経理事務の代行|「入力だけ」を出したときに社内に残る手間
「経理の事務作業を代行してほしい」というご相談で、最初にお聞きしているのは同じ質問です。「その事務作業というのは、どこからどこまでを指していますか」。
この確認をするのは、意地悪をしたいからではありません。経理事務の代行という言葉で外に出ていくのは、多くの場合いちばん最後の入力工程だけだからです。そして入力は、経理の一連の流れのなかで最も判断が少ない工程でもあります。
お引き受けした案件でも、契約から2〜3か月経ってから「思ったほど楽になっていない」というお話をいただくことがあります。原因はほぼ一つで、外に出したのが入力だけで、その前後の作業が社内に残ったままだった、というものです。
この記事では、入力だけを外に出したときに社内へ何が残るのかを工程ごとに分解します。あわせて、残った手間が単純な作業時間ではなく「中断」として効いてくる理由と、どこで切れば負担が実際に減るのかを書きます。
なお、そもそも経理にどんな作業があるのかの全体像は経理業務の一覧に、丸ごと任せる場合の境界線は経理は「丸投げ」できるかに分けて書きました。ここでは「入力だけを出した場合」という一点だけを扱います。
1|経理の作業を工程で並べると、入力は最後の1つでしかない
月次の経理を、実際の順番どおりに並べると次のようになります。会社の規模や業種で細部は変わりますが、順番はほとんど変わりません。
| 順 | 工程 | やっていること | 誰がやれるか |
|---|---|---|---|
| 1 | 集める | 通帳・カード明細・請求書・領収書・立替精算を月分として集める | 社内。取引の当事者に依頼が要る |
| 2 | 揃える | 抜けを確認し、読める形(PDF・CSV・Excel)にする | 社内。または追加費用で委託先 |
| 3 | 決める | 勘定科目・税区分・部門・補助科目を判断する | 判断材料があれば委託先。無ければ社内 |
| 4 | 入れる | 会計ソフトに登録する | 委託先。ここが「事務代行」で出る部分 |
| 5 | 合わせる | 残高照合、前月比較、明らかな異常の確認 | 契約次第。範囲外のことが多い |
| 6 | 使う | 出てきた数字を見て、必要なら手を打つ | 社内。ここは外に出せない |
「経理事務の代行」という言葉が指しているのは、この表の4だけであることが少なくありません。見積書に「記帳入力業務」「仕訳入力代行」と書かれていれば、それは4です。1・2・3・5・6は、明記されていない限り社内に残ります。
ここで問題になるのは、依頼する側が「経理を外に出した」と認識するのに対し、実際に減ったのは6工程のうち1工程だという食い違いです。しかも減った1工程は、経理の担当者が「作業らしい作業」として自覚していた部分でもあります。自覚していた仕事が消えて、自覚していなかった仕事だけが残る。だから、減った実感より残った負担のほうが目立ちます。
2|入力だけを出したときに社内へ残る5つの手間
工程の話を、実際に社内で発生する作業に置き換えます。次の5つは、入力だけを委託した場合にほぼ確実に残ります。
手間1|証憑を集めて、渡せる形にする
いちばん重く、いちばん軽視されている作業です。営業担当が持っている領収書、現場が受け取った請求書、社長のカード明細。これらを月末に集めるのは、経理の作業ではなく社内調整の作業です。督促の回数がそのまま所要時間になります。
委託先の多くは「所定の形式で提出」を条件にしています。紙をスキャンする、Excelの様式に転記する、ファイル名を規則どおりに付ける。この整える作業は、入力を外に出したことで新しく発生した仕事です。渡す相手ができたことで、それまで曖昧に済ませていた形が固定されるためです。
手間2|不明点の質問に答える
入力を受けている側は、判断材料を持っていません。「7月18日の38,500円は何の支出ですか」「この入金は誰への請求分ですか」という質問が来ます。
回答するには、社内の誰かに聞き直す必要があります。1件の質問に対して、社内で1往復、委託先と1往復。件数ではなく往復の回数が時間を食います。この構造は記帳代行が「格安」でできる仕組みでも触れました。安いプランほど質問をまとめる設計なので、1回あたりの負担が重くなります。
手間3|出てきた数字を確認する
入力が終わって試算表が出てきます。それが合っているかを確認するのは、契約に照合が含まれていなければ会社側の仕事です。
ここで実務上よく起きるのが、確認しないまま使ってしまうことです。外に出した安心感で、出てきた数字をそのまま経営会議や金融機関への提出に回す。入力自体が正確でも、渡した資料が抜けていれば数字は当然合いません。そして抜けに気づけるのは、渡した側だけです。
手間4|自社のルールを維持する
勘定科目の使い分け、部門の切り方、補助科目の粒度。これは会社ごとの決めごとで、委託先は初月に教わったとおりに踏襲します。
つまりルールが変わったとき、伝えるのは会社側の責任です。新しい事業を始めた、部門を分けた、補助金を受けた。伝え忘れると、3か月分をまとめて直すことになります。判断のルールを文書にしておく方法は経理マニュアルの作り方に書きました。
手間5|期限を守らせる管理
入力が終わる日は、証憑を渡した日で決まります。渡すのが遅れれば、そのぶん試算表は遅れます。締めの期限を守る責任は、外に出しても社内に残ります。
金融機関に月次を提出している会社では、ここが最も痛みます。締めを早めるときに動かすべき場所は月次締めの早期化に整理しました。
3|残る手間は「時間」ではなく「中断」として効く
ここが、依頼する前と後で感覚がずれる理由です。
入力を外に出すと、まとまった作業時間は確かに減ります。2日かけていた入力が0日になる。これは事実です。ところが残った作業は、性質がまったく違います。証憑の督促、質問への回答、ルールの伝達。これらは短くて、いつ来るか読めず、他人を巻き込むという共通点を持っています。
| 外に出た作業(入力) | 社内に残る作業(前後) | |
|---|---|---|
| 1回あたり | 長い(数時間〜数日) | 短い(数分〜30分) |
| 発生タイミング | 決まっている(月初など) | 読めない(相手の都合) |
| 他人の関与 | ひとりで完結する | 必ず誰かに聞く/頼む |
| 止まったときの影響 | 自分が遅れるだけ | 締め全体が止まる |
| 記録への残り方 | 残る(作業として認識される) | 残らない(雑務として消える) |
合計時間だけを見れば減っています。それでも「楽になっていない」と感じるのは、減ったのが集中できる時間で、残ったのが集中を切る時間だからです。担当者の実感としては、こちらのほうが重く出ます。
したがって、事務代行を検討するときに測るべきは「入力に何時間かかっているか」だけではありません。経理に関して、月に何回中断が発生しているかを並べて見る必要があります。工程ごとに時間を測る手順は経理業務の効率化に書きました。
4|工程のどこで切るかで、残る手間は変わる
入力だけを出すのが悪いわけではありません。切る位置を選べると知っておくと、判断が変わります。実務では次の3段階に分かれます。
| 切り方 | 外に出る工程 | 社内に残るもの | 向く会社 |
|---|---|---|---|
| A|入力だけ | 4(入れる) | 集める・揃える・決める・合わせる・使う | 整理する担当者が社内にいて、判断もできる会社 |
| B|入力+判断 | 3・4(決める・入れる) | 集める・揃える・合わせる・使う | 証憑は集まるが、科目の判断ができる人がいない会社 |
| C|受け取りから照合まで | 2〜5 | 集める(渡す)・使う | 経理の担当者が退職した/兼務で回らない会社 |
Aで足りるのは、整理と判断ができる人が社内に残っている場合です。この場合、入力という単純作業だけを外に出すのは合理的で、費用も最も抑えられます。
問題は、その人が辞めたことをきっかけに代行を検討しているケースです。この状況でAを選ぶと、辞めた人がやっていた1〜3と5が誰にも割り当てられないまま残ります。他の社員が片手間で引き継ぎ、数か月で回らなくなる。引き継ぎで実際に渡っていないのは手順ではなく判断の理由だという話は経理の引き継ぎに書きました。
逆に、Cまで出せば社内に残るのは「渡す」と「使う」だけになります。費用は上がりますが、担当者の中断は大きく減ります。費用の差より、中断の差のほうが実務では効きます。範囲ごとの費用感は経理代行の料金相場を参照してください。
5|切り出すときに決めておく4項目
どの切り方を選ぶ場合でも、契約前に次の4つを文字にしておくと、後から揉めません。いずれも見積書には書かれないことが多い項目です。
- 証憑を渡す期限と手段。「毎月◯日までに、共有フォルダへPDFで」まで決めます。ここが曖昧だと、遅れの責任が宙に浮きます。
- 判断できない取引の扱い。質問して待つのか、仮勘定に入れて先へ進むのか。後者を選ぶ場合、決算前に残高が積み上がることを織り込んでおきます(仮払金の精算)。
- 照合をどちらがやるか。残高照合と前月比較が範囲に入っているかどうか。入っていなければ、社内で見る人を決めます。
- 質問の来る頻度と経路。都度なのか月1回なのか、誰宛に来るのか。担当者が不在のときの代理も決めておきます。
4項目とも、答えられない委託先はありません。聞けば必ず出てきます。聞かないまま始めると、3か月後に「そこは範囲外です」という会話になります。選定時に見るべき点の全体は経理代行サービスの選び方に整理しています。
6|入力だけの代行が正しい選択になる会社
ここまで残る手間を書いてきましたが、Aの切り方が最適な会社は実際にあります。次の条件が揃っているなら、入力だけを出すのが費用対効果として最も良い形です。
- 証憑が自然に集まる仕組みがある。経費精算がシステム化されている、請求書が電子で届く、現金払いがほとんどない。
- 科目の判断ができる人が社内にいて、当面辞めない。判断は外に出しにくい部分なので、ここが社内にあるのは強みです。
- 試算表を見て違和感に気づける人がいる。照合を外していても、最後に人の目が入ります。
- 取引のパターンが安定している。毎月ほぼ同じ相手・同じ科目なら、伝達の手間が小さく済みます。
- 単純に件数が多い。件数が多いほど入力工程の比率が上がるので、外に出した効果がそのまま出ます。
最後の条件は重要です。入力だけの代行がいちばん効くのは、件数が多くて判断が単純な会社です。ECのように定型の売上が並ぶ会社や、毎月同じ取引先へ同じ内容の請求が立つ会社が典型例です。逆に、件数は少ないのに1件ごとの判断が重い会社では、入力を外に出しても体感がほとんど変わりません。
シメゴの場合
当社では、お問い合わせの段階で「入力だけで足ります」とお伝えすることがあります。前掲の5条件に当てはまる会社に、受け取りから照合まで含んだ範囲は過剰だからです。
一方で、経理担当者の退職をきっかけにご相談いただいた場合は、入力だけを切り出す形はお勧めしていません。理由は、辞めた人がやっていた仕事の大半が入力ではなかったからです。この場合は、まず1〜3と5のどこが誰の手に落ちるかを一緒に並べてから、範囲を決めています。
無料コスト診断では、いまの経理を工程で分解して、どこを切るのが最も中断が減るかをお出ししています。範囲を広げる提案をするとは限りません。
まとめ
経理事務の代行という言葉で外に出るのは、多くの場合「入れる」工程だけです。その前にある「集める」「揃える」「決める」、後ろにある「合わせる」「使う」は、契約に明記されていなければ社内に残ります。
残った作業は、合計時間としては小さくても、短くて・読めなくて・他人を巻き込むという性質を持つため、担当者の実感としては重く出ます。「外に出したのに楽になっていない」という感覚は、ここから来ています。
判断するときは、入力に何時間かかっているかだけでなく、経理に関して月に何回中断しているかを数えてください。そのうえで、入力だけ(A)/判断まで(B)/照合まで(C)のどこで切るかを選ぶ。切る位置を選べると分かっているだけで、契約の中身は変わります。
いまの経理を工程で分けると、どこを出すのが効きますか。
証憑の集まり方と判断の重さを拝見して、切る位置と概算をお出しします。「入力だけで足ります」という結論もそのままお伝えします。
無料コスト診断を受ける →※本記事は一般的な実務の整理であり、個別の会計処理・税務上の取扱いについて結論を保証するものではありません。記載した委託範囲の区分は当社が実務で見てきた一般的な設計の整理であり、特定の事業者の契約内容を示すものではありません。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士法第2条第1項に定める税理士の業務であり、当社では行いません。電子帳簿保存法その他の税法上の要件の当てはめについては、顧問税理士等の専門家にご確認ください。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。労働者派遣に該当する形での役務提供は行っておりません。