仮払金の精算|残り続けるのは、ルールではなく「渡し方」の問題です
引き継ぎで会社の残高を一通り見せていただくとき、私がほぼ必ず開く科目があります。仮払金です。ここに1年以上動いていない金額が数件残っている会社は、かなり多いです。金額は数万円のこともあれば、数十万円のこともあります。担当者に聞くと、たいてい返ってくる答えは同じです。「たぶん出張のやつだと思うんですが、誰のか分からなくて」。
先に結論を書きます。仮払金が残るのは、精算のルールが甘いからではありません。渡す時点で「いつまでに、誰が、何を出したら終わりか」が決まっていないからです。だから直す場所は精算の側ではなく、渡す側にあります。ルールを厳しくしても、渡し方が同じなら来年も同じ残高が残ります。
この記事は仮払金という科目の残高をどう畳むかに絞っています。従業員が先に自腹を切る立替払いの側の運用は経費精算代行とはに、現金そのものを社内から無くす話は小口現金の廃止にまとめました。
仮払金は「まだ何にも決まっていない」ことを表す科目
仮払金は、使い道や金額が確定する前にお金だけ先に渡したときに使う科目です。出張前に交通費と宿泊費の概算を渡す、材料の買い付けに現金を持たせる、といった場面で出てきます。
ここで大事なのは、仮払金は「仮」の置き場であって、最後まで残っていていい科目ではないということです。出張から戻って領収書が出てくれば、旅費交通費に振り替わって消えます。つまり残高が残っているということは、振り替えるための情報がまだ手元に来ていない、という意味になります。金額の問題ではなく、情報が来ていないことの表示です。
この見方をすると、残高の意味が変わります。10万円の仮払金が残っているのは「10万円が行方不明」なのではなく、「10万円分の使い道が、誰かの頭とカバンの中にしか無い」状態です。だから追いかける先は帳簿ではなく人です。
残り続ける仮払金は、だいたい4つの型に分かれる
これまで見てきた限り、滞留している仮払金はほぼ次の4つに分類できます。原因が違うので、打ち手も変わります。
| 型 | よくある中身 | 効く打ち手 |
|---|---|---|
| ① 期限を決めずに渡した | 出張・買い付けの概算払い。戻ってきたが精算を催促していない | 渡す時点で精算期限を書面に載せる。締切が無いものは動かない |
| ② 領収書が出ない支出に使われた | 慶弔費、割り勘の会食、自動販売機、公共交通機関の運賃 | 領収書が出ない場合の代替(出金伝票・案内状・記録の残し方)を先に決めておく |
| ③ 差額の返金が止まっている | 概算5万円→実費3.8万円。残り1.2万円を戻すのが面倒で放置 | 返金は現金手渡しにしない。給与控除か振込で、経理が金額を確定させる |
| ④ 精算する人がもういない | 退職者・異動者の仮払金がそのまま残っている | 退職手続のチェックリストに仮払金残高の確認を入れる。事後の回収は難しい |
この4つのうち、金額として大きくなりやすいのは①と④です。とくに④は、退職の連絡が経理に来るのが最後になる会社で必ず起きます。最終給与の計算をする時点で仮払金の残高を見ていれば防げるのに、その一手が手順に入っていないだけのことが多いです。
逆に、件数として一番多いのは②です。慶弔費のように領収書が出ない支出は、渡した本人も「何を出せばいいのか分からない」ので止まります。これは本人の怠慢ではなく、会社が受け取り方を決めていないことによる停滞です。
決算まで持ち越すと、話が経理の外に出る
仮払金が期末をまたぐと、社内の整理の話では済まなくなることがあります。実務で指摘を受けやすいのは次の3つの場面です。
- 税務の場面:長期間精算されない仮払金について、実質的に役員や従業員への貸付・給与ではないかという観点で確認を受けることがあります。とくに役員に対するものは論点になりやすい部分です
- 金融機関の場面:融資の審査で決算書を見られるとき、内容の分からない仮払金や貸付金は、そのまま資産として評価されないことがあります。実態のある資産と区別して見られる、という言い方をされます
- 監査・株主の場面:監査を受けている会社では、滞留している残高は必ず内訳の説明を求められます
ここでの取扱いは会社の状況や金額、経緯によって変わりますし、税務上の判断は個別性が強い領域です。自社の残高が実際にどう扱われるかは、必ず顧問税理士にご確認ください。この記事で申し上げたいのは、金額の大小より「説明できない残高を期末に持ち越さない」ことのほうが実利がある、という一点です。
直し方は3つ。順番が大事です
① 仮払を出す条件をまず絞る
いちばん効くのは、精算の運用を整えることではなく、そもそも先に渡さないで済む形を増やすことです。仮払金は、社員に現金の負担をさせないための仕組みでした。今はそれを別の手段で代替できます。
| 従来の仮払 | 置き換え先 | 残高への効き方 |
|---|---|---|
| 出張の交通費・宿泊費 | 会社が直接手配して会社に請求書が来る形にする | そもそも仮払金が発生しない |
| 現地での飲食・雑費 | 法人カード(個人別カード)を持たせる | 利用明細が自動で残るので、精算が「明細への用途記入」だけになる |
| まとまった買い付け | 取引先と掛け取引にする、または会社口座から直接振込 | 現金を持ち歩く必要が消える |
| 少額の立替 | 本人が立て替え、月次でまとめて精算 | 仮払金ではなく未払費用の側で処理される |
この置き換えをすると、仮払金は「例外的に必要なときだけ使う科目」に戻ります。残高が減らないと悩んでいる会社の多くは、減らす努力の前に、増やすのを止めていません。
② 渡す時に、期限と終わり方を紙に書く
それでも仮払が必要な場面は残ります。そのときは、申請書に必ず次の3つを書いてください。難しい様式は要りません。1枚に3行で足ります。
- 精算期限:「出張から戻った日から5営業日以内」のように、日付が自動的に決まる書き方にする。「速やかに」は期限ではありません
- 差額の戻し方:余ったお金をどう返すか。現金で戻すのか、給与から控除するのか。ここを決めていないと③の型で止まります
- 領収書が出ない場合の代替:慶弔費なら案内状や記録、交通費なら経路と金額の記載。何を出せば終わりかを先に示す
この3行があるだけで、滞留の大半は消えます。担当者が催促しづらい会社ほど効きます。催促は個人が言いにくいことでも、様式に書いてあれば「様式どおりです」で済むからです。
③ 月次で、残高を1行ずつ潰す
残ってしまった分は、月次の作業に組み込んで潰します。やることは単純で、仮払金の残高を「人別・発生日別」で一覧にすることです。合計金額だけを見ていても何も動きません。
| 経過日数 | 状態の見方 | その月にやること |
|---|---|---|
| 30日以内 | 正常。まだ精算の途中 | 放置してよい |
| 31〜90日 | 止まっている。本人は忘れかけている | 本人へ個別に連絡。何が出せていないのかを聞く |
| 91日以上 | 自然には動かない。上長を巻き込む段階 | 金額・日付・担当者名を上長へ共有し、期日を切って処理を決める |
| 期末をまたぐもの | 説明を求められる残高 | 内容を確定させ、扱いを顧問税理士に相談する |
この一覧を、月次の締め資料に毎月同じ形で載せてください。別ファイルで管理表を作ると開かれなくなります。締め資料に載っていれば、毎月自動的に目に入ります。月次の締めそのものを早くする話は月次締めの早期化に書きました。
ルールを作っても守られない会社に共通すること
「精算規程は作ってあるんです」という会社は少なくありません。それでも残高が減らないのは、たいてい次のどちらかです。
ひとつは、渡す人と精算を求める人が同じ場所にいるケースです。総務や経理の担当者が、上司や役員に対して「精算してください」と言わなければならない構造だと、催促は止まります。これは担当者の性格の問題ではありません。言いにくい相手に督促させる設計になっていること自体が原因です。だから、残高一覧を出す先を「本人」ではなく「本人と上長の両方」にするだけで動きが変わります。
もうひとつは、精算しないことに何も起きないケースです。次の仮払がまた出てしまう。ここは、前の仮払が残っている人には新しい仮払を出さない、という一行の運用で止まります。厳しく見えますが、これが最も摩擦の少ない止め方です。規程よりも、次の申請が通らないほうが効きます。
要するに、仮払金の滞留は個人の意識ではなく工程のつなぎ目の設計の問題です。同じ考え方は経理業務フローの作り方にまとめています。
シメゴの考え方
私たちが経理をお預かりするとき、初月に必ずやるのが仮払金と立替金の棚卸しです。人別・発生日別に並べ直して、いつのものか分からない残高を洗い出します。この作業自体は、仕訳データさえあれば半日で終わります。特別なことは何もしていません。
正直に書くと、その後の督促は社内でやっていただくほうが早いです。「あの出張の精算、まだですよね」と本人に言う仕事は、外部の会社より社内の人が言ったほうが確実に動きます。私たちが引き受けているのは、その前段の「誰の、いつの、いくらが止まっているか」を毎月同じ形で出し続けるところと、精算の受け皿を作るところです。
ですので、残高一覧を人別で出す仕組みが社内にあり、それを見て動く人がいるなら、この件で外注する必要はありません。実際に、私たちが最初の一覧を出しただけで、翌月には残高がほぼ消えた会社もあります。見えていなかっただけで、見えれば片づくものも多いというのが実感です。
まとめ
仮払金が残り続ける原因は、精算ルールの緩さではなく渡し方にあります。渡す時点で、精算期限・差額の戻し方・領収書が無いときの代替、この3つが決まっていないものが滞留します。
直す順番は、①そもそも先に渡さない形(会社手配・法人カード・掛け取引)に置き換えて発生を減らす、②残った仮払には申請書の3行で期限と終わり方を書く、③月次で人別・発生日別の残高一覧を締め資料に載せて1行ずつ潰す、です。
そして、前の仮払が残っている人には次の仮払を出さない。規程を厚くするより、この一行のほうが効きます。期末をまたいだ残高は税務・融資の場面で説明を求められることがあるので、内容が固まらないものは早めに顧問税理士へ相談してください。
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※本記事は一般的な実務の整理であり、個別の会計処理・税務上の取扱いを保証するものではありません。仮払金の税務上の判断は金額・経緯・相手方によって異なり、制度改正により取扱いが変わることもあります。税務申告書の作成・提出の代理は税理士の業務です。自社の処理については顧問税理士にご確認ください。