では見積の比較ができない
同じ「経理業務を全般的に」という依頼に対して、A社が月8万円、B社が月18万円と出してきたとします。多くの会社はここで「B社は高い」と判断されます。ですが実際に契約書の別紙を並べると、この差はサービスの質の差ではなく、引き受ける範囲の差であることがほとんどです。
典型的には、A社は「証憑を月末にまとめて受け取り、仕訳を入力し、試算表を返す」ところまで。B社は「請求書の発行、入金の消込、支払データの作成、そのうえで仕訳と月次レポート」まで。A社の見積の外側に置かれた作業は、消えたわけではなく社内に残っています。担当者の残業時間として残るので、月次の請求書には出てきません。
ですので、相見積を取る前に自社側で軸を決めておく必要があります。軸が決まっていれば、各社の見積は同じ土俵に並びます。決まっていないと、各社が自分の得意な範囲で線を引いた見積が集まり、いちばん狭く切った会社がいちばん安く見えます。
切り方は2つある
業務単位で切る(機能で切る)
「売掛管理は丸ごと外へ」「給与は丸ごと外へ」というように、業務のかたまりごと渡す切り方です。渡すものが日本語で説明しやすく、社内の会話でも通じます。「請求のことは外に出したから、そちらで見てください」で済みます。
工程単位で切る(処理の段階で切る)
どの業務についても、処理の流れはおおむね収集 → 入力 → 照合 → 承認 → 出力の5段階に分解できます。このうち、入力と照合だけを外に出す。承認は社内に残す。収集は仕組みで自動化する。こういう切り方です。業務のかたまりは崩れますが、会社の判断が必要な工程だけを正確に社内へ残せます。
| 業務単位で切る | 工程単位で切る | |
|---|---|---|
| 渡し方 | 売掛・支払・給与などをかたまりで渡す | 入力・照合など段階で渡す |
| 社内の理解 | 説明しやすい | 最初は説明しにくい |
| 事故が起きる場所 | 業務と業務のつなぎ目 | 承認の前後(情報の往復) |
| 効果が出るまで | 早い(渡した業務はその月から消える) | やや遅い(工程の定義が要る) |
| 向いている会社 | 特定業務だけが突出して重い会社 | 広く薄く時間を取られている会社 |
| 属人化への効き方 | その業務ごと外に出るので効く | 判断の理由が言語化されるので効く |
業務単位で切ったときの落とし穴は「つなぎ目」
業務単位はわかりやすいのですが、経理の業務は一つひとつが独立していません。売掛管理と入金消込は別の業務名で呼ばれますが、実務では同じ台帳を見ています。給与計算と給与仕訳も同じです。ここを別々の相手に、あるいは片方だけ外に出すと、つなぎ目の作業が誰の担当でもなくなります。
私たちがよく引き受け直すのは、次のような宙に浮いた作業です。
- 入金額が請求額と一致しないときの調査。 振込手数料の負担、複数請求のまとめ入金、一部入金。請求書の発行だけを出すと、この照合が社内に残ります。詳しくは入金消込に整理しました。
- 支払を止めるかどうかの連絡。 検収が終わっていない請求書を、支払データに入れるか外すか。これは購買の情報で、経理の外側にあります。
- 給与から会計への橋渡し。 預り金の残高、社会保険料の会社負担分の月ズレ。給与だけを別会社に出すと、毎月ここでメールが往復します。
つなぎ目で止まるという構造そのものは、外注していない会社でも同じです。社内の業務フローが止まる場所も同じくつなぎ目なので、経理業務フローの作り方のほうにも詳しく書きました。業務単位で切るなら、業務そのものより先に、業務と業務の間にある確認作業を書き出してください。そのリストが、見積書の別紙にそのまま入るべきものです。
工程単位で切ったときの落とし穴は「承認」
工程で切ると、たいていの会社は承認を社内に残します。これは正しい判断です。支払を実行してよいか、この経費を認めるかは会社の意思決定であって、外に出すものではありません。
問題は、承認だけを残すと承認者の手元に判断材料が届かなくなることです。今までは担当者が請求書の現物を見ながら「これは先月の続きです」と口頭で補足していました。工程を分けた瞬間、その補足が消えます。結果として、承認者が「これ何だっけ」と問い合わせ、外注先が調べて返し、また承認する、という往復が生まれます。往復1回あたりは数分でも、月に何十件も起きると、外注前より遅くなります。
ここを設計で潰すなら、方法は3つです。
- 承認画面に必ず添付を出す。 クラウド会計・ワークフローのどれを使うにせよ、承認者が請求書の画像を見ずに押せる状態にしない。
- 承認の締切を月次カレンダーに入れる。 「随時」にすると必ず滞留します。私たちは「毎週◯曜の午前中」のように曜日で固定することをお願いしています。
- 例外の扱いを先に決める。 承認が下りないまま支払日が来たらどうするか。止めるのか、翌週に回すのか。ここを決めていないと、判断が毎回上に上がります。
実務での順番は「工程で切ってから、業務で束ねる」
では結局どちらか、という話ですが、私たちがお勧めしている順番はこうです。
まず全業務を工程で分解して、承認と判断がどこにあるかを特定する。そのうえで、外に出す工程を業務のかたまりで束ねて契約する。
理由は、この順番だと契約の書き方が変わるからです。業務名だけで契約すると、別紙には「売掛金管理業務」としか書けません。工程で分解してから束ねると、「請求書の発行(毎月◯日までに当社へ請求データを提供いただき、◯営業日以内に発行)/入金消込(銀行明細の連携により当社が実施、不一致分は一覧にして貴社へ報告)/督促の要否判断(貴社)」と書けます。誰が・いつまでに・何を渡し・何を返すかが書いてある契約書は、揉めません。
もう一つの理由は、この分解作業そのものが引き継ぎ資料になることです。経理の引き継ぎで渡っていないのは手順ではなく判断の理由だ、というのは別の記事にも書きましたが、工程で分解すると「なぜこの順でやっているのか」を説明せざるを得なくなります。外に出す準備の副産物として、社内の運用が言語化されます。担当者が1人しかいない会社ほど、ここに価値があります。
どちらの軸でも、最初に出すべきは同じ場所
切る軸が決まったら、次は順番です。全部を一度に出すのは、規模にかかわらずお勧めしていません。最初の1〜2か月は、こちらが会社の実態を覚える期間になるからです。
最初に出す業務を選ぶ基準は、「量が多くて、判断が少ないもの」です。この条件に当てはまるのは、たいていの会社で次のあたりになります。
| 候補 | 量 | 判断の量 | 最初に出す適性 |
|---|---|---|---|
| 証憑の入力・仕訳 | 多い | 少ない(規程どおり) | 高い |
| 入金消込 | 多い | 少ない(不一致だけ返す) | 高い |
| 経費精算のチェック | 多い | 中(規程の解釈が要る) | 中 |
| 支払データの作成 | 中 | 少ない(承認済のみ) | 中 |
| 与信・督促の判断 | 少ない | 多い | 低い(社内に残す) |
| 予算差異の説明 | 少ない | 多い | 低い(社内に残す) |
逆に、いちばん重いところから出したいという要望もよくいただきます。気持ちはわかるのですが、いちばん重い業務はたいていいちばん判断が多い業務です。そこから出すと、質問の往復で初月が終わります。
シメゴの考え方と、正直に申し上げておくこと
私たちは工程で切ることを勧めていますが、これは私たちに都合がよいからではありません。むしろ逆で、工程で切ると「社内に残すべき」と申し上げる範囲が増えます。与信、督促の判断、支払の承認、予算差異の説明。これらは外に出しても会社の負担が減らないので、見積に入れません。
そのうえで、3つお伝えしておきます。
- 外注しても、経理の担当者はゼロにはなりません。 承認と、社内からの一次問い合わせの窓口は残ります。私たちの経験では、戻るのは入力・照合・集計にかかっていた時間で、それ以上は約束できません。判断の材料をどう揃えるかはメリット・デメリットの記事にも整理しています。
- 証憑がまだ紙で、月末にまとめて出てくる会社では、工程で切っても効果が出ません。 収集の工程が詰まっているからです。この場合は、外注より先に受け取り方を変えることをお勧めしています。
- 税務申告書の作成・提出の代理は税理士の業務です。 私たちが行うのは記帳と月次までで、申告は顧問税理士の先生にお願いする形になります。相見積を取るときは、この境界がどこに引かれているかを各社に確認してください。
まとめ
経理業務のアウトソーシングは、外注先を選ぶ前に自社で軸を決める仕事です。業務単位で切るなら、業務と業務のつなぎ目にある確認作業を先に書き出す。工程単位で切るなら、承認者に情報が届く導線を先に作る。どちらの落とし穴も、契約してから気づくと修正に数か月かかります。
実務でうまくいっているのは、工程で分解して判断のありかを特定し、そのうえで外に出す部分を業務で束ねて契約する順番です。契約書の別紙に「誰が・いつまでに・何を渡し・何を返すか」が書けていれば、その外注はほぼ成功します。
いまの経理業務を工程に分解すると、どこに何時間かかっていて、そのうち何時間が外に出せる部分なのか。無料コスト診断では、この切り分けを一覧にしてお返しします。社内で回したほうが早いという結論になるなら、そのようにお伝えします。
※本記事は一般的な実務の整理であり、個別の法令解釈・税務上の取扱いを保証するものではありません。税務申告書の作成・提出の代理は税理士の業務です。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行・事務代理は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。料金・業務範囲は各社の契約内容によって異なりますので、実際のご検討にあたっては各社の契約書面をご確認ください。