経理アウトソーシングを入れる基準|自社で回るかどうかを、5つの数字で判定する
「うちは外に出すべき規模なんでしょうか」。初回のご相談で、いちばん多い質問です。そして私(浅香)が答えに困る質問でもあります。会社の規模だけを聞いても、判断できないからです。
「経理が忙しいから」「人件費が高いから」は、外注を入れる理由にはなりますが、基準にはなりません。忙しさは人によって感じ方が違い、人件費が高いかどうかは比べる相手が要ります。基準というのは、誰が測っても同じ答えが出るものを言います。
この記事では、外に出すかどうかを判定するための測れる数字を5つ置きます。金額の比較——経理担当を1人採用した場合と代行を入れた場合で総コストがどう並ぶか——は経理担当を1人雇う vs 経理代行に書いてありますので、そちらは重複させません。ここで扱うのは、金額を比べる前に「そもそも動くべきか」を決める線です。
1|先に結論|判定の軸は「高いかどうか」ではなく「止まるかどうか」
外注を入れて効果が出た会社と、入れたのに変わらなかった会社を並べると、分かれ目は費用の水準ではありませんでした。止まるリスクを抱えているかどうかです。
経理が止まるというのは、担当者が休んだ日に振込が出せない、月次が締まらない、税理士に渡す資料が揃わない、といった状態を指します。これが起きる会社は、コストの話をする前に構造の話をしたほうが早い。逆に、担当者が2人いて手順書もあり、休んでも回る会社は、月額を払っても得られるものが限られます。
ここで言う「止まる」は、事故が起きてからしか見えない性質のものです。だから、起きる前に測れる数字に置き換える必要があります。次章の5つは、そのための代理指標です。
2|判定に使う5つの数字
当社が初回の面談で必ず伺う5項目です。所要は合わせて15分ほどで、社内でも測れます。
| # | 測るもの | 測り方 | 外注を検討する側に倒れる目安 |
|---|---|---|---|
| ① | 月の仕訳件数 | 会計ソフトで直近3か月の仕訳を出し、平均を取る | 月300件を超えている/または前年より2割以上増えた |
| ② | 締めから試算表が出るまでの日数 | 月末から、経営者が数字を見られる日までの営業日数 | 10営業日を超えている |
| ③ | 経理を触れる人の数 | 仕訳を切れる・振込データを作れる人が何人いるか | 1人(兼務の役員だけ、も1人と数える) |
| ④ | 転記の割合 | 経理の作業時間のうち、判断のない入力・突合・ファイリングが占める割合 | 7割を超えている |
| ⑤ | 止まるまでの日数 | 担当者が今日から出社できないとして、実務が滞るまでの日数 | 5営業日以内に滞る |
①だけが規模の指標で、残りの4つは構造の指標です。規模が小さくても②〜⑤が悪い会社はあり、その場合は外注の効果が出ます。逆に、件数が多くても②〜⑤が健全なら、急いで出す必要はありません。「規模で決める」という考え方が当たらないのは、このためです。
①の数え方に注意
仕訳件数は、会計ソフトの仕訳帳の行数をそのまま使ってください。ここで「うちは取引が少ないから」と体感で答える会社ほど、実際に数えると多い傾向があります。経費精算と少額の立替が積み上がっているためです。業務ごとの棚卸しの手順は経理業務の一覧にまとめました。
④は、記録より先に見取り図で足りる
厳密に時間を計測する必要はありません。1週間、作業を終えるたびに「判断あり/判断なし」の2つに丸をつけるだけで、割合は十分に見えます。判断なしが7割を超えているなら、その7割は工程として外に出せる形になっています。どこまで出せるかの線引きは経理の丸投げはどこまで可能かに書きました。
3|いくつ当てはまったら動くか
5つのうち、目安に該当した数で見ます。当社が面談で使っている線です。
| 該当数 | 状態 | 次にやること |
|---|---|---|
| 0〜1 | 自社で回っている | 外注は不要。件数が増えたときのために、②と⑤だけ半年ごとに測り直す |
| 2〜3 | 片方に寄っている | 該当した項目が「規模側(①④)」か「構造側(③⑤)」かで打ち手が変わる。次章 |
| 4〜5 | 止まる前提で設計されていない | 採用か外注かを決める段階。金額の比較に入ってよい |
2〜3のときが、いちばん判断が割れます。ここで大事なのは、該当した項目の種類を見ることです。
- ①④が該当(規模側)——量が増えて手が足りない状態です。外注か、ツールでの自動化か、どちらでも効きます。件数そのものを減らす方向は経理のコスト削減に書いた順番が使えます。
- ③⑤が該当(構造側)——量ではなく、代わりがいないことが問題です。ここはツールでは解けません。人を増やすか、外に出すかの二択になります。ひとり経理の会社が最初に何から出すかは中小企業の経理アウトソーシングにまとめました。
- ②だけが該当——締めが遅いだけなら、まず原因を切り分けてください。資料が集まらないのか、集まってから作業が遅いのか。前者は外注では解けません。
4|「社員を1人採る」との分かれ目は、金額では出ない
4〜5に該当して、いよいよ採用か外注かという段になったとき、金額を並べても答えは出ません。総コストの比較は経理担当を1人雇う vs 経理代行に置きましたが、実務で分かれ目になるのは金額の外にある次の3点です。
(1) 判断を社内に置きたいか
採用でしか解けないのは、会社の事情を踏まえた判断を、その場で下せる人を社内に置くことです。値引きの承認、支払いの優先順位、資金の見通し。これらは外に出せません。判断の頻度が高い会社は、外注だけで組むと確認のやり取りが増えます。
(2) 業務量が読めるか
採用は固定費で、外注は基本的に量に応じた費用です。季節で山谷が大きい会社ほど、外注のほうが総額を抑えやすい。逆に、量が安定していて年間を通じてフルに働く量があるなら、採用のほうが単価は下がります。
(3) 採れるか
これが実務で最も効きます。経理の経験者は、求人を出せば採れるとは限りません。採用に3か月かかり、入社後に立ち上がるまでさらに3か月かかるなら、その半年をどう回すかを先に決める必要があります。採用中の半年だけ外注を入れる、という組み方も現実的です。人手不足の実情は経理の人手不足に書きました。
5|基準を満たしていても、出さないほうがよい3つの場合
当社にとって不利なことも書いておきます。5つのうち4つ以上が該当していても、次の状態のときは外注をお勧めしていません。
(1) 業務のやり方が、まだ決まっていない
勘定科目の付け方、締め日の定義、承認のルート。これらが決まっていない状態で外に出すと、外注先からの質問が止まりません。決まっていないものは、外に出しても決まらない。先に決めるべき項目は経理マニュアルの作り方の手順で洗い出せます。
(2) 今期中に事業の形が変わる予定がある
新規事業の立ち上げ、拠点の統廃合、会計システムの入れ替え。変わる直前に外に出すと、変わった直後に引き継ぎをやり直すことになります。変更が済んでから出したほうが、結果として早い場合が多いです。
(3) 担当者に話していない
経理担当に相談しないまま外注の検討を進めると、決まる前に辞められることがあります。実際にありました。外注は担当者を減らすためではなく、担当者が休める形にするために入れる——この説明を先にしていないと、そう受け取ってもらえません。引き継ぎの設計は経理の引き継ぎにまとめました。
6|基準の測り方(1週間でできる手順)
面談の前に社内で測っておくと、話が具体的になります。順番はこの通りです。
- 初日——会計ソフトから直近3か月の仕訳帳を出し、行数を数える(①)。あわせて過去3か月分、月末から試算表が出た日までの営業日数を数える(②)。
- 初日——仕訳を切れる人・振込データを作れる人を、名前で書き出す(③)。兼務でも1人と数えます。
- 2〜6日目——経理の作業が終わるたびに、「判断あり/判断なし」に丸をつける(④)。件数でよく、時間は測らなくて構いません。
- 7日目——担当者に「今日から2週間休むとしたら、何日目に何が止まりますか」と聞く(⑤)。この質問は、担当者自身がいちばん正確に答えられます。
この5つが揃うと、外注先との会話が「いくらですか」から「この工程は出せますか」に変わります。見積の精度は、渡す情報の精度で決まります。料金の内訳の見方は経理代行の料金相場に整理しました。
7|基準として使われがちだが、当たらない3つ
「経理の人件費が売上の◯%を超えたら」
比率は業種と粗利率で大きく変わります。同じ比率でも、卸と受託開発では意味が違う。比率は結果を説明する数字であって、判断の入口には向きません。
「従業員が◯人を超えたら」
従業員数と経理の負荷は連動しません。人数が少なくても、拠点が分かれている、外貨の取引がある、雇用形態が複数ある会社は、仕訳も判断も増えます。人数ではなく、①の仕訳件数で見てください。
「同じ規模の会社が使っているから」
他社の判断は、他社の②〜⑤に基づいています。見えている規模だけが同じでも、構造は違う。ここを揃えずに真似ると、効果が出ないまま月額だけが残ります。出したあとに社内で起きることは経理アウトソーシングのデメリットに隠さず書きました。
8|「まだ早い」と判定された会社が、次にやること
該当が0〜1で外注が不要だった会社にも、やっておくと効くことがあります。③と⑤だけは、放っておくと悪化する種類の指標だからです。
- 仕訳の切り方と締めの手順を、1枚のメモにしておく。完成度は問いません。
- 振込データを作れる人を、もう1人つくる。実行の権限は渡さず、作成だけで構いません。
- 月に1度、担当者以外が試算表を開いて、前月との差が説明できるか確かめる。
この3つは、外注する日が来たときの引き継ぎ資料にもなります。属人化がどう進むかは経理の属人化に書きました。
シメゴの場合
当社の初回面談は、見積を出す場ではなくこの5つを一緒に測る場にしています。該当が0〜1だった場合は、その旨をお伝えして終わりにします。実際、直近でも「いまは不要」とお答えした会社があります。無理に入れても、翌年に解約されるだけだからです。
該当が2〜3の場合は、全部を出す提案はしません。④で「判断なし」に丸がついた工程だけを切り出し、月次の一部から始める形をご提案しています。小さく始めたほうが、社内の受け入れ体制を作りながら広げられます。受け入れ側で決めることは経理の外部委託にまとめてあります。
誠実にお伝えしておくと、当社に頼んでも②の日数は最初の2〜3か月は縮みません。むしろ、資料の受け渡しが増える分だけ社内の手数は一時的に増えます。縮み始めるのは、質問が減って手順が固まってからです。ここを最初にお伝えしないまま始めると、2か月目に「遅くなったのでは」という話になります。
基準を満たして「動く」と判定したら、次は何から決めるかです。範囲・社内に残す役・費用の比べ方・頼み先の型・始める月を、後戻りしない順番に並べたのが経理アウトソーシングは、何から決めると後戻りしないかです。
まとめ
経理を外に出す基準は、金額ではありません。仕訳件数・試算表までの日数・触れる人数・転記の割合・止まるまでの日数の5つを測り、いくつ該当するかで見ます。
0〜1なら不要、4〜5なら採用か外注かを決める段階です。分かれ目の2〜3では、該当したのが規模側(①④)か構造側(③⑤)かを見てください。構造側はツールでは解けません。
そして、該当数が多くても、業務のやり方が決まっていない会社・今期に事業の形が変わる会社・担当者に話していない会社は、先にそちらを片付けたほうが結果として早く終わります。外注は、決まっているものを外に出す仕組みであって、決めてくれる仕組みではありません。
まず、5つの数字を一緒に測るところからで構いません。
仕訳件数・試算表までの日数・触れる人数・転記の割合・止まるまでの日数をうかがい、該当数と、外注が効く工程・効かない工程を仕分けてお返しします。いま入れるべきでないと見立てた場合は、その旨をお伝えして終わりにします。
無料コスト診断を受ける →※本記事は一般的な実務の整理であり、個別の経理体制や外注の可否について結論を保証するものではありません。本文中の目安の数値は、当社が受託の面談で用いている判断の目安であり、業種・取引形態によって適切な水準は異なります。※税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士法第2条第1項に定める税理士の業務であり、当社では行いません。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。労働者派遣に該当する形での役務提供は行っておりません。