経理代行の相見積が横に並ばない理由|仕訳数・業務件数・人月、3社が別々のものを数えている
「3社から見積りを取ったのですが、表にできないんです」。相見積の段階でご相談をいただくとき、いちばん多いのがこの困り方です。金額はすでに手元にある。にもかかわらず決裁に上げられない。理由は金額の高い安いではなく、3社の見積書が、そもそも別々のものを数えているからです。
1社目は「月200仕訳まで」と書いてある。2社目は「支払業務・請求業務・月次決算の3業務」と書いてある。3社目は「専任1名 週2日」と書いてある。この3枚を横に並べると、比べているつもりで比べていない状態になります。単位が違う数字は、並べても大小の判断ができません。
この記事では、経理代行の見積書を①範囲を揃える ②単位を揃える ③1年分と変動で見るの3ステップで1枚の表に落とす手順を書きます。実際にこの作業をすると、最初にいちばん安く見えていた会社が2位や3位に落ちることがあります。逆もあります。
この記事は「複数社の見積書を比較可能な形にする手順」に絞っています。1社の金額がどう決まるかの分解は記帳代行の料金は何で決まるかに、金額の水準そのものは経理代行の料金相場に、そもそも誰に出すかという型の選択は経理の外注先は、個人か・事務所か・BPOかに分けて書いています。
1|先に結論|比べられないのは金額でなく「課金の単位」
経理代行の見積書は、見た目こそ各社バラバラですが、課金の考え方は実務上4つのどれかに入ります。まずこれを見分けてください。金額欄より先に見るのは、「何を1として数えているか」が書かれている行です。
| 課金方式 | 見積書に出る書き方 | 数えているもの | 増える引き金 |
|---|---|---|---|
| A 仕訳数課金 | 「月◯仕訳まで込み/超過1件◯円」 | 会計データの行数 | 取引が増えたとき |
| B 業務件数課金 | 「支払◯件・請求書発行◯通・給与◯名まで」 | 処理する伝票・通数・人数 | 取引先や従業員が増えたとき |
| C 人月・時間課金 | 「専任◯名 週◯日」「月◯時間まで/超過1時間◯円」 | 投入する人の時間 | 作業が増えたとき(内容を問わない) |
| D 範囲定額 | 「記帳〜月次決算 一式 月額◯円」 | 担当する業務の範囲 | 範囲外を頼んだとき |
ここで注意していただきたいのは、どれが良い方式でどれが悪い方式か、という話ではないことです。方式には向き不向きがあるだけです。問題は、方式が違う3枚を並べたまま金額だけを比べると、いま自社にとって都合のよい前提を置いている会社が、必ず一番安く見えるという点にあります。
たとえば取引件数が少なく、代わりに問い合わせや相談が多い会社なら、A(仕訳数課金)の見積りがいちばん安く出ます。仕訳が少ないからです。しかし実際に頼むと、相談のたびに「範囲外です」という返事が返ってきます。逆に、単純な入力が大量にあるだけの会社なら、C(人月課金)は割高に出ます。人の時間を買っているのに、その時間で処理できる件数の多さが値段に反映されないからです。
2|方式の読み分け|同じ会社でも、金額の「動き方」が違う
4方式の実務上の差は、初月の金額よりも2年目以降の動き方に出ます。ここを見ずに決めると、1年後に「話が違う」となります。
| 方式 | 向いている会社 | 読み違えやすい点 |
|---|---|---|
| A 仕訳数課金 | 取引の件数がおおよそ読めていて、業務の範囲が記帳中心の会社 | 「何を1仕訳と数えるか」に業界共通の定義がありません。同じ月でも数え方の違いだけで件数が2倍近く変わります |
| B 業務件数課金 | 支払・請求・給与のように、単位が数えられる業務を出す会社 | 件数に入らない作業(差し戻し対応、督促、問い合わせの往復)がどちら持ちかが書かれないことが多いです |
| C 人月・時間課金 | やることが月ごとに変わる会社、立ち上げ期、社内の体制が固まっていない会社 | 安く見えるかどうかは、その人の処理速度に依存します。速度は見積書に書かれません |
| D 範囲定額 | 業務が定型化していて、量の増減が小さい会社 | 「一式」の中身が業務名だけで書かれていると、範囲の境界が言葉の解釈になります |
A の数え方の問題は、それ自体が金額の3割前後を動かすことがある論点なので、記帳代行の料金は何で決まるかで数え方の4パターンを表にしています。相見積の場でこの記事の表を印刷して持っていくと、話が早く終わります。
C を選ぶときにひとつだけ申し上げておきたいのは、時間課金は「品質を買う契約ではない」ということです。何時間使ったかは検証できますが、その時間で何が終わったかは契約書に書かれません。C を採るなら、月次の報告物(試算表・残高一覧・未処理の一覧)を成果物として別に定義しておくことをおすすめします。
3|横に並べるための3ステップ
ここからが実務です。3社の見積書を、決裁に出せる1枚にします。所要時間はおおむね半日です。
ステップ①|範囲を揃える(これを飛ばすと以降が全部ずれます)
先に自社の業務を並べた表を1枚つくり、それを3社に渡して○(含む)/△(別途見積)/×(対応しない)を打ってもらってください。各社の見積書の書式に合わせて読み解こうとすると、必ずどこかを取り違えます。こちらの様式に合わせてもらうほうが確実です。
業務の並べ方は、月次の流れの順に書くと抜けにくくなります。
- 日次: 入金の消し込み、支払データの作成、経費精算のチェック、請求書の発行
- 月次: 記帳、残高の照合、試算表の作成、月次報告、部門別や案件別の集計
- 人に関するもの: 給与計算、社会保険の手続き、年末調整
- 年次: 決算資料の作成、税理士への引き渡し、監査や金融機関への提出資料
- その他: 電話・来客の一次対応、通帳の記帳や郵送物の受け取り、会計ソフトの初期設定
業務の洗い出しそのものが難しい場合は、経理業務の一覧と経理業務のフローに工程ごとの整理を置いていますので、そこから自社に該当する行だけを抜いてください。
この段階で、△(別途見積)の数がいちばん多い会社を覚えておいてください。△は「安く見せるための余白」であることが多く、あとで金額が動く場所です。
ステップ②|単位を揃える
範囲が揃ったら、次は単位です。方式の違う見積りを比べるには、共通の物差しを1本だけ決めて、そこに全社を寄せます。実務で使いやすいのは次の2つです。
- 月あたりの総額(自社の実績量で計算した場合)。 各社に「当社の直近3か月の実績量で計算すると、超過分を含めて月いくらになりますか」と聞き、その数字を書面でもらいます。上限つきの見積りは、上限内の金額ではなく実績量で計算し直した金額で並べてください。ここで順位が入れ替わることがよくあります。
- 社内に残る時間。 ×と△の業務は、社内の誰かがやります。その分の時間を月あたりで見積り、時間単価をかけて金額に直します。時間単価は、担当者の給与を月の所定労働時間で割った数字で構いません。この列を足すまでは、どの見積りも「安く」見えます。
2つ目は面倒ですが、外注の判断でいちばん効く列です。当社にお問い合わせいただく会社のうち、実際に見直しの決め手になっているのは月額の差ではなく、この「社内に残る時間」の差であることが多いです。判定の考え方は経理アウトソーシングを入れる基準に5つの数字として整理しています。
ステップ③|1年分と、変動シナリオ2本で見る
最後に、月額を12倍して初期費用を足します。そのうえで、次の2つのシナリオでもう一度計算してください。
- 増えたとき: 取引件数が3割増えた月。従業員が5名増えた月。新しい拠点や事業が1つ増えた月。
- 減ったとき/やめるとき: 契約を途中で終える場合の予告期間と、その間の支払い。データを返してもらうときの費用と形式。
増えたときの計算をすると、方式による差がはっきり出ます。A(仕訳数課金)は取引が増えると素直に上がります。C(人月課金)は増えても契約時間内に収まれば上がりませんが、収まらなければ人を増やす話になり、段階的に跳ねます。D(範囲定額)は範囲が同じなら動きませんが、「増えた分は範囲外です」と言われる余地が残ります。
やめるときの条件は、比較の段階では誰も聞きません。しかし解約は必ず来ます。移管の実務は経理代行の乗り換えと経理の引き継ぎに書きましたが、要点は会計データの名義が自社にあるかの1点です。代行会社名義のソフトに入っている場合、返してもらう形式と費用を先に確認してください。
4|決裁に出す1枚の形
ステップ①〜③をそのまま表にすると、次の形になります。金額の行だけでなく、条件の行を上に置くのが要点です。上の3行が揃っていない見積りは、下の金額に意味がありません。
| 比較項目 | A社 | B社 | C社 |
|---|---|---|---|
| 課金方式(A/B/C/D) | |||
| 1単位の定義(何を1と数えるか) | |||
| 含む業務の数/別途の数/対応しない数 | |||
| 自社の実績量で計算した月額 | |||
| 超過分の単価と、請求のタイミング | |||
| 初期費用(過去分の遡り入力を含む) | |||
| 社内に残る時間(月・時間)とその金額 | |||
| 年額合計(実績量+社内時間) | |||
| 3割増えた場合の月額 | |||
| 試算表の提出期限と、遅れたときの扱い | |||
| 担当者が不在のときの代替 | |||
| 解約予告期間/データの返却形式と費用 |
「担当者が不在のときの代替」を入れているのは、金額に出ないのに事故のときだけ効く条件だからです。この論点は経理の外注先は、個人か・事務所か・BPOかで3つの型ごとに整理しています。
5|「別途」欄に落ちやすい6項目
見積書の本体ではなく、注記や別途欄に入りやすい項目です。金額が動く場所は、たいていここに集まっています。
- 期の途中から始める場合の、過去分の入力。 切替月より前が未入力なら、それは月額ではなく初期費用です。何か月分あるかで金額が変わります。
- 未処理が溜まった状態からの開始。 上と似ていますが別物です。入力はされているが照合が終わっていない、という状態の片付けにも工数がかかります。
- 部門別・案件別の集計。 補助科目や部門の設計に初期工数が乗ります。後から入れるほうが高くつきます。過去分を振り直す作業が発生するためです。
- 紙の証憑の受け取りと保管。 郵送、スキャン、保管場所。電子化の前提で見積られていることがあります。電子帳簿保存法への対応とあわせて確認してください。
- 会計ソフトの指定。 自社のソフトをそのまま使うか、代行会社の標準に乗せ替えるかで金額が変わります。乗せ替える場合は、解約時に何が戻るかも同時に聞いてください。
- 税理士・社労士との連携。 資料の受け渡しの頻度と形式。ここが曖昧だと、結局は自社が間に立つことになります。税務そのものの線引きは税理士と経理代行の違いに整理しています。
6|比較の前に、比較をやめたほうがよい場合
相見積を並べる作業の前に、申し上げておきたいことがあります。次のいずれかに当てはまる会社は、3社比較そのものが早すぎます。
- 出す業務の範囲が、社内でまだ決まっていない。 範囲が決まっていない状態で見積りを取ると、各社が自社の得意な範囲で提案してきます。結果として、比較不能な3枚が手元に残ります。先に決めるべきことは経理は「丸投げ」できるかに書きました。
- いまの業務量を、誰も数えていない。 実績量がないと、ステップ②の「実績量で計算した月額」が出せません。まず直近3か月の件数を数えるところからです。
- 比較の目的が、値下げ交渉の材料づくりになっている。 経理代行の金額は、値引きよりも範囲と証憑の渡し方を変えるほうが大きく下がります。同じ相手に同じ仕事を安くやらせる交渉は、たいてい品質か範囲のどちらかを削って着地します。
なお、3社に依頼したのにそもそも見積が揃わない場合は、比較の前の段階でつまずいています。1社しか返ってこない、あるいは1社だけが相場の倍で出してくるときは、受託側が作業量を読めなかったサインです。読めない原因は会社側の状態にあることが多く、過年度が閉じていない、証憑が出てこない、社内に答えられる人がいない、のいずれかに当たります。中身と直す順番は経理代行に断られる会社がある|受けてもらえない5つの状態と、直す順番に書きました。1つ潰してから出し直すと、比較できる3枚が揃います。
シメゴの場合と、正直に申し上げること
当社は記帳から月次のご報告までを月5万円からお引き受けしています。方式でいうと A(仕訳数課金)と D(範囲定額)を組み合わせた形で、仕訳数の上限と超過単価は見積りの段階で必ず書面に入れています。そのうえで3つお伝えします。
- 比較表の作成そのものは、当社の見積りを含めずにお手伝いできます。 他社様の見積書を拝見して、課金方式の判別と、聞くべき質問の整理だけをお返しする形です。結果として当社に発注いただかないことも実際にあります。
- 月次の速さを必要としていない会社では、当社の金額は割高に出ます。 当社の金額には、期限を約束するために人を空けておく分が含まれています。「いつでもよい」でよければ、その分は不要です。
- やることが月ごとに大きく変わる会社には、C(人月・時間課金)のほうが合うことがあります。 立ち上げ期や、経理以外の事務も混ざっている場合です。その場合は正直にそう申し上げます。
まとめ
経理代行の相見積が横に並ばないのは、金額の差ではなく課金の単位が違うからです。仕訳数、業務件数、人月、範囲定額。4つのどれかを見分けたうえで、①範囲を揃える ②実績量で計算し直し、社内に残る時間を金額に直す ③年額と、増えたとき・やめるときで見る、の3ステップを踏んでください。
この作業をすると、最初に一番安く見えた見積りが2位や3位に落ちることがあります。落ちなければ、それはそれで自信を持って決裁に出せる材料になります。どちらに転んでも、半日の作業に見合います。
直近3か月の通帳とカード明細、それに他社様の見積書を拝見すれば、課金方式の判別と実績量での再計算はその場でお出しできます。無料コスト診断では、この整理をお返ししています。いまの体制のままでよいという結論になるなら、そうお伝えします。
3社の見積書を、比べられる1枚にするところからお手伝いします。
課金方式の判別と、実績量で計算し直した金額の再計算をお返しします。当社の見積りを入れずに整理だけ、でも構いません。
無料コスト診断を受ける →※本記事は一般的な実務の整理であり、個別の料金・契約条件を保証するものではありません。課金方式の分類は当社が実務で用いている整理であって、業界の標準規格ではありません。仕訳数の数え方・上限・超過単価・解約条件は各社の契約によって異なりますので、実際のご検討にあたっては各社の見積書および契約書面をご確認ください。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士法第2条第1項に定める税理士の業務であり、当社では行いません。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。