子会社を新しく作ったとき、経理は最初から外に出すか|親会社が見る・人を置く・外に出すの3択を、設立1年目で決める
新しい事業のために子会社を作ることになった。あるいは、既存の事業を切り出して分社することになった。登記の手配や口座の開設は進んでいる。そこで、経営企画や親会社の経理部長が最後に気づくのがこれです。設立した日から帳簿は始まるのに、その帳簿を作る人が決まっていない。
親会社側で子会社設立を任された方から、当社はこの相談をよく受けます。新会社に人員が付くのは、たいてい事業が立ち上がってからです。設立の時点では、社長役の役員が1人と、事業側の数名。経理の担当を置く話は、優先順位の下に回されます。
そのとき選べるのは、次の3つです。
- 親会社の経理が、子会社分もそのまま見る。
- 子会社に人を置く。採用するか、親会社から異動させる。
- 最初から外に出す。
この記事では、この3択を「設立1年目」という条件に限って並べます。すでに複数社あるグループの経理を1か所に寄せる話、つまりシェアードサービスの組み立て方は別の論点なので、経理のシェアードサービス|グループ会社が複数ある会社の、集約の順番に書きました。会社が増えていく前提の方は、そちらを先に読んでください。
先にお断りしておきます。会社設立そのものの手続きや、設立後の税務の届出については、この記事では扱いません。そこは司法書士と税理士の領域です。ここで書くのは、設立が決まったあとに親会社側が決めなければならない「経理の置き場所」だけです。
1|設立1年目の子会社の経理は、親会社の経理と性質が違う
「取引が少ないのだから、経理も少ないはずだ」。設立時にいちばんよく聞く前提です。取引の件数だけを見れば、そのとおりです。1年目の子会社で、仕訳が毎月何百件も出ることはあまりありません。
ただし、件数が少ないことと、手間がかからないことは別です。設立1年目には、その後の年には出てこない仕事が集中します。
- すべての取引が「初めて」になる。最初に切った請求書、最初の外注費、最初の家賃。どの勘定科目に載せるか、いつ計上するかを、その都度決めることになります。前例がありません。
- 親会社との取引の処理を決める必要がある。業務委託の形にするのか、経費の立替なのか、資金の貸付なのか。ここを最初に曖昧にすると、あとで残高が合わなくなります。
- 締めの期限だけは、親会社と同じ厳しさで来る。子会社の数字は、親会社の月次報告や決算の材料になります。取引が少なくても、締まっていなければ親会社の側が止まります。
- 1年目に決めた型が、そのまま何年も残る。科目の使い方、締めの手順、証憑の残し方。あとから直すのは、最初に決めるより手間がかかります。
つまり、設立1年目の経理は「量は少ないが、決めることが多い」という形をしています。この性質が、置き場所を選ぶときの判断を分けます。勘定科目を最初に決めるときの考え方は勘定科目の決め方|正解を探すのではなく、迷わない状態を作るに書いたとおりで、新設の会社はこれを白紙から始めることになります。
2|3択を、設立1年目の条件で並べる
当社がご相談を受けたときに並べている整理です。どれが正しいということではなく、向いている場面とつまずく場所が違います。
| 選び方 | 向いている場面 | つまずきやすいところ | コストの出方 |
|---|---|---|---|
| 親会社の経理が、子会社分もそのまま見る | 取引の型が親会社とほぼ同じ。子会社の売上が立つのが先の話で、当面は費用だけが動く | 親会社の経理担当の仕事が、月末に上乗せされる。子会社側に承認する人が実質いなくなる | 目に見える支出は増えない。増えるのは親会社担当者の残業と、その人が抜けたときの穴 |
| 子会社に人を置く(採用・親会社から異動) | 事業が立ち上がったあとの取引量が読めていて、1年以内に常時仕事がある状態になる見込みがある | 立ち上がりが遅れると、経理の手が空く。1人だけ置くと、その人が全部を持つ構造が最初から出来上がる | 人件費が設立初月から固定で出る。取引量とは連動しない |
| 最初から外に出す | 取引量がまだ読めない。人を採る前に事業の形を見たい。親会社の経理に余力がない | 判断する人を子会社側に置かないと、外注先が決められずに止まる。親会社との取引の処理を先に決めておかないと、毎月確認が飛ぶ | 取引量に応じた委託費。立ち上がりの月は小さく、増えたら増える |
3つのうち、当社が設立1年目にお勧めすることが多いのは3番目です。理由は費用の安さではありません。1年目は取引量が読めないので、固定費にしないほうが後戻りしにくいからです。人を採ってから事業の立ち上がりが半年遅れると、その半年は手を空けたまま人件費が出続けます。逆に、思ったより早く伸びたときは、人1人の処理能力が先に頭打ちになります。
ただし、3番目を選ぶ場合でも、外に出せるのは作業です。判断は子会社か親会社に残ります。ここを一緒に出そうとすると止まります。丸投げできる範囲とできない範囲の線は経理は「丸投げ」できる?できること・できないことの境界線に整理しました。
3|判断を分けるのは、件数ではなく「取引の型が何種類あるか」
設立の相談で「月に何件くらいの取引になりそうですか」と聞くと、たいてい答えが返ってきません。当然です。まだ事業が始まっていないからです。
そこで当社が代わりに聞いているのは、件数ではなく種類です。
- お金の入り方は何通りか。請求書を出して振り込んでもらうだけか。カード決済や代金回収の代行が入るか。前受けが出るか。
- お金の出方は何通りか。振込だけか。法人カード、立替精算、引き落としが混ざるか。
- 親会社とのやり取りは何通りか。業務委託費、経費の立替、資金の貸付、人件費の負担。いくつ発生するか。
- 親会社と同じ会計処理でよいか。売上の計上時期や、費用の区分を親会社に合わせる必要があるか。
この4つの答えが、いずれも1〜2通りに収まるなら、親会社の経理が見るで1年目は持ちます。型が少ないので、迷う場面が出ません。
逆に、どれかが3通り以上になる、あるいは4つ目に「合わせる必要がある」が付くなら、親会社の経理の片手間では持ちません。子会社側で決めることが毎月発生し、その決定を親会社の担当者が本業の合間に下すことになるからです。この場合は、人を置くか、外に出したうえで判断する人を決めるかのどちらかです。
件数ではなく型で数える理由は、経理の手間が「同じことを何回やるか」ではなく「違うことが何種類あるか」で決まるからです。これは新設の子会社に限らず、経理の外注範囲を決めるときの共通の考え方で、業務単位で切るか工程単位で切るかという形で経理業務のアウトソーシング|業務単位で切るか、工程単位で切るかに書きました。
4|最初から外に出すなら、設立前に決めておく5つ
3番目を選ぶ場合、設立してから決めればいいと思われがちなものが5つあります。当社の経験では、この5つは設立前に決めておいたほうが、あとの手戻りが小さくなります。
(1) 会計ソフトを、どちらの名義で契約するか
子会社の名義で契約し、委託先は招待されて入る形にしてください。委託先の契約に子会社のデータを置くと、やめるときにデータを移す作業が発生します。契約が終わった日にデータがどう戻るかという論点は経理の外部委託|アクセス権限の渡し方と、契約が終わった日のデータの戻し方に書きました。新設のうちに正しい形にしておけば、この作業はそもそも起きません。
(2) 銀行口座と、その権限を誰が持つか
照会だけができる権限と、振込を実行できる権限は分けられます。委託先に渡すのは照会までにして、実行は子会社の役員か親会社に残してください。振込の権限をどこまで渡すかという判断は支払代行を入れる前に決めること|振込の権限を、どこまで渡すかに整理しました。
(3) 親会社との取引を、どういう形にするか
親会社が立て替えた費用をどう請求するか、業務委託の金額をどう決めるか、資金を入れるなら貸付か出資か。これは委託先が決められません。設立前に親会社側で決めて、文書にしておいてください。ここが決まっていないと、毎月「この入金は何ですか」という確認が往復することになります。
(4) 締めの日程を、親会社の報告日から逆算して置く
子会社の数字は親会社の月次に乗ります。ですので、子会社の締め日は「子会社にとって都合のよい日」ではなく、親会社の報告日から逆算して決めます。逆算のしかたと、締めを縮めるときに先に動かす場所は月次締めの早期化|1日縮めるために動かすのは、経理の外ですに書きました。
(5) 承認する人を、子会社側に1人決める
いちばん忘れられるのがこれです。外に出すと、作業は流れます。ただし、支払ってよいか、この処理で確定してよいかを決める人がいないと、そこで止まります。設立1年目の子会社は人が少ないので、社長役の役員が兼ねることが多いのですが、兼ねると決めること自体を明文化しておいてください。外に出したあと社内に残す役割の分け方は経理を外に出したあと、社内に誰を残すか|窓口・承認・締めの3役を決めないと戻ってくるに書いたとおりです。
5|「親会社の経理が見る」を選んだときに、実際に起きること
いちばん軽く見える選択肢なので、多くの会社がまずこれを選びます。実際、型が少ないうちは持ちます。当社が見てきた範囲で、崩れるときは次の3つのどれかです。
(1) 親会社の締めが、子会社の資料待ちで遅れる
子会社の証憑は子会社の事業担当者が持っています。親会社の経理担当者は、その人に催促する立場にありません。結果、親会社の締めが子会社待ちになります。子会社の経理を軽くしたつもりが、親会社の締めが遅れる。これがいちばん多い形です。
(2) 承認が、実質的にゼロになる
親会社の経理担当者が仕訳を作り、そのまま確定させる。子会社側に内容を見る人がいない。作る人と確かめる人が同じになるので、確認が働きません。1人に任せている状態でお金の事故がどこで起きるかは経理の委託で牽制は効くのか|1人に任せている会社で、お金の事故はどこで起きるかに書きました。子会社を親会社の担当者1人が見ている状態は、これと同じ構造です。
(3) その担当者が異動・退職すると、何も残っていない
親会社の担当者が片手間で見ていた期間は、手順書が作られません。子会社のルールはその人の頭の中にあります。引き継ぎで渡らないのは手順ではなく判断の理由だという話を経理の引き継ぎ|渡っていないのは手順ではなく「判断の理由」に書きましたが、新設子会社の1年目はその「判断の理由」が最も多く発生する時期です。
この3つを避けられる見込みがあるなら、親会社の経理が見る形で問題ありません。避けられそうにないなら、1年目の入口で置き場所を変えたほうが、あとが楽になります。
6|1年目に外に出して、2年目以降どうするか
「最初から外に出すと、ずっと外のままになるのではないか」と聞かれます。当社は、そうはならない形で受けるべきだと考えています。1年目の目的は事業の形が見えるまで、固定費を持たずに帳簿を回すことです。見えたら、そこで決め直してよいものです。
2年目に入るときの選択肢は、おおむね次の3つになります。
- そのまま外に出し続ける。取引の型が増えず、締めも回っている場合。
- 一部を社内に戻す。判断が増えてきた領域から先に戻します。全部を一度に戻すより、行単位で分けたほうが早いという話は経理の内製化|全部戻すより、行単位で分けたほうが早いに書きました。
- 人を置いて、作業だけ外に残す。採用した人に判断と締めを持たせ、入力や証憑の整理は外に残す形です。採用と代行を並べて比べる考え方は経理担当を1人雇う vs 経理代行|「本当のコスト」を並べて比較したに整理しました。
どれを選ぶにしても、1年目のうちに手順が文書になっていることが条件になります。外に出す契約をするときに、手順書を受け取る約束を入れておいてください。これが無いと、2年目に戻そうとしたときに、1年目と同じ「白紙から決める」作業がもう一度発生します。
7|これから会社が増える予定があるなら、先に読む場所が違う
1社だけを新しく作る話と、今後もM&Aや分社で会社が増えていく話は、決め方が変わります。会社が増える前提なら、1社ごとに置き場所を決めるより、1社増えたときに何が起きるかを先に設計したほうが早いからです。
その考え方は経理のシェアードサービス|グループ会社が複数ある会社の、集約の順番にまとめました。この記事は「これから作る1社の、設立1年目」に限った話です。2社目、3社目の予定がすでにあるなら、そちらを先に読んでください。
もう一つ、親会社が海外にあって、日本法人として1社を置いた場合も、この3択の前に決めることが増えます。本国へ毎月の報告を出す必要があり、日本の帳簿と報告のどちらを正本にするかで、外に出せる範囲が変わるためです。その整理は外資系の日本法人は、経理をどこまで外に出せるか|本国への月次報告と日本の帳簿を、同じ委託先に持たせるかどうかに書きました。
また、新しく作るのではなく、すでにある会社を買い取って子会社にした場合は、帳簿が白紙ではなく売り手側の形で動いているので、決め方が変わります。売り手側の担当者が残るか、統合の形が決まっているかで置き場所を分ける整理は会社を買ったあと、買った会社の経理をどうするか|統合までの間を外に出すか、そのまま残すかに書きました。
8|シメゴの場合と、正直に申し上げること
- 設立日からの受託ができます。会計ソフトの初期設定、勘定科目の並べ方、証憑の受け渡しの形を、最初の月に一緒に決めます。1年目は決めることが多いので、ここを一緒にやる前提でお受けしています。
- 親会社とまとめて1つの契約でお受けできます。すでに親会社の経理をお預かりしている場合、子会社分を別契約にせず、横断で処理する形をとっています。
- 判断は、御社に残していただきます。親会社との取引をどういう形にするか、支払ってよいかどうかは、子会社か親会社で決めていただき、その指示に沿って処理します。ここを当社が決めることはしません。
- 会社設立の手続きと、設立後の税務の届出は扱いません。当社は税理士法人でも司法書士事務所でもありません。税務代理・税務書類の作成・税務相談、登記に関する業務は行いません。設立の手続きは司法書士へ、税務の届出は顧問税理士へご相談ください。顧問税理士がまだ決まっていない場合は、そこから決めていただく必要があります。
- 2年目に社内へ戻すことを前提にしてもかまいません。データは御社の契約するソフトに置き、手順書をお渡しします。戻すときに当社に払うものはありません。
子会社を含めたグループ全体の管理体制、月次報告の組み立て、親会社の経営管理の設計については、シメゴの運営会社であるNever Redが経営管理のコンサルティングとして扱っています。作業の置き場所と、管理の設計を同じ図面で考えたい場合は、そちらもご相談ください。
まとめ
新しく子会社を作ったとき、経理の置き場所は親会社の経理が見る・子会社に人を置く・最初から外に出すの3択です。設立1年目は「取引の量は少ないが、決めることが多い」時期なので、件数ではなく取引の型が何種類あるかで選んでください。入り方・出方・親会社とのやり取り・親会社に合わせる必要の4つが、いずれも1〜2通りなら親会社の経理で持ちます。どれかが3通り以上になるなら、片手間では持ちません。
最初から外に出すなら、設立前に5つ決めておいてください。会計ソフトの契約名義、口座の権限、親会社との取引の形、親会社の報告日から逆算した締めの日程、そして子会社側で承認する人です。とくに最後の1つが抜けたまま始まると、作業は流れても確定できずに止まります。
1年目に外に出すのは、ずっと外に置くためではありません。事業の形が見えるまで固定費を持たないためです。見えたときに戻せるよう、手順書を受け取る約束を契約に入れておいてください。
設立予定の子会社について、3択を並べてお返しします。
これから作る会社の事業の形、親会社との取引、親会社の報告日をうかがい、親会社が見る・人を置く・外に出すの3つを、費用と手間の出方で並べて1枚にしてお返しします。設立前のご相談でもかまいません。
無料コスト診断を受ける →※本記事は、記載時点での一般的な整理であり、個別の会社における最適な体制を示すものでも、特定の結果を保証するものでもありません。3択の比較、取引の型で判断するという考え方、設立前に決める5項目は、当社の受託実務およびご相談で見てきた範囲に基づく整理であり、統計調査に基づくものではありません。会社設立の手続き、設立後の税務の届出、親会社との取引の税務上の取り扱いについては、司法書士・税理士にご確認ください。当社は会計監査、税務代理・税務書類の作成・税務相談、登記に関する業務、法的な判断を行いません。