給与計算のアウトソーシング|代行との違いと、社労士に残る領域の線引き
給与計算を外に出したい、というご相談をいただくとき、私が最初に確認するのは金額でも会社の規模でもありません。「いま社内で誰が、何の作業をしていて、そのうち何時間が計算そのものですか」という一点です。ここを聞くと、ほとんどの会社で同じことが起きます。給与の仕事だと思っていた作業のうち、計算そのものは全体の3割ほどしかない、ということです。
だから先に結論を書きます。給与計算のアウトソーシングは、「計算」を出す話ではなく、給与にまつわる工程のどこで線を引くかという話です。そしてこの線は、好みで引けるものと、法律上そちらに残るものの2種類があります。ここを混ぜたまま見積書を比べると、安く見えた会社のほうが結局高くつきます。
この記事は「どこまで外に出せて、何が社内と社労士に残るか」の線引きに絞っています。給与計算代行そのものの範囲・料金の目安は給与計算代行とはに、経理全体を出す場合の考え方は経理アウトソーシングとはにまとめました。
「代行」と「アウトソーシング」は、実務では出す範囲が違います
この2つの言葉は、世の中ではほぼ同義で使われています。実際、サービス名としてどちらを名乗るかは各社の自由です。ただ、私たちが実務で使い分けるとしたら、こうなります。
- 給与計算代行=毎月の計算と明細作成という作業を引き受ける。データは社内で整えて渡す。
- 給与計算アウトソーシング=勤怠の締めから明細の配布、振込データ、給与の会計仕訳までの工程のつながりを引き受ける。
違いが出るのは、月の後半ではなく前半です。給与の負担の正体は、計算ボタンを押す時間ではありません。締め日を過ぎても勤怠が確定しないこと、打刻漏れを本人と上長に確認して回ること、途中入社の日割りや通勤手当の変更が総務のメールの中に埋もれていること。この「整えるまで」に、給与担当の時間の大半が消えています。
ですので、計算だけを外に出した会社が「思ったより楽にならなかった」と言われるのは、私は当然だと思っています。渡すデータを整えるのは、依然として社内の仕事だからです。
給与の仕事を工程で分けると、行き先は3つに割れます
ここが本題です。給与の一年をひととおり書き出すと、だいたい次のようになります。行き先が3つに割れる点を先に見てください。
| 工程 | 頻度 | 主な行き先 |
|---|---|---|
| 勤怠の締め・打刻漏れの確認・残業の承認 | 毎月 | 社内(実態を知っているのは上長) |
| 支給額・手当の決定、昇給・評価の反映 | 都度 | 社内(会社の意思決定そのもの) |
| 支給控除の計算、所得税・社会保険料の控除額の算定 | 毎月 | 経理代行/給与計算会社 |
| 明細の作成・配布、振込データの作成 | 毎月 | 経理代行/給与計算会社 |
| 住民税額の更新(6月)、賞与の計算 | 年数回 | 経理代行/給与計算会社 |
| 給与仕訳・法定調書合計表などの集計、預り金の管理 | 毎月・年次 | 経理代行 |
| 入退社の社会保険・雇用保険の届出、算定基礎届、月額変更届 | 都度・年次 | 社会保険労務士 |
| 就業規則・36協定などの作成と届出、労務相談 | 都度 | 社会保険労務士 |
表の一番下の2行が、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
社労士に残る領域は、好みではなく法律で決まっています
労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成、その提出の代行、事務代理は、社会保険労務士でなければ業として行えないとされています。算定基礎届や月額変更届、入退社に伴う資格取得・喪失の届出、労働保険の年度更新といったものが、ここに入ります。
一方で、給与の計算そのものは社会保険労務士の独占業務とはされていません。標準報酬月額をもとに保険料の控除額を計算する、源泉徴収税額表に当てはめて所得税を計算する、明細を作る——これらは計算・記帳の作業です。だから経理代行会社が給与計算を扱えます。
言い換えると、線はこうなります。「計算して社内の帳簿と明細に落とす」までは出せる。「役所に出す」は社労士。ここを曖昧にしたまま「給与まわりは全部うちで」と説明する会社があれば、何をどの資格で行うのかを一度確認されたほうがよいと思います。私たちは社会保険の手続きが必要な場面では、提携している社会保険労務士へお繋ぎしています。自社で抱え込まないのは、体制の問題ではなく役割分担の問題です。
なお、個別の業務が独占業務に当たるかどうかは、実際の関与の仕方によって判断が分かれる部分もあります。契約前に、その業務を誰が行うのかを書面で確認しておくことをおすすめします。
出しても社内に残るもの、3つ
① 支給を決めること
昇給、手当をつけるかどうか、遅刻をどう扱うか。これは会社の判断であって、計算ではありません。外注しても1ミリも軽くなりません。ここを期待して外に出すと、必ず「思っていたのと違う」になります。
② 勤怠の実態を確認すること
23時の打刻が本当に残業なのか、直行直帰の日の扱いはどうか。実態を知っているのは現場の上長だけです。私たちは異常値を見つけて一覧でお返しすることはできますが、それが正しいかどうかは判断できません。ここを外に投げると、間違った数字のまま速く回るだけになります。
③ 従業員からの一次問い合わせ
「控除が先月と違うのはなぜか」という質問は、多くの場合、住民税の更新月や社会保険料の改定月に集中します。答えの中身は私たちが用意できます。ただし、本人と直接やり取りする窓口は社内に置いたほうが安全です。給与は個人の生活に直結するので、社外の会社が本人に直接説明する形は、事故が起きたときに収まりが悪くなります。
見積書で必ず抜けている項目
「月額◯万円〜」の表示は、たいてい平常月・人数固定・イレギュラーなしの前提です。実際の年間コストを比べるときは、次の6つが月額に含まれているのか、別料金なのかを確認してください。
| 項目 | 発生時期 | 見落とすとどうなるか |
|---|---|---|
| 賞与計算 | 年2回程度 | 賞与月だけ別途請求。社会保険料の計算も伴う |
| 年末調整 | 11〜12月 | 人数×単価で別建てが一般的。書類回収は社内に残ることも多い |
| 住民税額の更新 | 毎年6月 | 全員分の入替作業。人数が多いほど重い |
| 入退社のスポット処理 | 都度 | 月中入社の日割り、社会保険の資格得喪との連動 |
| 明細の配布方法 | 毎月 | Web明細か紙か。紙なら封入・郵送費が別 |
| 人数変動時の単価 | 都度 | 「〜30名」の帯を超えた月から単価が変わる契約がある |
特に年末調整と住民税の更新は、この2つが別料金だと年額でかなり差が出ます。年末調整をまとめて出す場合の考え方は年末調整の代行に別途整理しました。比べるときは月額ではなく、年12回+賞与2回+年末調整+住民税更新を足した年額で並べてください。それだけで、安く見えていた見積書の順位が変わることがあります。
引き継ぎは、給与だけ特別に難しい
経理の他の業務と違って、給与には「来月に回す」という選択肢がありません。支給日は動かせないからです。だから引き継ぎの設計だけは、他の業務と同じにしないでください。私たちがお願いしているのは次の順番です。
- 並走を2か月とる。 最初の月は社内が本番・こちらが裏で同じ計算をして突合します。1円でも差が出たら、その原因が分かるまで切り替えません。
- 切り替えは、支給日から最も遠い月を選ぶ。 6月(住民税更新)と12月(年末調整・賞与)は避けます。実務では2〜3月か、8〜9月あたりが落ち着いています。
- 就業規則と給与規程を先に渡す。 手当の根拠、締め日、端数処理の扱い。ここが口伝えで運用されている会社ほど、引き継ぎで揉めます。逆に言えば、外に出す準備をする過程で、社内の運用が言語化されます。これは副次的ですが、実は大きな効果です。
「担当者が辞めることになったので来月から」というご相談を毎年いただきますが、これがいちばん危険です。辞める人がいるうちに並走してください。給与だけは、辞めた後では復元できない情報が残ります。
シメゴの考え方
私たちは経理代行の会社なので、給与単体でお預かりするより、記帳・支払・給与をまとめてお預かりするときにいちばん効率が出ます。給与の仕訳、預り金の残高、社会保険料の会社負担分——これらは結局、月次の帳簿の中で突き合わせるものだからです。給与だけを別会社に出すと、この突合が毎月のメール往復になります。
そのうえで、正直に申し上げておきたいことが3つあります。
- 従業員10名前後で、勤怠がクラウドで取れていて、手当の種類が少ない会社なら、外注しなくても社内で回ります。 この規模で私たちにご依頼いただく理由があるとすれば、担当者が1人しかいないという属人化のほうです。
- 社会保険の手続きは私たちの業務ではありません。 必要な場面では提携社労士へお繋ぎします。手続きまで含めた費用で比べたいときは、その分を足して検討してください。
- 給与担当者の残業がゼロになることはありません。 勤怠の確認と支給の決定は社内に残るからです。私たちの経験では、戻るのは計算・明細・振込データ・仕訳にかかっていた時間で、それ以上は約束できません。
どこまでを社内に残すかの一般的な考え方は経理を丸投げできる範囲にも整理しています。
まとめ
給与計算のアウトソーシングを検討するときは、まず工程を書き出して、3つに分けてください。会社が決めること(支給の決定・勤怠の実態確認)は社内に残ります。役所に出す手続きは社会保険労務士の領域です。残った「計算して帳簿と明細に落とす」部分が、外に出せる範囲です。
そのうえで、見積書は月額ではなく年額で比べてください。賞与・年末調整・住民税更新・入退社スポットの4つが含まれているかどうかで、実際の年間コストは変わります。切り替え時期は6月と12月を避け、並走を2か月とる。この2つを守るだけで、給与の外注はかなり安全になります。
いまの体制で、どの工程に何時間かかっていて、そのうち何時間が外に出せる部分なのか。無料コスト診断では、この切り分けを一覧にしてお返しします。社内で回したほうが早いという結論になるなら、そのようにお伝えします。
※本記事は一般的な実務の整理であり、個別の法令解釈・税務上の取扱いを保証するものではありません。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行・事務代理は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません(必要な場合は提携する社会保険労務士をご紹介します)。税務申告書の作成・提出の代理は税理士の業務です。料金・業務範囲は各社の契約内容によって異なりますので、実際のご検討にあたっては各社の契約書面をご確認ください。