中小企業の経理アウトソーシング|ひとり経理の会社が最初に出すべき業務
中小企業から経理のアウトソーシングをご相談いただくとき、会社の形はだいたい2つに分かれます。経理の担当者が1人だけの会社か、社長やそのご家族が本業の合間に経理をやっている会社です。どちらも、社内に経理の話が通じる相手がもう1人いないという点では同じ状態にあります。この記事では、その状態をまとめて「ひとり経理」と呼びます。
そして、ほぼ必ず同じ質問をいただきます。「何から出すのがいいですか」。
この質問には一般解がありません。最初に出すべき業務は、その会社が何を買おうとしているかで逆になるからです。時間を返してほしいのか、止まらない状態を作りたいのか。ここが決まっていないまま「いちばん面倒な仕事」から出すと、たしかに手は空くのに、いちばん怖かったことは何ひとつ解決しないまま1年が過ぎます。
この記事はひとり経理の会社が「最初に出す業務」をどう決めるかだけに絞っています。外注できる業務の範囲や費用の全体像は経理アウトソーシングとはに、日次・月次・年次でどんな仕事があるかの一覧は経理業務の一覧に、人を1人雇う場合との総コスト比較は経理担当を1人雇う vs 経理代行に整理しています。
ひとり経理の問題は「忙しい」ではなく「代わりがいない」
ひとり経理の会社で起きていることを、症状ではなく構造で書きます。
まず、忙しさそのものは、実はそこまで大きな問題になっていないことが多いです。月末月初の数日と、決算期と、年末調整の時期に山が来て、それ以外はどうにか回っている。だから会社としては「困っているといえば困っているが、いま何かを変えるほどではない」という位置に落ち着きます。
本当の問題は別のところにあります。その業務を判定できる人が社内に1人しかいないということです。具体的には、次の3つの形で表れます。
- 休みが「消える」のではなく「後ろにずれる」。 ひとり経理の担当者が3日休んでも、経理は止まりません。戻ってきた日に3日分がまとめて乗るだけです。つまり、休んだ分の負荷は本人に返ってきます。有給が取りにくいのはこのためで、制度の問題ではありません。
- 合っているかどうかを、本人以外が判定できない。 試算表が出てきても、社長は数字の大小は見られますが、その数字が正しいかどうかは見られません。二重チェックが機能していないのではなく、チェックできる人が構造的にいない状態です。
- 辞めるときは、全部が同時に出ていく。 業務が分かれていれば引き継ぎも分割できますが、ひとり経理の場合は記帳も支払も給与も年次の手続きも、同じ1人の頭の中にあります。1か月の引き継ぎ期間では、たいてい年に一度の仕事が渡りません。
ここが分かると、次の判断がしやすくなります。ひとり経理の会社が経理を外に出す本当の目的は、人件費の削減ではなく「1人を2人にすること」です。そして2人にする方法として、採用ではなく外注を選ぶ、という順番になります。
時間を返したいのか、止まらなくしたいのか
目的が2つあると書きました。この2つは、最初に出す業務が違います。
| 目的 | 最初に出す業務 | 効果が見えるまで | この目的が合う会社 |
|---|---|---|---|
| 時間を返す | 記帳、経費精算の入力、証憑の整理 | 1〜2か月 | 担当者が残業している。総務や営業事務と兼務していて本業が押されている |
| 止まらなくする | 支払データの作成、請求書の発行、給与計算 | 3〜4か月 | 担当者の退職・産休・介護の可能性が見えている。あるいは社長自身が経理をやっている |
多くの会社は、上の段から始めます。それ自体は正しい判断です。記帳は渡しやすいのです。判断が要る場面が比較的少なく、資料さえ渡せば成立し、成果が試算表という形で目に見えます。外注の入口としてはいちばん失敗が少ない業務です。
ただし、記帳を出しても担当者が休んだ日に困ることは、1つも減りません。記帳は社内の締め日に間に合えばよい仕事で、3日遅れても社外の誰にも迷惑がかかりません。会社が本当に怖がっているのはそこではないはずです。
日付が社外で決まっている業務から二重化する
私が順番を考えるときの基準はこれです。その業務の期限を、社外の誰かが決めているかどうか。
| 期限を決めているのは | 業務 | 遅れたときに起きること |
|---|---|---|
| 社外 | 買掛金の支払(振込期日)、請求書の発行(取引先の締め日)、給与計算(支給日)、源泉所得税や社会保険料の納付 | 取引先・従業員・行政に直接影響が出る。延滞や信用の問題になり、社内の調整では吸収できない |
| 社内 | 記帳、月次締め、試算表の作成、経費精算、予実の集計 | 数日ずれても社外に影響はない。困るのは経営判断の材料が遅れることで、後から取り返せる |
ひとり経理の会社で本当に危ないのは、上の段が1人に集中していることです。振込の期日と給与の支給日は動かせません。担当者がインフルエンザで1週間寝込んだ週に、たまたま25日が入っていたらどうなるか。ここに「代わりに動ける人」がいない状態が、ひとり経理のいちばん高いリスクです。
ですので、退職や休職の可能性が少しでも見えている会社には、記帳より先に支払と請求の側から二重化することをお勧めしています。作業量としては記帳のほうが大きいのですが、買っているのは作業量ではなく「その日に誰かが動ける状態」だからです。
出す順番を決める、4つの質問
実際にご相談の場でお聞きしているのは、次の4つです。業務の一覧を作ったうえで、1行ずつこれに答えていくと、順番はほぼ機械的に決まります。
- その業務の期限は、社外が決めているか。 振込期日・取引先の締め日・支給日・納付期限があるなら「社外」です。
- 担当者が今日休んだら、誰が代わりますか。名前が出ますか。 ここで具体的な名前が出ない業務が、外に出す候補です。「社長がやる」という答えは、社長の時間が空いている場合にだけ有効な答えです。
- その業務には判断が要りますか。要るなら、いま誰が決めていますか。 判断が要る仕事は外に出しても社内に戻ってきます。逆に、担当者が判断しているつもりでも実は前例をなぞっているだけ、という業務がかなりあります。ここは分けて考えます。
- その業務の資料は、いま誰のところに届いていますか。 請求書が営業のメールに直接届いている、領収書が各自の引き出しに溜まっている、といった状態だと、業務だけ外に出しても資料が動きません。外注の立ち上げが遅れる原因の大半はここです。
1が「社外」で、2で名前が出ない業務。これが最初に出す業務です。多くのひとり経理の会社で、ここに支払と請求が入ります。
ひとり経理の会社で、実際に切り出すことが多い3つ
ご支援の入口として多い形を、何を出して何が残るかまで書きます。
1|支払データの作成(承認と実行は社内に残す)
請求書を受け取り、内容を確認し、振込データを作るところまでを外に出します。承認と、実際の振込操作は社内に残します。ここを渡してしまうと、会社のお金を動かす権限が外に出てしまうためです。担当者が休んでも、社長が承認して実行すれば支払は止まりません。詳しくは支払代行とはに整理しています。
2|請求書の発行と、入金の消込
取引先の締め日は動かせないので、発行が遅れると入金も遅れます。ひとり経理の会社で資金繰りが読みにくくなる原因は、支出側ではなく請求の発行が担当者の手空き次第になっていることが多いです。発行と消込を外に出すと、月末に「何が未回収か」が担当者の記憶以外の場所に残ります。
3|記帳と月次のご報告
時間を返すという意味では、いちばん効きます。ひとり経理の担当者の時間は、入力そのものより「この支払は何だったか」を確認して回る往復に食われていることが多く、そこも含めて引き取れると、月に数日単位で戻ることがあります。給与計算まで出す場合の線引きは給与計算代行とはに書きました。
始めて1〜2か月は、担当者の手間はむしろ増えます
ここは、契約前に必ずお伝えしています。外注して楽になるのは3か月目からです。
最初の1〜2か月は、こちらからの質問が増えます。しかもひとり経理の会社ほど、この負荷が重くなります。理由は手順書がないからではありません。手順書に書けない例外の処理が、その人の頭の中にしかないからです。
- 「この取引先だけ締めが20日」
- 「この経費は社長が見るまで保留にしておく」
- 「この支払は年に1回だけで、去年は勘定科目を変えた」
- 「この会社からの入金は、いつも社名が違う名義で入ってくる」
こういうものは、聞かれて初めて言葉になります。1年分の例外が出そろうには、実際には12か月かかります。ですので当社では、最初の3か月で出てきた例外をこちらで一覧にして会社にお返しし、そのまま引き継ぎ資料として使えるようにしています。これは付随的な副産物に見えますが、ひとり経理の会社にとってはこの一覧そのものが資産です。担当者が辞めるときに、いちばん渡らないものだからです。
もう1点。立ち上げを繁忙期に重ねないでください。 決算月と、その翌月と、年末調整の時期は避けます。この3つに重ねると、質問が増える時期と担当者がいちばん忙しい時期が正面からぶつかり、「外注したのに忙しい」という感想だけが残って1〜2か月でやめてしまいます。ひとり経理の会社で外注が続かない理由として、私はこれをいちばん多く見ています。
やらないほうがよい出し方
- 全部を一度に出す。 立ち上げの質問がすべて同時に来るので、担当者が対応しきれません。加えて、出した後に担当者の仕事が確認だけになると、職務が痩せてかえって退職の引き金になることがあります。残す仕事を先に決めてから、出す範囲を決めるほうが安全です。
- 担当者に伝えないまま進める。 経理の外注は、担当者から見ると自分の仕事が減る話です。事前に「何を残すか」を本人と話していないと、立ち上げに必要な情報が出てきません。悪意ではなく、聞かれないから言わないだけです。
- いちばん詳しい人に、さらに寄せる。 忙しいときほどこうなりますが、属人化は進みます。崩し方は経理の属人化に書きました。
- 月額の安さだけで決める。 ひとり経理の会社は比較の手間もかけられないので、金額で決めがちです。料金の内訳と、何が含まれていないかの見方は経理代行の料金相場に整理しています。
シメゴの場合と、正直に申し上げること
当社は記帳から月次のご報告までを月5万円からお引き受けし、支払や請求の作成まで含めて範囲を組みます。そのうえで、中小企業のご相談では次の3点を先にお伝えしています。
- いま回っていて、担当者が辞める見込みもなく、月次の遅れも困っていない会社。 この場合、外に出しても効果が数字として見えません。当社としては、いまは見送って、担当者の状況が変わったときにもう一度ご相談ください、とお伝えしています。
- 席にいないとできない仕事は残ります。 電話、来客、押印、郵便物の受け取り。ひとり経理の担当者は、たいていこれらも兼ねています。外注で減るのは経理の処理だけで、席にいる必要そのものは減りません。当社は労働者派遣事業を行っていないため、この部分は解けないとお伝えしています。
- 仕訳が月30件に満たない規模なら、顧問税理士に集約したほうが総額は安いことが多いです。 分けて価値が出るのは、月次を早く見たい場合か、会計の外側(請求・支払・入金確認)まで引き取ってほしい場合です。どちらも必要ないなら、分ける意味は小さいと申し上げます。
まとめ
中小企業の経理アウトソーシングで最初に決めるのは、業者でも金額でもなく「何を買うのか」です。時間を返してほしいなら記帳から。担当者が抜けたときに止まらない状態を作りたいなら、支払と請求から。この2つは順番が逆になります。
そして、ひとり経理の会社にとって効くのは後者であることが多いです。1人しかいない状態そのものは、業務を効率化しても解けません。 効率化すると、その1人がより多くを抱えられるようになるだけだからです。外に出すことでしか、2人目は作れません。
いまの業務のうち、どれが「その人が休んだ日に止まる仕事」なのか。無料コスト診断では、業務の並びを拝見して、そこから順番の形でお返ししています。いまは出さないほうがよいという結論になるなら、そうお伝えします。
「その人が休んだ日に止まる仕事」から、順番をお出しします。
ひとり経理の会社を前提に、残す仕事と出す仕事の線引き、立ち上げに要る期間まで具体的にご説明します。見送りをお勧めする場合もあります。
無料コスト診断を受ける →※本記事は一般的な実務の整理であり、個別の業務体制・契約内容について結論を保証するものではありません。記載している金額や期間は当社の標準的な進め方に基づく目安であり、業務量・資料の状態・ご希望の締め日によって変わります。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士法第2条第1項に定める税理士の業務であり、当社では行いません。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。個人データの取扱いを外部に委託する場合、委託した側には個人情報保護法上の必要かつ適切な監督が求められます。