記帳代行が「格安」でできる仕組みと、その場合に社内に残るもの
お見積りをお出しすると、こう聞かれることがあります。「ネットで調べたら月5,000円というところがありました。何が違うんですか」。
この質問には、いつも同じ順序でお答えしています。まず、安いところが手を抜いているわけではありません。格安が成立する仕組みははっきりしていて、値引きではなく設計です。そして、その設計で外された部分は消えてなくなるわけではなく、社内に戻ります。
この記事では、記帳代行が安くできる仕組みを分解したうえで、外された範囲がどの作業として社内に残るのかを書きます。あわせて、格安で足りる会社の条件も正直に書きます。当社が最安ではないので、この記事を読んで「うちは安いところで十分だ」と判断されるなら、それが正解です。
なお、料金そのものが何で決まるかは記帳代行の料金は何で決まるかに、依頼できる範囲の全体像は記帳代行とはに分けて書きました。ここでは「安い」の中身だけを扱います。
1|記帳代行の原価は、入力ではなく「迷い」で決まる
安さの仕組みを見る前に、何にお金がかかっているかを共有させてください。ここを取り違えると、見積の比較そのものが噛み合いません。
記帳代行の作業を分解すると、こうなります。
| 工程 | 中身 | 時間の食われ方 |
|---|---|---|
| 受け取る | 通帳・カード明細・領収書・請求書を集め、月分として揃える | 形がバラバラだと、ここだけで往復が発生する |
| 読む | 金額・日付・相手先を確定させる | データ連携なら一瞬。紙とレシートなら件数に比例 |
| 決める | 勘定科目・税区分・部門・補助科目を判断する | ここが本体。判断できない取引は止まる |
| 聞く | 不明点を会社に確認し、回答を待つ | 1件の質問で数日止まる。件数より回数が効く |
| 入れる | 会計ソフトに登録する | ルールが決まっていれば速い |
| 合わせる | 残高照合、前月との比較、明らかな異常の確認 | やるかやらないかで、翌月の手戻りが変わる |
時間を食うのは「入れる」ではなく「決める」と「聞く」です。同じ5万円の支出が、接待交際費なのか会議費なのか、そもそも資産に計上すべきものなのか。これは領収書に書いてありません。その場にいた人にしか分からないので、外の人間が見ても決められない。だから確認が発生し、確認は往復するので日数を食います。
格安プランは、この「決める」と「聞く」を構造的に発生させないように作られています。これが仕組みの正体です。
2|格安が成立する5つの仕組み
広告で見かける安い価格は、次のどれか(たいていは複数)で成立しています。どれも不当なものではありません。
仕組み1|仕訳数に上限を切る
いちばん多い形です。「月50仕訳まで」「月100仕訳まで」と上限があり、超えた分は1仕訳あたりいくらの従量になります。原価が件数に比例するので、これは合理的です。
注意点は、自社の仕訳数を、依頼する側が把握していないことです。通帳の入出金が月40行だから40仕訳、とはなりません。1回の入金に複数の請求が乗っていれば分解されますし、クレジットカードは利用明細の1行ごとに仕訳が立ちます。実際に契約してから上限を超え続け、当初の見積の倍になっていた、という話は珍しくありません。
仕組み2|入力だけを受け、その前後を受けない
証憑の整理、月次での突き合わせ、残高の確認を範囲から外し、渡されたデータをそのまま入力するところまでで区切る形です。安くなるのは当然で、前掲の表でいう「受け取る」「合わせる」を落としているからです。
この形が悪いわけではありません。ただし、入力結果が合っているかを確認するのは会社側になります。試算表が出てきたときに、それを見て違和感に気づける人が社内にいるかどうかが分岐点です。
仕組み3|受け取るデータの形を固定する
「銀行とクレジットカードは会計ソフトに連携済みであること」「領収書は所定のExcelに入力のうえ提出」「紙は受け付けない、または別料金」といった条件です。前掲の「読む」の工程を、依頼する側に寄せているわけです。
連携が効いている会社なら、これは実質的な負担増になりません。むしろ効率がよい。この形が向く会社についてはクラウド会計×経理代行にも書きました。逆に、紙のレシートが毎月封筒で溜まる会社は、この条件を満たすために社内で入力作業が発生します。そこで発生した時間は、支払っている月額には現れません。
仕組み4|判断を発生させない設計にする
不明点はまとめて月1回だけ質問する、あるいは判断が要る取引は仮勘定に入れて会社側へ返す、という運用です。往復の回数を固定すれば、原価は読めます。
結果として、「これは何ですか」と聞かれない代わりに、決算前に仮払金や事業主貸が積み上がっているという状態が起きます。判断が消えたのではなく、後ろに寄っただけです。仮払金の残高がなぜ膨らむのかという構造は仮払金の精算で扱っています。
仕組み5|入口として出し、別のところで回収する
記帳自体を原価割れで受け、決算・申告の報酬や顧問料で回収する形です。会計事務所に多い作りで、これも設計として筋が通っています。
見積を比べるときは、年額で並べないと比較になりません。月額が安くても決算料が別に大きく乗るなら、年間の総額では逆転することがあります。税理士に頼む場合の顧問料との重なりは記帳代行は税理士に頼むべきかに整理しました。
5つに共通しているのは、安さの正体が品質ではなく範囲だということです。範囲が自社に合っていれば、格安は正しい選択です。合っていない場合だけ、外れた範囲が社内の作業として現れます。
3|見積書で必ず確認したい6項目
月額だけを見ても比較できないので、次の6つを聞いてください。すべて、契約前に必ず答えが返ってくる質問です。
| 確認すること | 聞き方 | ここが曖昧だと |
|---|---|---|
| 含まれる仕訳数と超過単価 | 「月◯仕訳まで、超過は1仕訳いくらですか」 | 3か月目から請求額が読めなくなる |
| 仕訳数の数え方 | 「カード明細の1行は1仕訳として数えますか」 | 同じ「50仕訳まで」でも実質が倍違う |
| 証憑の渡し方 | 「紙で送ってよいですか。別料金ですか」 | 社内でのスキャン作業が想定外に発生する |
| 不明点の確認方法と回数 | 「質問はいつ、どの手段で来ますか」 | 月末にまとめて来て、締めが遅れる |
| 決算・年末調整の扱い | 「年額でいくらになりますか」 | 月額の比較が意味を持たない |
| 解約時のデータ | 「やめるとき、データはどの形で戻りますか」 | 移るときに費用と手間が発生する |
最後の1つは、安いプランに限った話ではありません。委託先を変える場面で毎回問題になる論点で、契約書に書かれていないことが多い項目です。契約全般で決めておくべきことは経理を委託するに、預けたあとの運用は経理の外部委託に書きました。
4|格安で足りる会社は、実際にあります
当社に相談されても、「その規模なら安いところで十分です」とお伝えすることがあります。次の条件がだいたい揃っているなら、料金の安さだけで選んで問題が起きにくい会社です。
- 取引が月50件前後まで。件数が少なければ、判断が要る取引の絶対数も少なくなります。
- 事業用の口座とカードが分かれている。個人利用が混ざっていないと、仕分けの判断がほぼ発生しません。
- 現金払いがほとんどない。現金は原価が跳ねる最大の要因です(小口現金の廃止)。
- 取引先の数が少なく、毎月同じ相手が並ぶ。初月に決めた科目を、翌月から機械的に踏襲できます。
- 請求と入金の消込がない、または件数が少ない。消込は判断の塊です。
- 社長が試算表を見て、違和感に気づける。これが最後の砦です。
ひとり法人や、開業して間もない個人事業の多くはここに当てはまります。費用対効果の分岐点は個人事業主・フリーランスの経理は外注すべきかに数字の考え方を書きました。
反対に、次のどれかに当てはまる会社は、格安プランを選んでも差額が社内の作業として戻ってくる可能性が高くなります。
- 複数の事業や部門があり、部門別に損益を見たい
- 立替精算をする人が複数いて、毎月レシートが集まる
- 請求書の発行件数が多く、入金消込に時間がかかっている
- 建設業の工事別、飲食業の店舗別のように、案件や拠点で数字を分ける必要がある
- 借入があり、金融機関へ月次の試算表を出している
最後の項目は特に注意が要ります。提出期限のある試算表は、遅れること自体が実害になります。安いプランは往復の回数を絞る設計なので、締めが遅くなる方向に働きます。ここは料金より納期の条件を先に確認してください。
5|実質の負担は「月額+社内で使う時間」で見る
比較の方法として、いちばん実務的なのがこれです。月額に、社内で発生する作業時間を足して見ます。記帳を外に出しても、次の3つはどの委託先でも社内に残ります。
- 証憑を集めて渡す時間。格安プランでは、渡す形を整えるところまで含まれます。
- 質問に答える時間。回数を絞る設計なら1回あたりが重くなり、まとめて調べ直すことになります。
- 出てきた数字を確認する時間。照合が範囲外なら、ここは会社側の仕事です。
この3つに月何時間かかるかを、担当者の人件費で換算してください。差が数千円の見積を比べているときに、社内で月3時間多く動いていれば、その差は簡単に逆転します。比較すべきは請求書の金額ではなく、会社全体で使っている時間です。
時間の測り方が分からない場合は、1か月だけ記録を取れば十分です。経理の作業を工程で分けて時間を測る手順は経理業務の効率化に書きました。
安さが問題になるのは、会社が変わったとき
格安プランで困る場面は、契約直後ではありません。取引が増えたとき、事業が増えたとき、人が辞めたときです。範囲を絞って安くしている以上、範囲外の要求には応えられないか、都度の追加費用になります。
「いまの規模ならこれで足りる」と「来年も足りる」は別の判断です。1年以内に取引件数が倍になる見込みがあるなら、そのときにどうなるかを契約前に聞いておくと、乗り換えの手間を1回減らせます。委託先の選定基準は経理代行サービスの選び方にまとめています。
6|安さと別に、必ず確認しておきたいこと
料金の話とは切り離して、次の2点だけは価格帯にかかわらず確認をおすすめします。
ひとつは、税務に関する判断をどこまでしてもらえるかです。税務代理、税務書類の作成、税務相談は税理士法第2条第1項に定める税理士の業務であり、記帳代行の事業者が行うことはできません。当社も行っていません。「この処理でよいか」の最終判断が要る場面では、顧問税理士に確認する経路が必要です。この線引きは税理士と経理代行の違いに整理しました。
もうひとつは、証憑の保存の形です。電子取引で受け取った請求書や領収書の保存については電子帳簿保存法に要件が定められており、委託先に渡したら終わり、とはなりません。安いプランで「データは会社側で保存してください」となっている場合、その保存が要件を満たす形になっているかは自社の責任で確認が要ります。詳細は電子帳簿保存法への対応に書きました。個別の要件の当てはめは顧問税理士にご確認ください。
シメゴの場合
当社は最安ではありません。理由を先に書きます。
- 不明点の確認を、まとめずに都度お聞きしています。回数を絞ると原価は下がりますが、仮勘定が積み上がって決算前に戻ってくるためです。
- 残高の照合と前月比較を毎月の範囲に含めています。ここを外すと安くできますが、間違いに気づくのが決算になります。
- 紙のままお預かりしています。整える作業をお客様側に寄せれば安くなるところを、こちらで受けています。
そのうえで、無料コスト診断では「いまは安いところで十分です」という結論もそのままお伝えしています。前掲の6条件に当てはまる会社に、当社の範囲は過剰です。過剰な範囲を売っても続かないので、その場合は現状のままか、もっと軽い形をお勧めしています。
まとめ
記帳代行の「格安」は、値引きではなく範囲の設計です。仕訳数の上限、入力だけに絞る、データの形を固定する、判断を発生させない、入口として出して別で回収する——この5つのどれかで成立しています。
したがって、判断すべきは安いかどうかではなく、外された範囲が自社にとって負担になるかどうかです。取引が少なく、口座が分かれていて、現金がほとんどない会社なら、外された範囲はそもそも発生しません。逆に、部門別や案件別で数字を見たい会社、期限のある試算表を出している会社では、その範囲が社内の時間として戻ってきます。
比較するときは、月額ではなく年額と、社内で使う時間まで含めた合計で見てください。それが、いちばん誤解の少ない見方です。
※本記事は一般的な実務の整理であり、個別の会計処理・税務上の取扱いについて結論を保証するものではありません。記載した料金の形態は当社が実務で見てきた一般的な設計の整理であり、特定の事業者の価格や条件を示すものではありません。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士法第2条第1項に定める税理士の業務であり、当社では行いません。電子帳簿保存法その他の税法上の要件の当てはめについては、顧問税理士等の専門家にご確認ください。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。労働者派遣に該当する形での役務提供は行っておりません。