経理代行に切り替えるなら、いつが一番傷が浅いか
外に出すかどうかは決まった。委託先の候補も見えている。それでも動き出せない会社があります。理由を聞くと、だいたい同じ答えが返ってきます。「いつから始めるのがいいのか分からない」。
先に、当社にとって都合の悪いことから書きます。切り替えの月を間違えると、初月の社内工数は減るどころか増えます。移行月は、社内の担当者と委託先が同じ1か月を二重に処理するからです。減るのは2か月目からで、1か月目は必ず重くなります。これは委託先の力量の問題ではなく、引き継ぎという作業の性質です。
だから当社は「お早めに」とは申し上げません。会社ごとに、重ねてはいけない月があります。この記事は、その月をどう割り出して、どこから逆算するかだけを書きます。手順そのもの(何を渡し、どこで止めるか)は経理代行を切り替えるとき|いまの委託先から引き継ぐ手順と、止まる期間の作り方に分けて書いています。本記事は、その手順を「どの月に差し込むか」に限定します。
1|移行月が重くなるのは、二重に走る1か月があるから
経理の移行は、ある日を境にスパッと入れ替わりません。実際には次の順で進みます。
- 棚卸し いまの経理業務を工程に分けて、誰が何をどの順でやっているかを書き出す。
- 受け渡し 勘定科目の使い分け、取引先ごとの例外処理、承認の通し方といった「判断の理由」を渡す。
- 並走 最初の1か月は、社内が従来どおり回しながら、委託先も同じ月を処理する。突き合わせて差分を潰す。
- 単独 2か月目から委託先が主で回し、社内は窓口・承認・締めの確認に回る。
この3番目が、移行の重さの正体です。同じ月の仕訳を、二人が別々に起こして突き合わせる。手を抜くと差分が翌月以降に持ち越されるので、抜けません。
なお2番の「判断の理由」が渡らないまま形だけ引き継ぐと、半年後に同じ質問が毎月飛んできます。この話は経理の引き継ぎ|渡っていないのは手順ではなく「判断の理由」と経理の属人化|手順書を作っても直らない理由と、崩す順番に書きました。
ここまでが前提です。「並走の1か月を、社内が一番忙しい月に置かない」——切り替え時期の話は、突き詰めるとこの一文に尽きます。あとは、自社にとってその月がいつなのかを特定する作業です。
2|会社を重くする山は、4つの期限から機械的に決まる
「うちの繁忙期は感覚では分かっている」とおっしゃる会社は多いのですが、感覚で置くと外れます。年次の仕事は法定の期限で決まっているので、期限から並べたほうが正確です。中小企業の経理を重くする山は、大きく4つです。
| 山 | いつ | 根拠 |
|---|---|---|
| 決算と法人税の申告 | 事業年度終了の日の翌日から2か月以内に確定申告書を提出。実務は期末月から申告期限月までの3か月が重い | 法人税法第74条第1項 |
| 年末調整と法定調書 | 年末調整の実務は11月〜12月。源泉徴収票・給与支払報告書は翌年1月31日までに提出(受給者への交付も同日まで) | 国税庁タックスアンサー No.7411/国税庁「給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」 |
| 住民税の切替 | 1月31日までに給与支払報告書を提出 → 5月31日までに特別徴収税額決定通知書を受領 → 6月の給与から新税額で特別徴収を開始 | 東京都主税局「個人住民税の特別徴収推進ステーション」(通知期限は地方税法第321条の4第2項) |
| 社会保険と労働保険の年次手続 | 算定基礎届は7月1日〜7月10日に提出(4〜6月の報酬月額に基づき、9月から翌年8月まで適用)。労働保険の年度更新は6月1日〜7月10日 | 日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」/厚生労働省「労働保険の年度更新」 |
この4つを自社のカレンダーに置くと、ほとんどの会社で12月〜1月と6月〜7月が固定の山になります。ここに会社ごとの決算月が乗ります。給与改定を4月に置いている会社なら、4月も一段重くなります。年次の仕事が月次を押し出す構造そのものは経理の年間スケジュール|忙しいのは月次ではなく、年に一度の仕事が重なる月ですに整理しました。
3月決算の会社の場合
重い月は、3月(期末)・4月(決算作業)・5月(申告期限)・6月〜7月(住民税切替と年次手続)・12月〜1月(年末調整と法定調書)。残るのは8月から11月と、2月です。ただし2月は、翌月に期末が控えているので並走を置くには詰まっています。実質の窓は8月〜11月です。
12月決算の会社の場合
重い月は、12月(期末と年末調整が重なる最悪の月)・1月(法定調書)・2月(申告期限)・6月〜7月。窓は3月〜5月と、8月〜11月です。12月決算の会社にとって、12月開始は最も避けるべき選択になります。
共通して言えること
並走の1か月に加えて、その前月の受け渡しも社内の手を取ります。窓は2か月ぶん連続して確保してください。1か月だけ空いている月に押し込むと、受け渡しが繁忙期にはみ出します。
3|開始月が決まったら、そこから3か月ぶん戻す
ここで多いのが「では10月から」と決めて、9月末に相談を始めてしまう形です。間に合いません。開始月の前に、選定と契約と受け渡しが必要だからです。工程を数えると、こうなります。
| 時期 | やること | 主に手を動かす側 |
|---|---|---|
| 開始月の3か月前 | 候補の選定、業務範囲のすり合わせ、見積の取得と比較 | 会社(決裁者) |
| 開始月の2か月前 | 契約、業務の棚卸し、判断の理由の受け渡し、権限とアカウントの設計 | 会社(現担当者)+委託先 |
| 開始月の1か月前 | 資料の受け渡し、テスト仕訳、締めのスケジュールの合意 | 委託先が主 |
| 開始月(並走) | 同じ月を二重に処理して差分を突き合わせる | 両方 |
| 開始月の翌月 | 委託先が単独で回す。社内は窓口・承認・締めの確認 | 委託先が主 |
見積の比較そのものに時間がかかることも織り込んでください。各社が数えている単位が違うので、そのままでは横に並びません。仕訳数で出す会社、業務件数で出す会社、人月で出す会社が混在します。この揃え方は経理代行の相見積が横に並ばない理由|仕訳数・業務件数・人月、3社が別々のものを数えているに書きました。選定の観点は経理代行サービスの選び方|失敗しない7つのチェックポイントにまとめています。
いま(9月)に動き出す会社は、どこに着地するか
正直に書きます。9月に相談を始めると、並走の開始は12月です。3月決算でも12月決算でも、12月は最も重い月のひとつです。つまり、いま動き出してそのまま最短で進めると、一番避けたい月に並走が乗ります。
取れる選択は2つです。
- 年内は選定と契約までで止め、開始は2月または3月に置く。受け渡しを1月後半から始め、並走を2月または3月に置きます。3月決算の会社なら期末に近づくので、2月開始のほうが安全です。
- 給与計算だけを先に切り出して、10月〜11月に移す。年末調整を外に出すつもりがあるなら、こちらは急ぐ理由があります。年末調整を委託先で処理するには、その前月までの給与データが委託先側に揃っている必要があるためです。この線引きは年末調整代行は9月に決めると間に合う|外に出せる作業と、社内に残る作業の線引きと給与計算代行とは?依頼できる範囲・料金相場と、社内でやるリスクに書きました。
どちらでもない場合、当社は「年内は選定だけ進めて、着手は年明け」とご案内します。急がせたほうが受注は早いのですが、12月に並走を置いた会社は、たいてい移行そのものへの評価が下がります。
4|どうしても繁忙期に動かざるを得ないとき
時期を選べない会社もあります。現担当者の退職日が決まっている、いまの委託先から契約終了を告げられた、といった場合です。このときは「時期を最適化する」のではなく「範囲を削る」に切り替えます。
- 並走をやめて、工程を分けて渡す。全部を同時に動かさず、支払と記帳だけ先に出し、請求と債権管理は次の月に回します。二重処理の量そのものを減らします。
- 年次の仕事は、今回の移行に含めない。年末調整や決算をまたぐ切り替えでは、その年の年次業務は従来どおりの体制でやり切り、翌期から委託先に乗せます。移行と年次を同じ月に重ねないのが原則です。
- 締めの日を、移行月だけ後ろにずらす。月次の締め日を1〜2営業日遅らせる合意を、先に社内で取っておきます。締めを早める話とは逆方向ですが、移行月に限っては有効です(月次締めの早期化|1日縮めるために動かすのは、経理の外です)。
- 社内の受け手を、移行月だけ2人にする。窓口・承認・締めの3役のうち、窓口を移行月だけ増員します。役割の置き方は経理を外に出したあと、社内に誰を残すか|窓口・承認・締めの3役に書きました。
この4つを打たずに繁忙期へ突っ込むと、差分の突き合わせが翌月に持ち越されます。持ち越した差分は、次の月の締めをさらに遅らせます。
5|月の「どこから」始めるかは、1日からで固定してよい
開始月が決まったら、月内の開始日は迷わなくて構いません。経理の単位は月次なので、月の初日から始めます。月の途中で切り替えると、1か月ぶんの仕訳が2つの担当に割れ、突き合わせの対象が増えるだけです。
例外は給与です。給与は締め日と支給日の組で動くので、給与計算を移す場合は「支給日をまたぐ月」ではなく、締めの起点で切り替えます。締め日が末日で支給日が翌月25日の会社なら、切り替えるのは締めの側です。ここを支給日で切ると、当月ぶんの計算が中途半端に割れます。
住民税を扱っている場合も同じ考え方です。特別徴収の税額は6月の給与から新年度分に切り替わるので、5月と6月の境目で担当を替えると、旧年度分と新年度分の適用がずれる余地が生まれます。5月から6月への切り替わりは、担当の切り替えと重ねないでください。
シメゴの場合と、正直に申し上げること
当社は経理代行会社です。そのうえで、時期についてはこうご案内しています。
- 繁忙期に開始をご希望の場合は、その理由をうかがいます。理由が「早く楽になりたい」だけであれば、翌々月以降をお勧めします。移行月は楽になりません。
- 3か月前からご相談ください、とは申し上げますが、それは当社の都合ではありません。選定と受け渡しに会社側の手が要るからです。ここを飛ばした移行は、並走で必ず詰まります。
- 年末調整・決算をまたぐ切り替えでは、その年の年次業務を無理に引き受けません。引き受けたほうが売上にはなりますが、判断の理由が渡り切っていない状態で年次を回すと、精度が落ちます。
- 移行の時期が半年先になる場合、その間の相談料はいただきません。選定と社内調整の段階でお答えできることは、契約前でもお答えします。
まとめ
切り替えの時期を決める作業は、3手で終わります。
ひとつめ。自社の重い月を、感覚ではなく期限から並べる。決算期末から申告期限までの3か月(法人税法第74条第1項)、年末調整から法定調書の1月31日まで、5月31日の通知を受けて6月給与から切り替わる住民税、6月1日から7月10日までの労働保険年度更新と7月1日から7月10日までの算定基礎届。この4つを置けば、空いている月が見えます。
ふたつめ。空いている月を2か月連続で確保して、後ろの月を開始月にする。前の月は受け渡しに使います。
みっつめ。開始月から3か月戻した月に、選定を始める。逆に言えば、いまが9月であれば、そのまま進めると並走は12月に乗ります。3月決算・12月決算のいずれでも12月は避けたい月なので、年内は選定と契約までにとどめ、開始を年明けに置くほうが傷は浅くなります。
「思い立った月に始める」だけは避けてください。移行は、いつやっても1か月ぶんの二重処理が発生します。その1か月をどこに置くかが、切り替えの成否をほとんど決めます。
御社の決算月と給与の締め日から、傷の浅い開始月を割り出します。
決算期・給与の締め支給日・年末調整の実施体制・現担当者の予定をうかがい、開始月の候補と、そこから逆算した着手時期をお返しします。いまは動かないほうがよいと判断した場合は、そうお伝えします。
無料コスト診断を受ける →※本記事は、記載時点で公表されている法令および公的機関の公表資料に基づく一般的な整理であり、個別の事案における取扱いや適否を判定するものではありません。参照した資料は、法人税法第74条第1項および地方税法第321条の4第2項(e-Gov法令検索)、国税庁タックスアンサー No.7411「『給与所得の源泉徴収票』の提出範囲と提出枚数等」、国税庁「給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」、東京都主税局「個人住民税の特別徴収推進ステーション」、日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」、厚生労働省「労働保険の年度更新とは」です。提出期限が土日祝日にあたる場合の取扱いなど、細目は各資料の最新版をご確認ください。制度は改正されることがあります。移行の工程・期間に関する記述は当社の受託実務に基づく一般的な目安であり、業務量・体制により変動します。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士の業務であり、当社では行いません。