経理を委託する|業務委託・準委任・派遣で、責任の所在がどう変わるか
「経理を委託したい」というご相談をいただいたとき、私が最初に確認するのは業務の範囲でも金額でもありません。その「委託」が、契約としてどの型を指しているかです。ここが揃っていないまま契約書だけ交わすと、半年後に必ず同じ形で揉めます。「なぜこれをやってくれないのか」と「それは契約に入っていません」が噛み合わない状態です。
先に結論を書きます。世の中で「業務委託」と呼ばれているものの中には、民法上まったく別の2つの契約(請負と準委任)が混ざっています。さらに、経理を外に出す手段としてはもう一つ労働者派遣があり、これは指揮命令の相手が変わるので責任構造がまるごと違います。経理代行のほとんどは準委任です。準委任で約束しているのは成果物の完成ではなく、専門家として注意を尽くして事務を処理することで、この一点が分かっているかどうかで、期待の置き方が変わります。
この記事は契約の型と責任の所在だけに絞っています。どの業務をどこまで任せられるかという範囲の話は経理の外注と経理は「丸投げ」できる?に、社内で1人雇う場合との総コスト比較は経理担当を1人雇う vs 経理代行に整理しています。
「委託」という言葉が指しているのは、3つある
まず並べます。この3つは、約束していることも、指示を出してよい相手も、間違いが起きたときの落としどころも違います。
| 型 | 約束していること | 作業者に指示を出すのは | うまくいかなかったとき |
|---|---|---|---|
| 請負 (民法632条) | 仕事を完成させること | 受託者(自社ではない) | 契約の内容に適合しない成果物なら、修補や報酬の減額を求められる |
| 準委任 (民法656条・644条) | 専門家として注意を尽くして事務を処理すること | 受託者(自社ではない) | 注意を尽くしていたかが問われる。結果が出なかったこと自体が直ちに責任になるわけではない |
| 労働者派遣 (労働者派遣法) | 労働者を指揮命令下で働かせること | 自社(派遣先) | 指示したのは自社なので、作業の当否は自社側に返ってくる |
実務で「業務委託契約書」と書かれている紙は、この上2つのどちらかです。表題では区別がつきません。見るのは表題ではなく、報酬の条項です。「◯◯の完成をもって」「検収後に」と書いてあれば請負に寄っており、「月額」「稼働に応じて」と書いてあれば準委任に寄っています。民法にも、成果に対して報酬を払う型の委任(民法648条の2)と、履行の割合に応じて払う型の両方が用意されています。
経理の委託が、ほとんど準委任になる理由
ここは腹落ちしにくいところなので、実例で書きます。
記帳を請負にしようとすると、「何をもって完成とするか」を定義しなければなりません。ところが経理の仕事は、正解が受託者の側だけでは決まらないものが多いのです。同じ5万円の支払でも、それが接待なのか会議費なのか、あるいは資産に計上すべき支出なのかは、その場にいた人にしか分からないことがあります。領収書には書いていません。
つまり、私たちが完成責任を負える範囲は「いただいた資料と、いただいた回答の範囲で、正しく処理すること」までです。会社側から情報が出てこなければ、どれだけ注意を尽くしても正しい仕訳にはなりません。成果の完成を約束できない構造なので、準委任になります。これは責任逃れではなく、責任の置き場所の問題です。
では、仕訳が間違っていたら誰の責任なのか
準委任だから受託者は責任を負わない、ということではありません。実務では、次のように分かれます。
- 資料が正しく渡っていて、処理を誤った場合。 これは受託者側の落ち度です。当社は無償で修正し、同じ誤りが再発しない形(チェックの手順や確認事項の追加)まで含めてお返しします。ここを「修正は有償」としている会社もあるので、契約前に確認してください。
- 資料が渡っていない、または内容の説明がなかった場合。 これは受託者の責任にはなりません。ただし、不明点を質問しないまま推測で処理していたなら、それは受託者側の落ち度です。「聞いていないから分からなかった」で済ませてよいのは、聞いていた場合だけです。
- 会社の判断が後から変わった場合。 責任の話ではなく、修正の手間を誰が持つかという話になります。ここを事前に決めていない契約が多く、実際に揉めるのはたいていここです。
そして、税務申告の内容そのものの責任は、委託先の経理代行会社には移りません。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士法第2条第1項に定める税理士の業務であり、経理代行会社は行えないためです。この線引きは税理士と経理代行は何が違う?で詳しく整理しています。
指示の出し方によっては、契約の型が変わってしまう
ここが、経理を委託するときに最も見落とされている点です。
請負・準委任として契約していても、実態として自社が作業者に直接の指揮命令をしていれば、それは労働者派遣に当たると判断されます。契約書の名称ではなく実態で判断されるという基準は、厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号、いわゆる37号告示)に示されています。許可を受けずにこれを行えば、労働者派遣法や職業安定法の問題になります。
経理の現場では、悪意なくこうなります。よくあるのは次の形です。
| やってしまいがちな指示 | 何が問題か | 言い換えるなら |
|---|---|---|
| 「明日の朝までに、この分を先に入力しておいて」と担当者に直接依頼する | 作業の順序と時間の指定=指揮命令に近づく | 「この資料は月次に間に合わせたい」と納期と成果で伝える |
| 「Aさんにお願いしたい。Aさんが休みなら来週で」と人を指名する | 誰にやらせるかは受託者が決める領域 | 担当者の指名はせず、品質と連絡窓口を契約で決める |
| 「9時〜17時は連絡が取れる状態にしてほしい」 | 勤務時間の管理に近づく | 返信の期限(例:営業時間内に◯時間以内)で決める |
| ついでに来客対応や電話も頼む | 契約範囲外の業務指示 | 範囲外は都度、追加の依頼として合意する |
分かりやすい線はこうです。「何を、いつまでに」は発注者が決めてよい。「どうやるか、誰がやるか、何時にやるか」は受託者が決める。この2つを混ぜないだけで、大半は避けられます。逆に言えば、時間帯を指定して手を動かしてほしいなら、それは委託ではなく派遣や採用で解くべき課題です。
書面で決めておく4項目
契約書のひな型はどこにでもありますが、経理の委託で実際に効くのは次の4つです。ここが空欄のまま進んでいる契約書を、私はよく見ます。
- 誤りが見つかったときの修正の扱い。 無償か有償か、いつまで遡って対応するか。「前期分が違っていた」ときにどうなるかまで書いてあるかを見てください。
- 資料の提出期限と、遅れたときの扱い。 経理の委託で納期が守られない原因は、9割が資料の到着遅れです。受託側の責任にならない範囲を明記しておくと、お互いに責め合わずに済みます。
- 情報の預け方と、事故が起きたときの連絡経路。 ここは委託して終わりではありません。個人情報保護法第25条は、個人データの取扱いを委託した側に、委託先への必要かつ適切な監督を求めています。給与データを外に出す以上、選定・契約・取扱状況の把握は自社に残る義務です。「任せたので知りません」は通りません。
- 再委託の可否。 実際の入力作業を別の会社や個人に回している場合があります。禁止するか、事前承諾制にするか、範囲を限って認めるか。当社は再委託を行わない前提でご説明しています。
それでも派遣や採用のほうが合う場合
当社に有利な話だけを書いても仕方がないので、委託が向かない場合をはっきり書きます。
- 業務がまだ定義できていない会社。 「何をやってもらうか、やりながら決めたい」という状態では、委託契約は書けません。書いても範囲外が毎回発生します。この段階では、社内に人を置くか、まず工程を切り出す作業から始めるほうが早いです。
- その場で手を動かす人が必要な会社。 来客・電話・押印・郵便物といった、席にいないとできない仕事が経理と混ざっているなら、委託では解けません。派遣や採用の領域です。当社は労働者派遣事業を行っていないため、この場合はそのようにお伝えしています。
- 繁忙期の2か月だけ手が要る会社。 立ち上げに1〜2か月かかるため、実質的に効果が出る前に終わります。この場合は無理にお勧めしません。
シメゴの場合と、正直に申し上げること
当社の契約は準委任です。記帳から月次のご報告までを月5万円からお引き受けし、指揮命令はお受けしない代わりに、期限と品質の側で責任を持ちます。そのうえで3点、先にお伝えしています。
- 「完成」を約束する契約にはできません。 会社側にしかない情報が必ずあるためです。その代わり、判断に迷った箇所は推測で処理せず、必ずご確認します。質問が多いと感じられることがありますが、そこを飛ばすと後から直す作業のほうが大きくなります。
- 担当者の指名や、作業時間の指定はお受けできません。 これは当社の都合ではなく、契約の型が変わってしまうためです。代わりに、連絡窓口と返信の期限は契約で明確にします。
- 委託しても、監督する側の手間はゼロにはなりません。 個人データの取扱いを外に出す以上、選定と管理の責任はお客様に残ります。当社は取扱状況をご報告する形で、その負担を実務的に軽くする設計にしていますが、義務そのものが消えるとは申し上げません。
まとめ
経理の委託でいちばん多い失敗は、金額でも業者選びでもありません。請負のつもりで頼み、準委任として動かれているという、期待の型のずれです。
ですので、契約書を読むときは表題ではなく報酬条項を見てください。そして、日々の依頼が「何を、いつまでに」の形になっているかを確認してください。「どうやるか」「誰が」「何時に」まで踏み込んだ瞬間に、契約の型は変わります。範囲を戻したくなったときの考え方は経理の内製化に、担当者が変わるときに何を渡すべきかは経理の引き継ぎに整理しています。
いまの業務が委託で解けるのか、それとも人を置くべきなのか。無料コスト診断では、現在の業務の並びを拝見して、そこから切り分けてお返ししています。委託には向かないという結論になるなら、そうお伝えします。
「委託で解ける仕事」と「人を置かないと解けない仕事」を、先に分けます。
契約の型・責任分界・情報の預け方まで、書面に何を書くかの形でご説明します。向かない場合は、そうお伝えします。
無料コスト診断を受ける →※本記事は一般的な実務の整理であり、個別の契約内容・法的評価について結論を保証するものではありません。契約の類型(請負・準委任・労働者派遣)の該当性は契約書の名称ではなく実態に即して判断されるため、実際のご検討にあたっては契約書面をもとに弁護士等の専門家にご確認ください。労働者派遣・請負の区分については厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)を、個人データの委託先監督については個人情報保護委員会のガイドラインを、それぞれ最新の内容でご確認ください。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士法第2条第1項に定める税理士の業務であり、当社では行いません。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。