記帳代行は税理士に頼むべきか|顧問料に含まれているかの見分け方と、分けたほうがよい条件
「記帳は顧問税理士の先生にお願いしているのですが、それでよいのでしょうか」というご相談を、月に何件かいただきます。多くの場合、この質問の裏にあるのは料金への疑問ではありません。頼んでいるのに、数字が出てくるのが遅い。あるいは、領収書を渡してから試算表が返ってくるまで、社内で何をしているのかがわからない。そういう手触りの悪さが先にあって、後から「これは税理士に頼むべき仕事なのだろうか」という形の質問になって出てきます。
先に結論を書きます。記帳代行を税理士に頼むべきかどうかは、会社の規模でも売上高でも決まりません。決めるのは2つだけです。いま払っている顧問料の内訳に記帳がどう入っているかと、月次の数字をいつまでに見たいか。この2つが決まれば、答えはほぼ自動的に出ます。逆にこの2つを確認しないまま「税理士は高いから記帳代行に」と切り替えると、総額が上がることがあります。
この記事は「記帳という業務を、税理士事務所と記帳代行のどちらに置くか」という置き場所の判断に絞っています。税理士と経理代行の役割分担そのものは税理士と経理代行は何が違う?に、記帳代行という業務の中身と料金相場は記帳代行とは?に整理しています。
前提:記帳代行は、税理士でなければできない仕事ではない
ここを誤解したまま検討している方が、実際にかなりいらっしゃいます。「帳簿に関わることだから税理士でないと違法なのでは」というご質問です。
税理士法第2条第1項は、税理士の業務を税務代理・税務書類の作成・税務相談の3つとしています。そして同法第52条は「税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない」と定めています。制限がかかっているのは、この第2条第1項の3つです。確定申告書を他人のために作成することが税理士でなければできないのは、それが「税務書類の作成」に当たるからです。
一方で記帳代行は、同法第2条第2項に「税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる」という形で登場します。これは税理士が付随して行える業務という規定であって、税理士でなければ行えないという規定ではありません。ですので、記帳代行会社が記帳を引き受けること自体に問題はありません。
整理すると、線はこう引かれています。
| 仕事 | 税理士でなければできないか |
|---|---|
| 法人税・消費税の申告書の作成、税務署への提出代理 | 税理士の業務 |
| 個別の取引について、税務上どう扱うかの判断・相談 | 税理士の業務 |
| 税務調査の立会い・対応 | 税理士の業務 |
| 証憑をもとに仕訳を起こし、会計帳簿に入力する | 税理士の独占業務とはされていない |
| 試算表・月次レポートを作る | 税理士の独占業務とはされていない |
| 請求書の発行、入金消込、支払データの作成 | そもそも会計の外側の作業 |
つまり「どちらに頼んでもよい」というのが出発点です。だから逆に、選ぶ側が基準を持たないと決められません。
頼み方は3つある
実務で見かける形は、おおむね次の3つに収まります。
| A:顧問税理士に記帳も込みで | B:記帳代行+税理士は申告中心 | C:自社で記帳+税理士が確認 | |
|---|---|---|---|
| 月額の見え方 | 顧問料に混ざって見えにくい | 2社に分かれ、内訳が見える | 会計ソフト代のみ |
| 月次が出るタイミング | 事務所の繁忙期に左右されやすい | 締切を契約で決められる | 担当者の手が空いたとき |
| 質問の窓口 | 1つ | 2つになる | 1つ |
| 税務の相談 | その場でできる | 税理士へ回す一手間がある | その場でできる |
| 決算期の負荷 | 低い(同じ事務所で完結) | データの受け渡しが要る | 中(社内で資料を揃える) |
| 向いている会社 | 仕訳が少なく、税務判断が多い | 仕訳が多い/月次を早く見たい | 担当者がいて、手が足りている |
ここで見落とされがちなのがCです。「外に出すかどうか」の話をしているつもりが、実は「社内でやる余力があるか」の話だったというケースは珍しくありません。自社の担当者が入力を続けられるなら、Cがいちばん安く、いちばん速いこともあります。
まず確認すべきは、顧問料に記帳が「含まれている」かどうか
Aで運用している会社に、私たちが最初にお願いするのは、見積書ではなく契約書の別紙を出してきていただくことです。「顧問料に記帳も含まれています」と言われていても、別紙を読むと条件が付いていることが多いためです。
確認していただきたいのは4点です。
- 仕訳数の上限があるか。 「月◯仕訳まで」という記載があれば、それを超えた分は別途になります。取引が増えた年に請求が増えていた場合、値上げではなくこの条項が効いています。
- 証憑をどの形で渡すことになっているか。 「整理済みの証憑をご提供いただく」と書かれていれば、封筒に入れたまま渡す運用は契約の外です。ここが「丸投げは別途料金」の正体になっていることがあります。
- 試算表をいつまでに返すと書いてあるか。 期限が書かれていない契約は珍しくありません。書いていなければ、遅いことを理由に交渉するのは難しくなります。
- 記帳が「含む」なのか「別途」なのか、金額が分かれて書かれているか。 分かれていれば比較ができます。分かれていなければ、まずそこを分けてもらう相談から始めます。
この4点を確認するだけで、切り替えの必要がなくなる会社が一定数あります。遅いのは事務所の怠慢ではなく、証憑の渡し方が契約の想定と違っているだけ、という結論になることがかなり多いからです。その場合、渡し方を変えれば解決します。外注先を変えるより、はるかに安く済みます。
税理士に集約したほうがよい会社/分けたほうがよい会社
集約したほうがよい
- 月の仕訳数が少ない会社。 目安として月50件を下回るなら、記帳を分離しても浮く時間が小さく、窓口が2つになる手間のほうが上回ります。
- 毎月のように税務の判断が出る会社。 資産の購入、役員報酬の改定、補助金の入金、海外取引。仕訳を起こす段階で税務の判断が要るなら、判断する人が入力していたほうが速いです。
- 月次を必ずしも早く見なくてよい会社。 決算と申告が回れば十分という方針なら、分ける理由がありません。
分けたほうがよい
- 翌月10日ごろまでに月次を見たい会社。 税理士事務所は3月〜5月と12月〜1月に業務が集中します。その時期に月次が遅れることを構造的な問題として受け入れられないなら、記帳の締切を別途契約で持ったほうが確実です。締めを早める全体の考え方は月次締めの早期化にまとめました。
- 仕訳数が多い会社。 件数で料金が動く仕事なので、量が多いほど専業に出したほうが単価が下がる傾向があります。
- 会計の外側の作業が重い会社。 請求書の発行、入金の消込、支払データの作成。これらは会計帳簿の話ではないので、税理士事務所では通常お引き受けの範囲外です。ここが重い会社は、記帳だけ動かしても楽になりません。
- 質問の往復が多い会社。 「この経費は何ですか」という問い合わせが毎月何十件も発生しているなら、それは記帳の問題ではなく証憑の受け取り方の問題です。クラウド会計と組み合わせた運用で、往復そのものを減らせる場合があります。
分けるときに必ず決めておく3つ
記帳代行と税理士を分けて失敗するのは、料金の問題ではありません。決算の直前で情報が渡らず、結局どちらも待っている状態になることです。これは次の3つを最初に決めておけば起きません。
- 会計データのアカウントは、会社名義で持つ。 クラウド会計の契約者が記帳代行会社になっていると、切り替えのたびにデータの移行が発生します。契約は会社名義にして、記帳代行会社と顧問税理士の両方を招待する形にしてください。これは私たちに依頼される場合も同じで、アカウントはお客様の名義でお持ちいただいています。
- 締切と、最終確認をする人を決める。 「毎月◯日までに記帳代行が入力を終え、◯日までに顧問税理士が確認し、◯日に月次を確定する」。ここまで書ければ、遅れたときにどこで止まっているかがすぐわかります。
- 決算前に何を渡すかを、リストにしておく。 決算整理は税理士の領域ですが、そのために必要な資料(棚卸、固定資産の増減、未払・前払の一覧、借入の返済予定表)を誰が用意するかは決まっていないことが多い項目です。これを先に紙にしておくと、決算期に慌てません。月次決算のやり方で毎月ある程度潰しておけるものもあります。
この3つは、契約書に書くというより、最初の打ち合わせで3社(会社・税理士・記帳代行)の認識を合わせておく類のものです。顧問税理士の先生に黙って記帳代行を入れるのが、いちばん揉めます。先に相談すると、事務所側から「その分、顧問料を下げます」という提案が出てくることもあります。
切り替えるなら期首がいちばん安全
時期についてもよく聞かれます。いちばん安全なのは期首からです。期の途中で入力する人が変わると、勘定科目の使い方や補助科目の付け方が期の前半と後半でずれ、決算のときに並べ直す作業が発生します。
期中に切り替える必要がある場合は、切替月以降だけを新しい体制で処理し、それより前は触らないのが原則です。過去の月まで遡って入力し直すと、すでに提出した消費税の中間申告や、金融機関に出した試算表との整合が取れなくなることがあります。過去を直すかどうかは、必ず顧問税理士の先生の判断を仰いでください。
あわせて、引き継ぎでは手順書よりも判断の理由を渡すことのほうが重要です。「この支払はなぜこの科目なのか」が渡らないと、新しい担当者は前年と違う科目を使い、比較ができなくなります。この点は経理の引き継ぎに詳しく書きました。
シメゴの立場と、正直に申し上げておくこと
私たちは記帳代行と月次までをお引き受けする会社です。そのうえで、3つお伝えしておきます。
- 税務申告書の作成・提出の代理は行いません。 私たちができるのは記帳と月次のご報告までで、申告は顧問税理士の先生にお願いする形になります。顧問税理士がいらっしゃらない会社には、提携する税理士をご紹介します。
- 仕訳数が月50件に満たない会社は、顧問税理士に集約したほうが総額が安くなることが多いです。 その場合は、そのようにお伝えしています。無理に分離しても、浮く時間より窓口が増える手間のほうが大きくなります。
- 分けることで生まれる価値は、月次の速さと、会計の外側の作業を引き受けられることの2つだけです。 このどちらも必要ない会社にとっては、分ける意味はありません。料金相場の記事にも書きましたが、金額だけを比べて決める話ではないと考えています。
まとめ
記帳代行は税理士でなければできない仕事ではないので、税理士事務所にも記帳代行会社にも頼めます。だからこそ、選ぶ基準を自社で持つ必要があります。
順番はこうです。まず契約書の別紙を読んで、顧問料に記帳がどう入っているかを確認する。次に、月次をいつまでに見たいかを決める。この2つで答えが出なければ、いまのままで問題ありません。分けると決めたなら、会計データの名義・締切と確認者・決算前に渡すものの3つを最初に決めてください。
いまの顧問料の内訳と仕訳数を拝見すれば、分けたほうが安くなるのか、集約したままのほうがよいのかは、その場でおおよそ判断がつきます。無料コスト診断では、この試算をお返ししています。いまのままがよいという結論になるなら、そうお伝えします。
※本記事は一般的な実務の整理であり、個別の法令解釈・税務上の取扱いを保証するものではありません。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士法第2条第1項に定める税理士の業務であり、当社では行いません。記載の目安(仕訳数など)は当社が実務で用いている判断材料であって、基準を保証するものではありません。契約内容・料金は各社によって異なりますので、実際のご検討にあたっては各社の契約書面をご確認ください。