小口現金の廃止|先に置き換え先を作らないと、必ず戻ります
「小口現金をやめたいんですが、うまくいかなくて」。この相談は、経理の効率化の話の中でいちばんよく出てきます。そして、いちばん失敗のパターンが決まっています。金庫の残高を減らすところから始めて、数か月で元に戻る。私が見てきた範囲では、これがほぼ全部です。
先に結論を書きます。小口現金の廃止は、現金を減らす作業ではありません。いま現金で払っているものを1つずつ拾い出して、それぞれの置き換え先を決める作業です。置き換え先が決まっていない支出が1つでも残っていると、そこから現金が復活します。1万円でも金庫に現金がある限り、日次の残高合わせは消えません。
この記事は小口現金をなくすまでの順番に絞っています。立替精算そのものの運用や外部委託の範囲は経費精算代行に、支払全体の流れは支払代行にまとめました。
小口現金が実際に食っている時間を、先に測る
廃止に踏み切れない会社の多くは、小口現金にかかっている手間を金額でも時間でも把握していません。「面倒だとは思っているけれど、そこまでではない」という感覚で止まっています。まずここを実測してください。
測るのは、次の5つに使っている時間です。1か月分でかまいません。
| 作業 | 頻度の実態 | 見落とされやすい点 |
|---|---|---|
| 出納帳への記入と残高照合 | 日次または週次 | 1回15分でも、日次なら月5時間前後になる |
| 金種表の作成と現物の実査 | 週次または月次 | 数え直しが発生した日は30分以上かかる |
| 不一致の原因追跡 | 月1〜2回 | 数百円の差でも、原因が分かるまで止められない |
| 銀行での引き出し・両替 | 月1〜2回 | 移動時間と待ち時間が本体。担当者が席を外す |
| 領収書の受け取りと保管 | 都度 | 渡された瞬間に処理しないと行方不明になる |
ここで大事なのは、不一致の追跡だけは時間が読めない作業だという点です。他の4つは慣れれば短くなりますが、これは短くなりません。数百円合わないだけで、その日のうちに終わらないことがあります。しかも金額が小さいので、切り上げる判断もしづらい。小口現金をなくす理由として、私はこの1点をいちばん重く見ています。
もうひとつ、時間には出てこない論点があります。現金は、誰か1人しか触っていないという状態になりやすいことです。属人化の話は経理の属人化に書きましたが、現金は分担しづらい業務の典型です。
なぜ戻ってしまうのか
「来月から小口現金をやめます」と宣言して、金庫の残高を10万円から0円にする。よくある進め方ですが、これはほぼ確実に戻ります。理由は単純で、現金でしか払えない場面が、月に数回だけ残っているからです。
その数回が発生したとき、誰かが自腹で払います。次の月も同じことが起きます。3回目くらいで「やっぱり少し置いておこう」となり、金庫に3万円が戻る。そして日次の残高合わせも一緒に戻ってきます。1円でも現金があれば、管理の手間は9割方そのまま復活する。ここが見落とされます。
つまり、廃止の可否を決めるのは残高ではなく、置き換え先が決まっていない支出がゼロになっているかどうかです。順番を逆にしてください。
手順①:現金支出を4つに分ける
最初にやるのは、直近3か月の出納帳を開いて、支出を性質ごとに分類することです。品目ではなく、「何なら代わりになるか」で分けます。だいたい次の4つに収まります。
| 分類 | 典型例 | 置き換え先 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ①事前に予定できる購入 | 消耗品、事務用品、書籍、切手・印紙 | 法人カードまたは請求書払い(月締め) | 購入先をまとめると請求書払いに切り替えやすい |
| ②個人が立て替えられる支出 | 交通費、少額の接待、打合せの飲み物代 | 立替精算に寄せる | 精算の頻度と上限を決めるのが前提(後述) |
| ③相手先が現金しか受けない支出 | 慶弔費、一部の官公署手数料、地域の会費 | 都度、振込または仮払で対応 | 頻度が低いので「常備」しなくてよい |
| ④現場に現金が要る支出 | 店舗の釣銭、イベントの当日払い | 廃止対象から外す | 本社と現場を分けて考える(後述) |
この表を自社の実データで埋めると、ほとんどの会社で①と②が金額の8割以上を占めます。逆に言えば、①と②の置き換え先さえ用意できれば、金庫に現金を置いておく理由は月に1〜2回の③だけになります。そして③は、都度対応で足りる頻度です。
手順②:立替精算に寄せるなら、先に3つを決める
②を立替精算に寄せるのが、廃止のいちばんの本体です。ただし、ここで社員から抵抗が出ます。「自分の財布から出すのは困る」という話です。これは感情論ではなく、運用の問題として片づけられます。決めるのは次の3つです。
精算の頻度
月1回・翌月払いのままで立替に寄せると、最長で2か月近く社員が立て替えることになります。ここが抵抗の正体です。月2回にする、あるいは一定額を超えたら都度精算を認める。このどちらかを先に決めてください。振込手数料は増えますが、小口現金の管理時間と比べれば小さい話です。
1人あたりの上限
「立替は1回1万円まで、月3万円まで」といった上限を決めます。これを超える支出は、立替ではなく会社から先に払う(請求書払い・振込・仮払)ルートに回します。上限を決めておかないと、高額な立替が発生したときに「やっぱり現金が要る」という話に戻ります。
領収書の出し方と締切
紙で回収するのか、スマートフォンで撮って送るのか。ここを決めずに始めると、精算が遅れ、月次締めが遅くなります。締切と、遅れたときの扱いまで決めるのが定石です。この考え方は月次締めの早期化に詳しく書きました。
手順③:法人カードを配るときの線引き
①の置き換え先として法人カードを使う場合、枚数を欲張らないでください。私がよく提案するのは、まず1〜2枚から始めて、月次の明細確認が回るかを見るやり方です。
- 枚数:総務・管理部門に1枚、現場に必要なら1枚。全員に配ると、明細の確認が新しい手間になります
- 限度額:小口現金の月間支出額の2〜3倍程度から始めます。足りなければ上げればよい話です
- 明細の確認者:使った本人ではなく、別の人が見る形にします。ここを決めないと、現金の実査をやめた分の牽制が消えます
- 用途の禁止事項:私的利用の禁止と、購入時の領収書の提出義務を、文書で1枚にしておきます
カードを入れると仕訳が自動で取り込めるようになるので、記帳の手間も減ります。ただし、ツールを入れれば管理が要らなくなるわけではありません。この点は経理の効率化ツールにも整理しています。
手順④:残高を下げて、1〜2か月様子を見る
①〜③の置き換え先を用意したら、いきなりゼロにせず、まず上限を1〜3万円まで下げて1〜2か月回します。この期間の目的は、拾い漏れた支出を洗い出すことです。
やることは1つだけです。この期間中に現金で払ったものを、金額に関係なく全部メモしておく。1〜2か月やって、現金の出番が「慶弔費が1回だけ」といった状態になっていれば、廃止して問題ありません。逆に、毎週何かしら現金が出ているなら、置き換え先の設計に漏れがあります。金庫をゼロにする前に、そこを埋めてください。
廃止しなくてよい現金もある
ここは正直に書きます。全社の現金をゼロにできる会社ばかりではありません。店舗を持っている会社の釣銭、イベント運営の当日払いなどは、業務そのものに現金が組み込まれています。これを無理になくそうとすると、現場が回らなくなります。
私が現実的だと考えているのは、「本社の小口現金はゼロ、店舗のレジ現金だけ残す」という切り分けです。この形にすると、日次の残高合わせは店舗の締め作業の中に閉じます。経理側が毎日追いかける必要がなくなり、目的の大半は達成できます。
「小口現金の廃止」という言葉に引きずられて全社ゼロを目指すと、途中で止まります。目的は現金の消滅ではなく、経理が現金を管理しなくてよい状態です。ここを取り違えないでください。
やってはいけない進め方
| やり方 | 何が起きるか |
|---|---|
| 置き換え先を決めずに残高だけ減らす | 数か月で現金が復活します。しかも「一度やってダメだった」という記憶が残り、次に提案しづらくなります |
| 社長の個人カードで肩代わりする | 会社の支出と個人の支出が混ざり、精算が終わらなくなります。決算前にまとめて追う作業が発生します |
| 仮払金で処理して放置する | 精算されない仮払金が残高に積み上がります。年度末に内容不明の残高を調べ直すことになります |
| 実査をやめただけで、牽制を作らない | 現金の実査は、少額支出に対する唯一のチェックになっていることがあります。カード明細の確認者を必ず置いてください |
証憑と保存は、むしろ楽になる
「現金をやめると、税務調査で何か言われないか」と聞かれることがあります。現金で払っても立替やカードで払っても、必要な証憑は領収書・請求書であって、そこは変わりません。むしろ立替精算やカード払いのほうが、支払日・支払先・金額が記録として残ります。
電子データで受け取った領収書の保存要件については、電子帳簿保存法と経理実務に整理しました。カードや精算システムに切り替えると受け取り方が電子に寄るので、廃止と同じタイミングで保存の運用も見直しておくと二度手間になりません。
なお、個別の会計処理や保存要件の当てはめは会社の状況で変わります。切り替えの前に顧問税理士に一度確認してください。
シメゴの考え方
私たちが経理代行としてお預かりするとき、小口現金が残っている会社では必ずこの話をします。理由は率直に言って、現金の実査は外部ではできないからです。金庫の中身を数えるのは、そこにいる人にしかできません。現金が残る限り、その部分だけは社内に残ります。
ただし、私たちのために廃止してくださいとは言いません。外注しなくても、小口現金をなくすだけで担当者の月5時間前後が戻ってくることがあります。実測してみて、それで足りるならそれが正解です。経理の内製化で回る会社に、私たちが入る必要はないと考えています。
私たちが引き受けているのは、置き換え先の設計と、切り替え後の記帳・精算の運用です。分類の表を一緒に埋めて、どの支出がどこに移るのかを1枚にする。ここまで決まれば、あとは社内でも進められます。
まとめ
小口現金の廃止は、残高を減らす作業ではなく置き換え先を決める作業です。順番を逆にすると、数か月で戻ります。
手順は4つ。①直近3か月の現金支出を「何なら代わりになるか」で4分類する。②立替精算に寄せるなら、精算頻度・上限・領収書の出し方を先に決める。③法人カードは枚数を絞り、明細の確認者を必ず置く。④いきなりゼロにせず、上限を下げて1〜2か月で拾い漏れを洗い出す。
そして、店舗の釣銭のように業務に組み込まれた現金は、無理に消さなくて構いません。目指すのは現金の消滅ではなく、経理が毎日現金を追いかけなくてよい状態です。
出納帳の3か月分があれば、分類の表はその日のうちに埋まります。無料コスト診断で現金支出の中身を伺い、どこを何に置き換えられるかを1枚にしてお返しします。廃止するかどうかは、それを見てから決めてください。
※本記事は一般的な実務の整理であり、特定の体制における管理コストの削減幅や、会計処理・証憑保存の適正性を保証するものではありません。仮払金の処理、電子データの保存要件の当てはめを含め、決算・申告に関する最終的な判断は顧問税理士にご相談ください。