経理を外に出している会社に税務調査が来たら、誰が対応するのか
経理代行のご相談をいただくと、範囲や金額の話がひととおり済んだあと、最後にこの質問が出ます。「税務調査が入ったら、そちらが対応してくださるんですか」。ここで答えが用意されていないと、契約は止まります。決めきれない理由が金額ではなく不安のほうにあるので、金額を下げても動きません。
ですので、当社にとって都合の悪いところから先に書きます。経理代行会社は、税務調査で会社の代わりに主張することはできません。税務代理は税理士の業務であり、当社を含む経理代行会社が行えるものではないからです。「調査対応もお任せください」と読める案内を、当社はしていません。
この記事では、できないことを先に線引きしたうえで、では代行会社に何ができるのか、社内に何が残るのか、そして平時のうちに作っておくべき状態は何かを書きます。調査が来てから慌てて集める話ではなく、来ても困らない形で日々の経理を回しておく話です。
この記事は「外注している状態で調査を受けるとき、誰が何を担うか」に絞っています。税理士と経理代行の役割そのものの違いは税理士と経理代行は何が違うかに、データやアクセス権限の預け方は経理の外部委託に、稼働後の社内体制は社内に誰を残すかに分けて書いています。
1|先に、できないこと|税務代理は税理士の業務です
税理士法は、税務代理・税務書類の作成・税務相談を税理士の業務と定めており(同法第2条第1項)、税理士でない者がこれらを業として行うことは制限されています(同法第52条)。当社の理解では、この枠のなかで経理代行会社が調査の場でできないことは、次のようになります。
- 会社の代理人として、調査官に主張・答弁すること。 これは税務代理そのものです。
- 調査の事前通知を、会社に代わって受けること。 事前通知は納税義務者に対して行われ、税務代理人がいる場合はその税務代理人にも通知される仕組みです(国税通則法第74条の9)。税務代理人になれるのは税務代理権限証書を提出した税理士・税理士法人であり、経理代行会社はここに入りません。
- 修正申告をするかどうかを判断し、会社に助言すること。 個別の税務判断は税務相談にあたります。
言い換えると、調査の窓口は会社と顧問税理士であって、経理代行会社ではありません。ここを曖昧にしたまま「調査も見ます」と言う会社があれば、その一言自体を疑ってよいと考えています。
なお、この線引きは経理代行に限った話ではありません。誰に何を頼めるかという範囲の問題として、給与や年末調整でも同じ形の線が引かれます(年末調整の代行/給与計算のアウトソーシング)。
2|では、代行会社に何ができるのか
できることは、地味ですが調査の負担にはいちばん効く部分です。資料を出すことと、その処理をなぜそうしたかを説明できる形で帳簿を保っておくこと。この2つです。
| 場面 | 顧問税理士 | 経理代行会社 | 会社(社内) |
|---|---|---|---|
| 事前通知を受ける | 税務代理人として受ける | — | 納税義務者として受ける |
| 調査官への説明・主張 | ◯(税務代理) | — | ◯(当事者) |
| 帳簿・証憑の提示 | 立会いのなかで整理 | ◯ 保管場所と対応関係を示す | ◯ 提示の主体 |
| 「この仕訳は何か」への事実の回答 | 税務上の説明 | ◯ 処理の経緯と根拠資料を出す | ◯ 取引の事実を答える |
| 追加資料の抽出・集計 | 指示 | ◯ 実作業 | 依頼元 |
| 修正申告の要否判断 | ◯ | — | ◯ 決定 |
表の3行目から5行目が、外注していることの利点が出る場所です。調査で時間を食うのは、多くの場合むずかしい論点ではなく「その資料がどこにあるかを誰も知らない」という状態です。日々の記帳を外に出していると、記帳した側に「どの証憑を見て、どう処理したか」の記録が残ります。ここが整っているだけで、調査中の社内の負荷はかなり変わります。
逆に言えば、代行会社の価値は調査当日ではなく、その前の何年かにあります。当日に呼べば助かる相手ではなく、平時にその状態を作っておく相手だと考えていただくのが実態に近いです。
3|外に出している会社が、調査で詰まりやすい4か所
(1)証憑が社内と社外に分かれている
領収書は社内の引き出し、請求書はクラウド、契約書は営業の各担当。この状態で「この取引の資料を全部」と言われると、集めるのに数日かかります。外注しているかどうかに関わらず起きますが、外に出していると「代行会社が持っているはずだ」と社内が思い込むぶんだけ発見が遅れます。どちらが何を保管しているかは、契約時に一覧で決めておくべき項目です。
(2)処理の理由が残っていない
「この費用をこの科目にしたのはなぜか」。調査で繰り返し聞かれるのはここです。ところが、担当者が代わったり外注に切り替えたりした前後で、判断の理由だけが引き継がれずに落ちることがあります。手順は残るのに理由が残らない、という現象については経理の引き継ぎで詳しく書きました。外注に切り替える会社は、切り替えの時期にこの記録を作る最後の機会があります。
(3)会計データの名義が代行会社側にある
クラウド会計の契約名義が代行会社になっていると、解約や乗り換えのときに困るという話をこれまで書いてきました(経理代行の乗り換え)。調査でも同じことが効きます。会社が自分でデータを出せない状態は、それだけで対応が遅れます。名義は自社、代行会社には利用権を付与する、という形にしておいてください。
(4)電子で受け取ったものの保存が抜けている
紙で受け取った請求書は保管しているのに、メールに添付されてきたPDFやWeb明細だけが誰の管轄でもない、という会社はまだ多くあります。電子取引データの保存については別記事に整理していますので、そちらをご覧ください(電子帳簿保存法への対応)。外注している場合は、誰がどこへ保存するかを役割として決めるところまでやらないと、いつのまにか抜けます。
4|そもそも、外に出しても会社から消えない義務
帳簿書類の保存は会社の義務です。国税庁の案内では、法人は帳簿および取引に関して作成・受領した書類を、原則としてその事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存することとされています。青色申告書を提出した事業年度で欠損金額が生じた事業年度については10年間です(国税庁タックスアンサー No.5930「帳簿書類等の保存期間」)。
この義務は、記帳を外注しても会社に残ります。外注先が保管を代行している場合でも、保存されている状態にする責任は会社の側にある、というのが当社の理解です。ですので契約時には「どちらが保管するか」ではなく、「会社がいつでも取り出せるか」で決めていただくようお願いしています。
ここは細かいようで、実務では効きます。代行会社が保管していて、契約終了時に返してもらえなかった、あるいはフォーマットが読めなかった、という形の事故は起こり得ます。保存年限が7年から10年である以上、いまの委託先との契約より、保存の期間のほうが長いと考えておくのが安全です。
なお、外に出しても会社から消えない義務は、帳簿書類の保存だけではありません。確定申告書の提出、消費税の仕入税額控除に係る帳簿・請求書等の保存、源泉所得税の納付。いずれも条文の主語は会社側です。それらを条文の書きぶりごと並べ、外注したことで新しく生じる委託先の監督義務まで含めて整理したものを経理を外に出しても、会社から消えない義務がある|帳簿の保存・申告・最終責任は誰のものかにまとめました。次章の平時の備えは、そちらの整理を前提にすると設計しやすくなります。
5|平時にやっておく5つ
調査は事前に日程が知らされる形が原則ですが、準備の時間は長くありません。日々の運用に組み込んでおくべきものを、優先順に並べます。
| やること | 具体的に | 効く場面 |
|---|---|---|
| 保管場所の一覧 | 証憑の種類ごとに、紙/電子・保管者・場所を1枚に書く | 「その資料はどこに」で止まらなくなる |
| 処理の理由のメモ | 判断が割れた取引だけでよい。仕訳に一言添える運用にする | 科目の根拠を聞かれたとき |
| データの名義 | 会計・銀行・請求のアカウント名義を自社に統一 | 自力でデータを出せる |
| 役割の明文化 | 資料提示・事実の回答・税務の説明を誰が担うかを決めておく | 当日の交通整理 |
| 顧問税理士との接続 | 代行会社と税理士が直接やり取りしてよいかを先に合意 | 会社が伝書鳩にならずに済む |
最後の1行を軽く見ないでください。調査対応がいちばん重くなるのは、税理士と代行会社が直接話せず、社内の担当者が両者の間で往復する形になったときです。平時から三者で情報が流れていれば、調査の場でも同じ流れが使えます。
6|契約書で先に決めておく3行
ここまでを契約の言葉にすると、3行になります。委託先を選ぶ段階でこの3行を出してみて、答えが濁る会社は避けたほうがよいと考えています(選び方全体は経理代行サービスの選び方に書きました)。
- 調査時の協力範囲。 資料の抽出・提示補助をどこまで行うか。税務代理は含まないことを明記する。
- 資料の保管と返還。 何を、どの形式で、いつまで保管し、契約終了時にどう返すか。
- 過去分への対応。 契約前の期間について調査があった場合、どこまで協力するか(作業として受けるのか、範囲外なのか)。
3つ目は見落とされがちです。調査の対象期間は、いまの委託先と契約するより前まで遡ることがあります。その期間の経緯を知っているのは前任者か、社内の誰かです。切り替えの時点で過去分の資料と経緯を自社に揃えておく、という一手間がここで効きます。
シメゴの場合と、正直に申し上げること
当社は経理代行会社であり、税理士事務所ではありません。ですので、次のようにご案内しています。
- 調査の立会いや、調査官への説明は行いません。 税務代理は税理士の業務であるためです。顧問税理士がいらっしゃらない場合は、その体制を先に整えていただくようお伝えしています。
- 行うのは、資料の抽出と処理経緯の提示までです。 どの証憑を見てどう処理したかを追える形で記帳しているので、そこは出せます。
- 会計データの名義はお客様に置いていただいています。 当社は利用権をお預かりする形です。当社が持つほうが手続きは楽ですが、いざというときに会社がデータを出せない状態を作りたくないためです。
「調査も込みで全部お任せ」と言えないぶん、契約の決め手としては弱く見えるかもしれません。それでも、できないことを先に申し上げるほうが、あとで揉めないと考えています。
まとめ
経理を外に出しても、税務調査で答えるのは会社です。税務代理は税理士の業務であり、経理代行会社が会社の代わりに主張することはできません。この線はどの委託先を選んでも動きません。
代行会社にできるのは、資料を出すことと、処理の経緯を説明できる形で帳簿を保っておくことまでです。そしてこれは調査の当日ではなく、平時の何年かで作られる状態です。保管場所の一覧・判断理由のメモ・データ名義・役割の明文化・税理士との接続。この5つが揃っている会社は、調査が来ても社内が止まりません。
帳簿書類の保存は原則7年(欠損金額が生じた事業年度は10年)で、いまの委託先との契約期間より長いのが普通です。だからこそ、外注先を「当日助けてくれる相手」ではなく、その状態を毎月つくり続ける相手として選んでいただきたいと思っています。
調査で困らない状態になっているかを、いまの帳簿で確認します。
保管場所・データ名義・処理理由の記録が揃っているかを棚卸しし、抜けている箇所だけをお返しします。委託先を変える必要がなければ、そうお伝えします。
無料コスト診断を受ける →※本記事は公表資料に基づく一般的な整理であり、個別の事案における取扱いを保証するものではありません。保存期間等は国税庁タックスアンサー No.5930、事前通知の仕組みは国税通則法第74条の9に基づいて記載しています。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士法第2条第1項に定める税理士の業務であり、当社では行いません。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。個別の税務上の判断や調査対応については、必ず顧問税理士にご確認ください。