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経理代行に断られる会社がある

キーワード: 経理 アウトソーシング 会社 | シメゴ(運営: Never Red株式会社)

経理代行の記事は、たいてい「代行会社をどう選ぶか」から始まります。料金体系を見て、業務範囲を確かめて、担当者の相性を見る。当社もそういう記事を書いています。けれども実務では、その手前でつまずいている会社があります。3社に相見積を出したのに、1社しか返事が来ない。返ってきた見積が、聞いていた相場の倍で出てくる。あるいは初回の面談のあと、丁重な言葉で「今回は見送らせてください」と言われる。

この段階で多くの経営者は、代行会社の側に理由があると考えます。忙しいのだろう、うちは規模が小さいから相手にされないのだろう、と。ですが当社が受託側に立って申し上げると、断る理由のほとんどは、会社の規模でも業種でもありません。引き受けたあとに帳簿が作れない状態になっていることが、事前に見えたときです。

この記事は、当社が実際に「そのままではお受けできません」とお伝えした会社に何が起きていたかを、5つの状態に整理したものです。あわせて、直す順番も書きます。5つのうち4つは、1〜2か月で直ります。断られたことは、経理を外に出せないという意味ではありません。順番が逆になっているだけです。

1|代行会社が断るのは、儲からないからではない

先に、断る側の事情を開きます。経理代行の見積は、ほとんどの会社が「1か月あたりの作業量」を前提に組みます。仕訳が何本、請求書の発行が何件、支払が何件、月次の締めが何営業日目。この数え方が会社ごとに違うので相見積が横に並ばないという話は経理代行の相見積が横に並ばない理由|仕訳数・業務件数・人月、3社が別々のものを数えているに書きました。

問題は、この数え方が「毎月同じ作業が繰り返される」ことを前提にしている点です。前提が崩れる会社では、見積の土台そのものが立ちません。過去の未処理を掘り返す作業、社内に問い合わせて回答を待つ時間、現物を探す時間。これらは月次の作業量に含まれておらず、しかも量が事前に読めません。

受託側から見ると、選択肢は3つしかありません。読めない分を織り込んで高い見積を出す。条件付きで受ける。断る。このどれかです。「うちは小さいから断られた」と受け取られている多くの場面は、実際には「読めないから値段が付かなかった」という現象です。

会社法第432条第1項は、株式会社が法務省令で定めるところにより適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならないと定めています。代行会社が引き受けるのは、この義務の実行部分です。義務そのものは会社に残ります。だから受託側は「引き受けたら適時・正確に作れるか」を先に見ます。作れないと分かっていて受けるほうが、断るより無責任です。

2|受けてもらえない5つの状態

ここからが本題です。当社が実際にお断りした、あるいは条件を付けてお受けした会社に共通していたのは、次の5つです。順番は、直しにくい順ではなく相談の場で見えやすい順に並べています。

(1) 過年度が閉じていない

いちばん多く、いちばん重いのがこれです。前期の決算が終わっていない。申告が済んでいない。あるいは決算は組んだが、期首の残高がどこから来た数字なのか誰も説明できない。

経理は積み上げの仕事です。期首残高が確定していない状態で当期の記帳を始めると、作った帳簿が全部やり直しになる可能性を抱えたまま進むことになります。売掛金の残高が10万円ずれているとして、それが今期の入力ミスなのか前期からの持ち越しなのか、切り分けられません。当社は月次を積み上げる仕事をお受けしていますが、その土台が動くなら積み上げられません。

これは代行会社では直せない領域でもあります。過年度の申告や修正申告は税務代理・税務書類の作成にあたり、税理士法第2条第1項が税理士の業務として定めています。当社はこれらを行いません。ですから、この状態の会社には「まず顧問税理士と過年度を閉じてください。そのあとにお声がけください」とお伝えしています。断りではなく、順番の話です。

(2) 証憑が出てこない

2つ目は、記録を作るための材料が集まらない状態です。「あります」と言われて始めてみると、請求書は経理の机の引き出し、領収書は社長のカバン、通販の明細は担当者個人のメールボックスの中にある。

ここで大事なのは、保管していないことが問題ではなく、こちらに渡る経路が無いことが問題だという点です。当社が困るのは「捨ててしまった」よりも「あるはずだが誰が持っているか分からない」のほうです。前者は無いものとして処理を決められますが、後者は毎月、探す時間と待つ時間が発生します。

制度の側も、この「引ける状態」を前提にしています。電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)は、第7条で電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存について定めており、その要件は同法施行規則に置かれています。あわせて法人税法施行規則第59条は帳簿書類を原則7年間保存すべきことを定めています。「どこかにある」は保存ではありません。ただし要件の細目と経過措置は改正が入りやすい領域なので、実際の運用は国税庁の最新の一問一答と顧問税理士の確認を通してください。

(3) 締切が近すぎる

3つ目は、状態の問題ではなく時間の問題です。「来月が決算なので、それまでにお願いしたい」「来週が支払日なので、間に合わせてほしい」。

法人税法第74条第1項は、内国法人が各事業年度終了の日の翌日から2か月以内に確定申告書を提出すべきことを定めています。消費税法第45条第1項も、課税期間の末日の翌日から2か月以内としています。この期限は動きません。そこから逆算すると、引き継ぎと現状把握に使える時間が数週間しか無い、ということが起こります。

引き継ぎで実際に時間を食うのは、手順書の受け渡しではありません。「なぜこの処理をこうしているのか」という判断の理由が渡っていないことです。この点は経理の引き継ぎ|渡っていないのは手順ではなく「判断の理由」に書きました。理由が渡らないまま日程を詰めると、期限の直前に判断が止まります。だから当社は、期限まで数週間の相談では「今期はいまの体制で乗り切り、来期の期首から入らせてください」とお伝えすることが多いです。傷が浅い時期の選び方は経理代行に切り替えるなら、いつが一番傷が浅いか|決算期・年末調整・給与改定を外した移行時期の決め方に整理しました。

(4) 社内に答えられる人がいない

4つ目は、意外に思われることが多い項目です。経理を外に出しても、社内に窓口は必要です。これは作業をする人ではなく、質問に答え、承認をする人です。

実務では、毎月かならず判断が要る場面が出ます。この入金は誰からか。この支出は誰の承認で出たのか。この請求書の内容は、契約どおりか。これに答えられる人がいないと、記帳が止まります。止まった状態で当社が推測で処理すれば、帳簿の正確性はその推測の精度に落ちます。それは当社が出せる品質ではありません。

「経理担当者が辞めるので外に出したい」というご相談は多く、それ自体は正しい判断です。ただし辞める人が持っていた判断の役割まで一緒に外に出せるわけではありません。残す3役の分け方は経理を外に出したあと、社内に誰を残すか|窓口・承認・締めの3役を決めないと戻ってくるに書きました。窓口が決まっていない状態のご相談では、当社はまずこの1点だけを決めていただくようお願いしています。

(5) 現金取引が多い

5つ目は、業種によって避けられない場合があるものです。売上を現金で受ける、支払を手元の現金で払う、小口現金から立替を精算する。この量が多いと、記録が現物と人の記憶にしか残らない部分が増えます。

銀行の入出金やカード決済は、通帳・明細というかたちで会社の外に記録が残ります。第三者が作った記録なので、あとから照合できます。現金はそれが無い。金庫の残高が合わないとき、原因を突き止める手がかりが社内にしか無い状態になります。

当社は現金取引がある会社をお断りしているわけではありません。ただ、現金の量が多い会社では、記帳の前に「現金を減らす」ほうが先に効きます。法人カード、口座振替、経費精算アプリのどれかに移すだけで、照合できる記録が外に残ります。置き換え先を作らずに小口現金を廃止すると必ず戻ってくる、という話は小口現金の廃止|先に置き換え先を作らないと、必ず戻りますに書きました。

3|「断り」は3種類あって、意味が違う

ここまでの5つに対して、受託側の反応は3つに分かれます。同じ「断られた」に見えて、意味はまったく違います。

返ってくるもの受託側が見ていること会社側がやること
金額が相場より高い見積作業量が読めないため、読めない分を織り込んだ。断ってはいないが、リスクを価格に乗せている読めない原因(過年度・証憑・現金)を1つ潰して再依頼する。価格が下がる余地がある
条件付きの受託(初回整理費用が別途、初月は範囲を限定など)直せる状態だと判断した。初回だけ非定型の作業が入る初回費用の中身を項目で確認する。何が終われば通常料金に戻るのかを書面にする
お見送り/返事が来ない引き受けても適時・正確な帳簿が作れないと判断した。多くは過年度未確定か窓口不在断られた理由を1つ聞く。ほとんどの会社は答えます。答えを聞けば直す対象が分かる

3行目について申し上げます。お見送りの連絡を受けたとき、理由を聞いてください。受託側は「御社の過年度が閉じていないので」とはっきり言いにくいことがあり、当たり障りのない文面で終わることがあります。聞かれれば、たいていの会社は答えます。ここで得られる1行が、次の相見積の結果を変えます。

4|直す順番は、重い順ではない

5つのうちどれから直すか。当社が申し上げているのは、重い順ではなく、他の項目に効く順です。

  1. 窓口を1人決める((4))。いちばん軽く、いちばん効きます。作業をする人ではなく、質問に答え承認する人を決めて名前を書く。これだけで、以降のすべての作業が進むようになります。所要は1日です。
  2. 現金の出口を1つ潰す((5))。いちばん量の多い支払を、法人カードか口座振替に移す。全部でなく1つでよい。外に記録が残る取引が増えるほど、証憑を探す量が減ります。所要は2〜4週間(カードの審査待ちを含む)。
  3. 証憑の集まり方を決める((2))。置き場を1つに決め、ファイル名の付け方を決め、いつまでに出すかを決める。決めるのは3行で足ります。運用が回るまでは1〜2か月見てください。
  4. 過年度を閉じる((1))。顧問税理士と相談し、どこまでさかのぼるか、期首残高をどう確定させるかを決める。ここは費用と時間がかかりますが、1〜3で社内が動く状態になっていれば、税理士側の作業も速くなります。
  5. そのうえで移行の時期を決める((3))。決算期・年末調整・給与改定を外した月を選ぶ。締切に追われた状態で始めないことが、いちばん確実に品質を上げます。

順番を逆にすると失敗します。過年度から手を付けると、窓口がいないので税理士からの質問が滞留し、費用だけが伸びます。先に窓口を決めておけば、同じ作業が半分の期間で終わります。1と2は社長の一存で決められる項目なので、相談の翌日から着手できます。

なお、この5つのどれにも当たっていないのに社内が反対して進まない、という場合は別の論点です。反対の中身の見分け方は経理を外に出すと決めたあと、社内をどう通すか|現担当者への伝え方と、反対の中身の見分け方に書きました。

5|正直に申し上げること

まとめ

相見積が通らない、金額だけが高く出る、丁重に見送られる。この3つは、代行会社の都合ではなく引き受けたあとに帳簿が作れるかどうかの判断から出てきます。

受けてもらえない状態は5つです。過年度が閉じていない。証憑が出てこない。締切が近すぎる。社内に答えられる人がいない。現金取引が多い。このうち4つは、1〜2か月で直ります。残る1つ(過年度)は顧問税理士との仕事です。

直す順番は、窓口を決める → 現金の出口を1つ潰す → 証憑の集まり方を決める → 過年度を閉じる → 移行の時期を決める。重い順ではなく、他に効く順です。最初の1つは1日で終わり、その1日が残り4つの所要期間を縮めます。

断られたことは、経理を外に出せないという意味ではありません。順番が逆になっているだけです。そして、断る側は理由を持っています。聞いてください。理由が分かれば、直す対象は1つに絞れます。

断られた理由が分からないときは、こちらで見立てをお返しします。

直近の試算表、前期の決算の状況、証憑の置き場、現金取引の量をうかがい、5つのうちどれに当たっているかと、直す順番をお返しします。過年度が未確定の場合は、顧問税理士との進め方をお伝えして一度お引き取りいただきます。ご相談だけでも承ります。

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※本記事は、記載時点で公表されている法令および公的機関の公表資料に基づく一般的な整理であり、個別の事案における取扱いや適否を判定するものではありません。参照した条文は、会社法第432条第1項、法人税法第74条第1項、法人税法施行規則第59条、消費税法第45条第1項、税理士法第2条第1項、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法)第7条および同法施行規則(いずれもe-Gov法令検索)、ならびに国税庁が公表する電子帳簿保存法関係の一問一答です。制度は改正されることがあるため、細目および適用時期は各資料の最新版と顧問税理士の確認をお願いします。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士の業務であり、当社では行いません。受託の可否や見送りの理由に関する記述は、当社の受託実務および引継ぎで見てきた範囲に基づく整理であり、統計調査に基づくものではありません。他社の受託基準を示すものでもありません。