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経理を外に出すと決めたあと、社内をどう通すか

キーワード: 経理 アウトソーシング 社内 反対 | シメゴ(運営: Never Red株式会社)

経理の外注が止まる場所は、だいたい決まっています。見積の金額ではありません。委託先の選定でもありません。社内です。方針は固まり、見積も出そろい、開始月まで話したのに、そこから3か月動かない。理由を聞くと「社内の調整が」と返ってきます。

先に、当社にとって都合の悪いことから書きます。社内の反対は、正しいことがあります。反対の中身が「品質が落ちる」であれば、それは検収の設計が甘い証拠です。「情報が漏れる」であれば、委託先の管理体制を確認していない証拠です。当社は、反対を押し切って契約を取ることをしません。押し切って始まった案件は、並走の1か月目に必ず割れます。

この記事は、反対を「潰す」話ではありません。反対の中身を3つに割って、それぞれ違う答え方をするための整理です。外注そのものの是非(採用と比べてどうか、社内でやるべきか)は経理担当を1人雇う vs 経理代行|「本当のコスト」を並べて比較したに書きました。本記事は、その判断が済んだあとの話に限定します。

1|「反対」を1つの塊として説得すると、3つとも外す

社内から出てくる反対は、口に出る言い方こそ似ていますが、中身は3種類しかありません。当社が受託前の面談で聞いてきた範囲では、これ以外の反対はほとんど出てきません。

反対の中身口に出る言い方本当に聞かれていること答えるべき人
(1) 雇用への不安「うちの規模で外に出す必要がありますか」「今のままでも回っています」私の仕事は無くなるのか。処遇はどうなるのか決裁者(社長・管理部門長)
(2) 品質への不信「外の人にうちの処理は分かりません」「うちは特殊なので」間違えたとき、誰がどう気づいて、誰が直すのか実務の責任者+委託先
(3) 情報漏えいの懸念「給与のデータを外に出すのは」「取引先に知られたら」法律上の責任はどちらに残るのか。契約に何が書いてあるのか管理部門+委託先(契約書で)

この3つは、答える材料も、答える人も、答える順番も違います。にもかかわらず、多くの会社が「経理を外に出すメリット」を1枚のスライドにまとめて全員に説明します。これがいちばん通りません。(1)を抱えている人にコスト削減額を見せれば、自分の人件費のことだと受け取ります。(3)を抱えている人に「効率が上がります」と答えても、質問に答えていません。

反対の中身を見分けるコツは、「何が心配ですか」と聞かないことです。この聞き方には、たいてい「特にありません」と返ってきます。代わりに「これが決まっていたら、賛成できますか」を3回、別々に聞きます。「あなたの雇用と処遇が変わらないなら」「間違いを見つける仕組みがあるなら」「契約書で情報の扱いが縛られているなら」。反応が動いたものが、その人の本当の反対です。

2|(1)雇用への不安:処遇を決めてから話す。順番を逆にすると全部が交渉になる

いちばん多い反対であり、いちばん扱いを間違えられている反対です。

まず事実の確認から。経理を外注したことは、それ自体では現担当者を辞めさせる理由になりません。労働契約法第16条は、解雇について「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。人員削減を理由とする解雇(いわゆる整理解雇)は、裁判例上さらに厳しく判断されてきました。つまり「外注するから辞めてもらう」という前提の計画は、そもそも成り立ちません。

ところが現担当者の側は、これを知りません。知らないまま「経理を外に出すことにした」と聞けば、次に来るのは自分の話だと考えます。だから当社は、順番を強くお願いしています。

  1. 処遇を先に決める。雇用は継続するのか、役割はどう変わるのか、給与は変わるのか。この3つに答えが無いまま話を始めない。
  2. 1対1で、決裁者から直接伝える。部門会議で全体に伝えると、本人は質問できません。質問できない場から、抵抗が始まります。
  3. 「無くなる仕事」ではなく「残る役割」から話す。外に出したあとも社内には窓口・承認・締めの確認という3つの役割が残ります。この置き方は経理を外に出したあと、社内に誰を残すか|窓口・承認・締めの3役に書きました。

「あなたの時間を、いま手が回っていない仕事に移す」と言えるか

ここで実質が問われます。移す先が用意されていないなら、それは雇用不安ではなく、雇用の問題です。言い換えれば、本人の反対は正しい。

移す先として現実に機能しているのは、当社が見てきた範囲では次のようなものです。予実の差異分析、資金繰り表の更新と見通しの精度上げ、請求と入金の突合を早めること、原価や部門別の数字を出すこと。いずれも「毎月の仕訳が終わらないから手が付いていない」と言われ続けてきた仕事です。手が空いてから考えると、たいてい考えないまま終わります。外に出す範囲を決めるのと同じ会議で、空く時間の使い道を決めてください。

なお、現担当者が退職を決めている・すでに退職したという状況であれば、この節はまるごと不要です。その場合に起きる問題は別にあります(経理の引き継ぎ|渡っていないのは手順ではなく「判断の理由」)。

3|(2)品質への不信:反論しない。検収の設計で答える

「外の人にうちの処理は分かりません」という反対には、反論しないのが正解です。実際、最初の1〜2か月は分かりません。ここで「経験豊富なので大丈夫です」と答えると、話が精神論になり、反対した側は納得しないまま黙ります。黙った反対は、移行後に「やっぱり違っていた」という形で戻ってきます。

答え方は、品質の保証ではなく「間違いがどこで見つかるか」の設計です。具体的には次の4つを、契約前に紙で決めます。

  1. 並走の1か月で、差分を数える。社内と委託先が同じ月を処理し、突き合わせて差異件数を出します。ここで出た差異は失敗ではなく、判断の理由が渡っていない箇所の一覧です。
  2. 月次の検収項目を決める。何をもって「その月は問題なし」とするのか。当社は残高の一致、未処理伝票の残件数、締め日の遵守、質問への回答期限の4点を最低限として提示しています。
  3. 判断に迷ったときの停止点を決める。委託先が自分で判断してよい範囲と、必ず会社に確認する範囲の線を引きます。ここが曖昧だと、勝手に処理されるか、全件確認で止まるかのどちらかになります。
  4. 現担当者を、検収する側に置く。これが効きます。反対している人を審査する側に回すと、反対は「見る目」に変わります。逆に、反対した人を蚊帳の外に置くと、移行後の質問が全部その人を経由しなくなり、社内に判断できる人がいなくなります。

「うちは特殊なので」は、多くの場合ほんとうに特殊

この一言を過小評価しないでください。特殊なのは業界ではなく、たいてい取引先ごとの例外処理です。この請求書だけ締めが違う、この取引先だけ相殺で処理する、この費用だけ部門を按分している。これらは手順書に書かれていません。書かれていない理由は、書くほどのことではないと現担当者が思っているからです。

だから当社は、受け渡しの面談で「例外だけを挙げてください」と聞きます。手順を聞くと1時間で終わりますが、例外を聞くと3時間かかります。この3時間を惜しむと、移行後に毎月同じ質問が飛びます。手順書があっても崩れない構造については経理の属人化|手順書を作っても直らない理由と、崩す順番に書きました。

4|(3)情報漏えい:条文と契約書で答える。「信頼してください」では答えない

3つのうち、いちばん短く終わる反対です。答えが法律と契約書に書いてあるからです。

まず押さえるべき事実は、外に出しても、委託した側の責任は消えないことです。個人情報保護法は、個人データの管理について、第23条で安全管理措置、第24条で従業者の監督、そして第25条で委託先の監督を定めています。第25条は、取扱いを委託する場合に「委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督」を行わなければならないという規定です。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)では、この監督の中身として、適切な委託先の選定、委託契約の締結、委託先における取扱状況の把握が求められています。

給与計算をまとめて出す場合は、マイナンバー(特定個人情報)が絡むため、さらに条件が重くなります。番号法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)は、第10条で再委託には最初の委託者の許諾が必要であること、第11条で委託先に対する必要かつ適切な監督を行うこと、第12条で安全管理措置を講じることを定めています。個人情報保護委員会の「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」が具体的な運用を示しています。

つまり社内の懸念は、法律の建て付けとしては正しい。「外に出したから当社の責任ではない」は成り立ちません。したがって答えは、懸念を否定することではなく、監督の実体を見せることになります。委託先に確認し、契約書に落とすべき項目を挙げます。

確認する項目反対している人が知りたいこと
再委託の可否と、その手続知らないところで別の会社に渡らないか。番号法第10条の許諾が要る領域か
データの保管場所と、アクセスできる人の範囲誰が見られるのか。担当者以外も見られるのか
受け渡しの経路メール添付なのか、権限管理されたストレージなのか
契約終了時のデータの返還・削除やめたあと、データはどうなるのか
取扱状況の報告と、点検の頻度監督していると言えるだけの記録が残るか

この5項目に即答できない委託先は、その時点で候補から外して差し支えありません。反対している人を、この確認の場に同席させてください。本人が質問して、本人が答えを聞いた懸念は、そこで終わります。伝聞で伝えた場合は終わりません。

5|誰に、どの順で話すか

順番を間違えると、中身が正しくても通りません。当社が見てきた中で、最も壊れやすいのは現担当者に最後に伝える形です。他部署が先に知っていた、という事実そのものが、雇用不安の証拠として受け取られます。

相手伝えることやってはいけないこと
1決裁者どうしで、処遇の結論を出す雇用・役割・給与の3点結論を出さないまま次に進む
2現担当者に、1対1で処遇の結論+残る役割+検収の役回り会議の場で全体と同時に伝える
3関係する部門長問い合わせ先がどう変わるか「経理が楽になります」だけで済ませる
4関係者全体いつから、誰に、何を出すか移行前の運用と混在させたまま告知する

タイミングについてよく聞かれるのが、「見積を取る前に社内に話すべきか、取ってからか」です。当社の見解は、1と2は見積を取る前、3と4は委託先を決めてからです。現担当者は、業務の実態を最もよく知っている人です。その人に話す前に取った見積は、前提が抜けているので、結局取り直しになります。相見積が横に並ばない理由は経理代行の相見積が横に並ばない理由|仕訳数・業務件数・人月、3社が別々のものを数えているに書きました。

6|それでも通らないとき、当社が勧めること

3つに割って、それぞれに答えて、それでも社内が動かないことはあります。そのときの選択肢は3つです。

  1. 範囲を削って、1工程だけ出す。記帳の一部、あるいは支払だけ、というように、最も反対の少ない工程から始めます。全部を同時に動かす必要はありません。範囲の切り方は経理は「丸投げ」できる?できること・できないことの境界線にまとめました。
  2. 「戻せる形」で始める。データの所有と会計ソフトの契約を自社に残し、委託先が使う形にします。こうしておくと、合わないと分かった時点で戻せます。戻せる設計にしてあることを社内に示すと、反対の温度は下がります。
  3. 出さない、という判断も採る。反対の中身が(2)品質への不信で、かつ社内に検収できる人が一人もいないなら、いま出すべきではありません。検収できない委託は、品質が落ちても誰も気づけない委託です。この場合は先に社内の体制を作るほうが順番として正しく、当社もそうご案内します。

シメゴの場合と、正直に申し上げること

まとめ

経理の外注が社内で止まったとき、やるべきことは説得の強化ではありません。反対を3つに割ることです。

(1)雇用への不安には、処遇の結論を先に出して、1対1で、決裁者から伝える。外注は解雇の理由になりません(労働契約法第16条)。そのうえで、空く時間の使い道を同じ会議で決める。

(2)品質への不信には、反論せず検収を設計する。並走で差分を数え、月次の検収項目を決め、判断の停止点を引き、反対している人を検収側に置く。

(3)情報漏えいの懸念には、条文と契約書で答える。委託した側の監督責任は消えません(個人情報保護法第25条、番号法第11条)。再委託の可否、保管場所とアクセス範囲、受け渡し経路、終了時の返還・削除、報告と点検の頻度。この5点を委託先に確認し、本人を同席させる。

この3つを混ぜて1枚のスライドにした瞬間、どれにも答えていないことになります。止まっているのは、たいてい情報の不足ではなく、答える順番です。

社内でどの反対が出ているかをうかがい、答え方を一緒に整理します。

現担当者の状況、出そうとしている業務範囲、社内で出ている懸念の内容をうかがい、どの順で誰に話すかと、契約書で押さえるべき項目をお返しします。いまは出さないほうがよいと判断した場合は、そうお伝えします。ご説明の場への同席も承ります。

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※本記事は、記載時点で公表されている法令および公的機関の公表資料に基づく一般的な整理であり、個別の事案における取扱いや適否を判定するものではありません。参照した資料は、労働契約法第16条(e-Gov法令検索)、個人情報保護法第23条・第24条・第25条および個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(番号法)第10条・第11条・第12条および個人情報保護委員会「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」です。制度は改正されることがあるため、細目は各資料の最新版をご確認ください。解雇・配置転換・労働条件の変更に関する個別の判断は社会保険労務士または弁護士の業務領域であり、当社では行いません。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士の業務であり、当社では行いません。社内合意の進め方および反対の類型に関する記述は、当社の受託実務で見てきた範囲に基づく整理であり、統計調査に基づくものではありません。