経理を外に出したあと、社内に誰を残すか|窓口・承認・締めの3役を決めないと戻ってくる
「契約は済んだのですが、社内で誰がどう受ければいいのかが決まっていなくて」。稼働の直前や、始まって2〜3週間たったころに、この形のご相談をいただくことがあります。委託先は決まっている。金額も合意している。それでも動き出しが重い。原因は、出す側の受け方が設計されていないことにあります。
先に、当社にとって都合の悪いことから書きます。経理のアウトソーシングがうまくいかない原因は、代行会社の力量よりも、出した側の体制にあることのほうが多いというのが、実務での実感です。委託先を変えても同じことが起きるなら、原因は委託先の側にはありません。
この記事では、外に出したあとに社内へ必ず残る3つの役割(窓口・承認・締め)の中身と、それを1人に寄せてよい会社・分けたほうがよい会社の線引き、そして稼働1〜3か月目に実際に起きることを書きます。
この記事は「契約後、社内の受け方をどう決めるか」に絞っています。どこまで任せられるかという業務範囲の話は経理は「丸投げ」できるかに、出したあとに残る不便そのものは経理アウトソーシングのデメリットに、そもそも出すべきかの判定は経理アウトソーシングを入れる基準に分けて書いています。
1|先に結論|「丸投げ」で消えるのは手間であって、役割ではない
経理を外に出すと、入力・照合・資料作成といった手を動かす仕事は社外へ移せます。一方で、次の3つは会社の側に残ります。移せないのではなく、移すと会社が回らなくなる種類の役割です。
| 残る役割 | やること | 置かないと何が起きるか |
|---|---|---|
| 窓口 | 資料を渡す、質問に答える、社内から情報を集める | 質問が各部署へ直接飛び、答えが返らず作業が止まる |
| 承認 | 支払・仕訳の例外・締め後の修正を承認する | 誰も承認しないまま支払日が来る/代行側が判断を代行してしまう |
| 締め | 月次の期限を握り、遅れの理由を潰す | 試算表の提出日が毎月ずれ、数字が経営判断に間に合わない |
この3つを誰がやるかを決めずに稼働すると、結局いちばん詳しい人(=これまで経理をやっていた人)のところへ全部が戻ります。外に出したのに、その人の負荷が減らない。減らないので「外注は効かない」という結論になる。これが、私たちが最もよく見る失敗の形です。
2|3つの役割の中身
窓口|「社内から情報を集める人」であって、経理ができる人ではない
窓口の仕事は、経理の知識より社内で人に頼めることのほうが重要です。代行会社から来る質問の大半は、経理の論点ではなく事実の確認だからです。「この振込は何の入金か」「この請求書は誰が発注したものか」「この経費の相手先はどこか」。これらは会計の知識では答えられません。営業や現場に聞くしかない。
ですから窓口に向いているのは、簿記の資格を持っている人ではなく、社内の誰に聞けばよいかを知っていて、催促できる立場の人です。管理部門の実務担当者、総務の主任、規模の小さい会社なら社長ご本人でも構いません。
窓口を置かないとどうなるか。代行会社が各部署へ直接聞きにいくことになります。現場からすると外部の会社から質問が来る形になり、返信の優先度が下がります。返ってこないので処理が止まり、月末にまとめて滞留が出ます。この不便自体は窓口を置いても完全には消えません(デメリットの記事にそう書いています)。ただ、窓口があると「止まっていること」が見えるようになります。それが決定的な差です。
承認|出せないのは作業ではなく、決めることです
承認は会社に残ります。ここは業務範囲の問題ではなく、社内統制の問題です。最低限、次の3つは社内で承認者を決めてください。
- 支払いの実行承認。 支払データを代行会社が作り、承認と実行は社内が行うのが基本形です。作る人と実行する人を分けることが、そのまま牽制になります。
- 仕訳の例外承認。 判断が割れる取引(新しい種類の費用、勘定科目の変更、資産か費用かの区分など)は、代行会社が仮に置いたうえで社内が追認する形にします。追認する人がいないと、その仮置きが翌年以降の前例になります。
- 締め後の修正承認。 一度締めた月を直すときは、誰の承認で直すかを決めておきます。ここが曖昧だと、締めた数字が後から動きます。
金額の基準は会社によりますが、決め方は共通です。「1件いくらまでは窓口が承認、それを超えると役員」のように、金額と承認者を対で書き出してください。この1行があるだけで、代行会社は迷わずに動けます。
締め|期限を握る人がいないと、月次はいくらでも遅れます
3つ目が締めです。これは「経理をやる」役割ではなく、期限を守らせる役割です。月次の締めが遅れる原因は、たいてい経理の外側にあります。請求書が回ってこない、経費精算が出てこない、通帳の記帳が間に合わない。代行会社は社内の人に催促できません。できるのは「これが来ていません」と伝えるところまでです。
したがって、締めの役は社内の期限を動かせる人である必要があります。実務では、ここだけは経営に近い人(管理部門長、役員、社長)が持つほうが早く固まります。締めが遅れる構造の潰し方そのものは月次決算の早期化に工程別で書いていますので、あわせてご覧ください。
3|3役を1人に寄せてよい会社、分けたほうがよい会社
「3人も出せません」というご相談は多いです。結論から言うと、1人が兼ねてよい会社と、兼ねると危ない会社があります。分かれ目は人数ではなく、支払いの権限がどこにあるかです。
| 状況 | 推奨する置き方 | 理由 |
|---|---|---|
| 従業員10名未満、支払いは社長が実行 | 窓口と締めを1人(社長でも可)/承認は社長 | 実質2役。人を増やすより、社長が支払承認を手放さないことのほうが効きます |
| 管理部門に1〜2名いる | 窓口+締めを管理部門の1名/承認は役員 | 作る側と承認する側が分かれていれば、兼務は問題になりにくい配置です |
| 拠点や事業部が複数ある | 窓口を各拠点に1名ずつ/締めと承認は本社 | 情報を集める役だけは現場に置かないと、質問の往復が倍になります |
| これまで経理担当者1名に全部が集中していた | 窓口とその人を分ける | 同じ人に窓口を持たせると、外注前と同じ状態が再現します |
最後の行だけ補足します。属人化していた会社ほど、「詳しいから」という理由でその人を窓口に置きたくなります。ところが、そうするとその人しか答えられない状態が温存されます。外注の目的が属人化の解消なら、窓口はあえて別の人に置き、詳しい人には「最初の3か月だけ後ろで補助してもらう」という形をおすすめしています。属人化そのものの解き方は経理の属人化に書きました。
4|稼働1〜3か月目に、実際に起きること
受け入れ体制の話が抽象的になりやすいので、時系列で書きます。ここを知らずに始めると「思っていたより大変だ」となり、体制がないまま社内の負荷だけが上がります。
| 時期 | 起きること | 社内でやること |
|---|---|---|
| 稼働前〜1か月目 | 質問がいちばん多い時期。過去の処理の意図を聞かれます | 窓口が回答を集約。答えた内容をその都度メモに残す(これが後の判断基準になります) |
| 2か月目 | 質問が減り、例外だけが残ります | 例外の一覧をつくり、承認者と金額基準を決める |
| 3か月目 | 定例化。ここで初めて社内の手間が下がります | 締めのカレンダーを固定し、遅れの原因が経理の外側か内側かを切り分ける |
1〜2か月目は、外注前より社内の手間が増えます。 これは失敗ではなく、正常な立ち上がり方です。ただし、その負荷を誰が引き受けるかを決めていないと、この時期に「やっぱり自分でやったほうが早い」という結論になり、体制が固まる前に戻ってしまいます。
1か月目のメモを軽く見ないでください。過去の処理を「なぜそうしていたか」まで書き残せるのは、たいていこの時期が最後です。渡すべきものが手順ではなく判断の理由である、という話は経理の引き継ぎに詳しく書いています。担当者が退職して外注に切り替える場合は、退職日より前にこの作業を終えてください。
5|決裁に出せる役割表の形
ここまでを1枚にすると、次の表になります。稼働前に埋めて、代行会社にもそのまま共有してください。空欄のまま始めた行が、そのまま最初の1か月でつまずく場所になります。
| 項目 | 社内の担当(氏名・役職) | 代替(不在時) |
|---|---|---|
| 窓口(質問の受け答え・資料の受け渡し) | ||
| 社内から情報を集める(請求書・経費・契約) | ||
| 支払いの承認(◯円未満) | ||
| 支払いの承認(◯円以上) | ||
| 支払いの実行(振込操作) | ||
| 仕訳の例外・新しい科目の承認 | ||
| 締めの期限管理/遅れの督促 | ||
| 締め後の修正の承認 | ||
| 月次報告を受け取り、経営判断に使う人 | ||
| 通帳・カード・印章の管理 | ||
| 会計データの名義・アカウント管理 | ||
| 証憑の保管場所と保存の形(紙/電子) |
下の2行は、始めるときには誰も気にしませんが、やめるときに必ず効きます。会計データの名義が自社にあるか、証憑がどこにあるか。ここが代行会社側に寄っていると、乗り換えの自由度が下がります(経理代行の乗り換え)。電子で保存する場合の要件は電子帳簿保存法への対応に整理しています。
6|受け入れ側でよく見る失敗、4つ
- 窓口を決めずに「みんなで対応」にする。 質問の宛先が定まらず、誰も自分の担当だと思わなくなります。人数の多寡ではなく、名前を1つ書くかどうかの問題です。
- 承認を代行会社に事実上まかせてしまう。 「いつもどおりでお願いします」を繰り返すと、判断が社外に移ります。作業は外に出せますが、決めることは出せません。
- 期限を「月末までに」とだけ決める。 月次の締めは工程が連なっているので、最後の期限だけを決めても守れません。誰が何日までに何を出すか、の形まで割ってください。
- 立ち上げ期の負荷を、外注前と同じ人に全部乗せる。 いちばん詳しい人が窓口と締めを兼ね、通常業務も持ったままだと、3か月目まで到達する前に止まります。
なお、範囲の切り方そのものが曖昧なまま稼働すると、この体制表も埋まりません。範囲と金額の詰め方は見積書の読み分けに、出す先の型ごとの違いは個人か・事務所か・BPOかに書いています。
もうひとつ、役割表を埋める前に片づかないことがあります。現担当者が外注そのものに反対している場合です。この状態で役割表を渡すと、窓口も承認も引き受けてもらえません。反対の中身は雇用への不安・品質への不信・情報漏えいの懸念の3つに割れ、それぞれ答え方が違います。割り方と、誰にどの順で伝えるかは経理を外に出すと決めたあと、社内をどう通すか|現担当者への伝え方と、反対の中身の見分け方に書きました。反対している人を検収する側に置けると、この3役はむしろ埋まりやすくなります。
シメゴの場合と、正直に申し上げること
当社では、稼働前に上の役割表を一緒に埋めるところから始めています。そのうえで3つお伝えします。
- 窓口が置けない会社では、当社の月次は速くなりません。 当社が期限を守れるのは、質問の返答が返ってくることが前提だからです。社内の返答が滞る会社では、金額に見合う速さが出ません。その場合は正直にそう申し上げます。
- 支払いの実行はお客様側に残していただいています。 当社が代わりに振り込むほうがご負担は軽くなりますが、作る側と実行する側は分けておくべきだと考えているためです。
- 立ち上げの1〜2か月は、社内の手間が増えます。 減るのは3か月目からです。ここを短く見せるご案内はしていません。
まとめ
経理を外に出したあと、社内に残るのは窓口・承認・締めの3役です。手を動かす仕事は移せますが、この3つは移せません。移そうとすると、判断が社外に出るか、あるいは全部が「いちばん詳しい人」に戻ります。
3役は必ずしも3人でなくて構いません。分かれ目は人数ではなく、支払いを作る人と実行する人が分かれているかです。そして、これまで経理を1人で抱えていた会社ほど、窓口はその人以外に置いてください。
稼働前に役割表の空欄を埋めておけば、立ち上げの1〜2か月は乗り切れます。逆に、空欄のまま始めた行が、そのままつまずく場所になります。無料コスト診断では、いまの業務量の整理とあわせて、この役割表を埋めるところまでをお返ししています。埋めてみた結果「まだ出さないほうがよい」となれば、そうお伝えします。
稼働前に、社内に残す3役を一緒に決めるところからお手伝いします。
いまの業務量の棚卸しと、窓口・承認・締めの役割表の作成までをお返しします。出さないほうがよいという結論でも構いません。
無料コスト診断を受ける →※本記事は一般的な実務の整理であり、個別の契約条件や社内統制の適否を保証するものではありません。承認権限・職務分掌の設計は会社の規模や内部統制の要請によって異なりますので、実際の運用にあたっては自社の規程および顧問の専門家にご確認ください。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士法第2条第1項に定める税理士の業務であり、当社では行いません。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。