会社を買ったあと、買った会社の経理をどうするか|統合までの間を外に出すか、そのまま残すか
会社を1社、取得した。取引先の事業を引き継いだ、後継者のいない会社を買った、同業を仲間に入れた。形はいろいろですが、契約が終わって最初の月に、社長やCFOの机に同時に届く話があります。
- 売り手側の経理担当が、数か月後に辞めることになっている。
- 引き継ぎの資料は、決算書と通帳の写しくらいしか無い。
- 会計ソフトが親会社と違う。顧問税理士も違う。
- それでも、来月からその会社の数字を親会社の月次に載せなければならない。
この記事は、この局面で「買った会社の経理を、どこに置くか」だけを扱います。選べるのは、そのまま残す・親会社に寄せる・統合までの間を外に出す、の3つです。
先にお断りしておきます。買収そのものの判断、買収前の調査、買収に伴う会計処理や税務の取り扱いについては、この記事では書きません。そこは監査法人・税理士・弁護士の領域です。ここで書くのは、契約が終わったあとに買い手側が決めなければならない「経理の置き場所」と、その決め方だけです。
1|取得直後の経理には、3つの仕事が同時に来る
買った会社の経理が難しいのは、量が多いからではありません。本来は別々の時期に来る3つの仕事が、同じ月に重なるからです。
| 重なる仕事 | 中身 | ふだんはいつ来るか |
|---|---|---|
| 引き継ぎ | 売り手側の経理担当、あるいは経理を握っていた前オーナーから、判断の理由と例外を受け取る | 担当者の退職が決まったとき |
| 委託先の切り替え | 売り手側が使っていた記帳の外注先や顧問税理士との契約を、続けるか替えるか決める | いまの委託先に不満が出たとき |
| 統合 | 科目の使い方、締め日、承認の形を、親会社のグループの形に寄せる | 会社が増えて、処理をまとめる必要が出たとき |
1つずつなら、それぞれ手順があります。引き継ぎで何が渡っていないかは経理の引き継ぎ|渡っていないのは手順ではなく「判断の理由」に、委託先を替えるときに何を取り戻すかは経理代行を切り替えるとき|いまの委託先から引き継ぐ手順と、止まる期間の作り方に、複数社の処理を寄せる順番は経理のシェアードサービス|グループ会社が複数ある会社の、集約の順番に書きました。
取得直後に起きる失敗の多くは、この3つを全部同時に片付けようとすることから始まります。引き継ぎが終わらないうちに会計ソフトを替え、科目を親会社に合わせ、顧問税理士も変える。どこかで数字が合わなくなったとき、原因がどの変更にあるのか分からなくなります。置き場所を決めるというのは、この3つにどういう順番を付けるかを決めることでもあります。
2|取得した週に、確かめておく4つ
置き場所を決める前に、事実を4つ押さえてください。資料を作る必要はありません。誰に聞けば答えが出るかが分かれば十分です。
(1) いま帳簿を作っているのは誰で、いつまでいるか
社内の担当者か、前オーナー本人か、外の記帳代行か、顧問税理士の事務所か。その人がいつまで関わる前提になっているか。ここが「来月から誰もいない」なら、他の3つより先に手を打つ必要があります。
(2) 会計ソフトは誰の名義で、データはどこにあるか
買った会社の名義で契約されているか、外注先や税理士事務所の契約の中にデータが置かれているか。後者の場合、契約を切った日にデータに触れなくなることがあります。データの持ち主と、契約が終わった日の戻し方の論点は経理の外部委託|アクセス権限の渡し方と、契約が終わった日のデータの戻し方に整理しました。
(3) 銀行口座の振込を実行できるのは誰か
売り手側の前オーナーや、辞める予定の担当者だけが振込の権限を持っている、ということがあります。権限の持ち主が変わる日と、支払が止まらない日を、先に突き合わせてください。振込の権限をどこまで渡すかという判断は支払代行を入れる前に決めること|振込の権限を、どこまで渡すかに書きました。
(4) 外注先・顧問税理士との契約は、いつ、どう終わるか
解約の予告期間、データの返却、作ってもらった手順書が誰のものか。これは契約書を読まないと分かりません。そして、読むのは解約を伝える前です。
3|3択を、取得直後の条件で並べる
4つの事実が見えたら、置き場所を選びます。当社がご相談を受けたときに並べている整理です。どれが正しいということではなく、向いている場面とつまずく場所が違います。
| 選び方 | 向いている場面 | つまずきやすいところ |
|---|---|---|
| そのまま残す(売り手側の担当・外注先を続ける) | 売り手側の担当者が残る。当面は親会社と別に動かしてよい。統合を急ぐ理由が無い | 承認していたのが前オーナーだった場合、その人が抜けた時点で承認する人がいなくなる。親会社の月次に載せる数字が遅れる |
| 親会社に寄せる(親会社の経理が処理する) | 取引の型が親会社と近い。親会社の経理に余力がある。統合の時期がすでに決まっている | 引き継ぎが終わっていない会社の帳簿を、親会社の担当者が本業の合間に読み解くことになる。締めが親会社ごと遅れる |
| 統合までの間を外に出す | 売り手側の担当者が辞める。統合の形がまだ決まっていない。親会社の経理に余力がない | 期限を決めずに出すと、そのまま固定化する。判断する人を買い手側に置かないと止まる |
表にすると、3つ目がいちばん無難に見えるかもしれません。ただし、外に出すことが正解になるのは限られた条件のときだけです。次の章で、その条件を分けます。
4|判断を分けるのは「売り手側の人が残るか」と「統合の形が決まっているか」
取引の量や会社の規模より先に、この2つを見てください。2つの組み合わせで、置き場所の候補はほぼ絞れます。
| 統合の形が決まっている | 統合の形がまだ決まっていない | |
|---|---|---|
| 売り手側の人が残る | そのまま残して、統合の日に向けて寄せる。残る人に、統合の日までに揃える項目を渡す | そのまま残す。ただし承認する人だけは、買い手側に置き直す |
| 売り手側の人が残らない | 親会社に寄せるか、統合の日までを外に出す。親会社の経理に余力があるかで決める | 統合までの間を外に出すが第一候補。人が抜ける日と、形が決まる日の間を埋める |
見ていただきたいのは右下です。人が残らず、統合の形も決まっていない。この組み合わせで親会社に寄せると、まだ決まっていない形に向けて、親会社の担当者が読み解きと処理を同時に抱えます。かといって、人を採ると、統合の形が決まったあとにその人の役割が変わる可能性があります。形が決まるまでの間だけ外に置き、決まった時点で置き場所を決め直す、というのがこの枠での考え方です。
逆に左上のように、人が残り、形も決まっているなら、外に出す理由はあまりありません。当社にご相談いただいた場合でも、「いまは外に出さなくてよい」とお伝えすることがあります。
5|統合までの間を外に出すなら、先に決めておく5つ
(1) 期限を付ける
「統合するまで」ではなく、日付か、条件で区切ってください。親会社と同じ会計ソフトに移す月、あるいは親会社の決算期に合わせる月など、何をもって終わりとするかを契約の前に決めます。期限の無い「つなぎ」は、そのまま何年も続きます。
(2) 統合の形に、いつから合わせ始めるか
科目の使い方や締め日を、初月から親会社に合わせようとしないでください。引き継ぎが終わっていない段階で形を変えると、元の帳簿と新しい帳簿の数字が突き合わせられなくなります。最初の数か月は、売り手側の形のまま正しく締めることを優先し、合わせるのはそのあとです。会計ソフトが違う場合の選択肢はfreeeのまま記帳代行を頼めるか|会計ソフトが代行会社と違うときに整理しました。
(3) 承認する人を、買い手側に1人決める
いちばん抜けるのがこれです。前オーナーが支払の可否をすべて決めていた会社では、その人が抜けた瞬間に「この支払をしてよいか」を決める人がいなくなります。外に出せるのは作業で、判断は出せません。1人に任せている状態でお金の事故がどこで起きるかは経理の委託で牽制は効くのか|1人に任せている会社で、お金の事故はどこで起きるかに書きました。取得直後は、作る人と確かめる人が同じになりやすい時期です。
(4) 売り手側から受け取るものを、リストにする
過去の帳簿データ、証憑の保管場所、取引先ごとの支払条件、毎年一度だけ発生する処理、例外の扱い。売り手側の人がいるうちにしか受け取れないものがあります。辞める日から逆算して、受け取る順番を決めてください。順番は、頻度が低く影響が大きいものからです。
(5) 締めの日程を、親会社の報告日から逆算して置く
買った会社の数字は、親会社の月次に載ります。締め日は「買った会社にとって都合のよい日」ではなく、親会社の報告日から逆算して決めます。締めを縮めるときに先に動かす場所は月次締めの早期化|1日縮めるために動かすのは、経理の外ですに書きました。
6|「そのまま残す」を選んだときに、実際に起きること
いちばん変化が少ない選択肢なので、多くの会社がまずこれを選びます。売り手側の人が残るなら、実際に持つことも多い。当社が見てきた範囲で、崩れるときは次の3つのどれかです。
(1) 判断していた人が、いなくなっている
経理担当は残っても、判断していたのは前オーナーだった、という会社があります。担当者は「社長に聞いてから処理していた」。その社長がいません。処理の手は残っても、判断の口が消えているので、保留の仕訳がたまっていきます。
(2) 親会社の月次が、買った会社の数字待ちで遅れる
売り手側の締めは、親会社の報告日に合わせて組まれていません。月末から数週間後に締まるのが普通だった会社の数字を、親会社の月次に載せようとすると、親会社側が待つことになります。
(3) 残った担当者が、あとから辞める
取得のあと、会社の雰囲気や上司が変わったことで、残るはずだった担当者が数か月後に辞める。これは珍しい話ではありません。そのときに判断の理由が文書になっていないと、引き継ぎを取得直後よりも悪い条件でやり直すことになります。
この3つを避けられる見込みがあるなら、そのまま残す形で問題ありません。避けられそうにないなら、取得直後のうちに置き場所を決め直したほうが、あとが楽になります。
7|やってはいけない3つ
- 引き継ぎ・会計ソフトの変更・委託先の変更を、同じ月にやる。数字が合わなくなったとき、原因を切り分けられなくなります。変えるのは1か月に1つ、が目安です。
- 売り手側の外注先や顧問税理士に、解約を先に伝える。データの返却や手順書の扱いを確かめる前に伝えると、受け取れるはずのものが受け取れなくなることがあります。契約書を読むのが先です。
- 「統合したら要らなくなるから」と、手順を文書にしない。統合の形は途中で変わることがあります。変わったときに、手元に何も残っていない状態になります。
8|シメゴの場合と、正直に申し上げること
- 取得直後の途中の月からでもお受けします。ただし、平常時より手間がかかります。売り手側の判断の理由が残っていない状態で受けると、最初の数か月は通帳・会計データ・請求書の控えを突き合わせて組み立て直す作業になります。できないわけではありませんが、ここは盛らずに申し上げています。
- 親会社とまとめて1つの契約でお受けできます。会社ごとに担当を分けず、横断で処理する形をとっています。初月は各社バラバラの形のまま受け、揃えたほうが早い箇所はそのあとで提案します。
- 期限付きの「つなぎ」として受けることを、前提にしてかまいません。データは御社の契約するソフトに置き、手順書をお渡しします。統合で親会社側に戻すときに、当社に払うものはありません。
- 判断と振込の実行は、御社に残していただきます。支払ってよいかどうか、統合の形をどうするかは、買い手側で決めていただき、その指示に沿って処理します。
- 買収前の調査、買収に伴う会計処理、税務は扱いません。当社は監査法人でも税理士法人でも法律事務所でもありません。会計監査、税務代理・税務書類の作成・税務相談、法的な判断は行いません。これらは監査法人・顧問税理士・弁護士へご相談ください。
取得した会社を含めたグループの管理体制や、親会社の月次報告の組み立てについては、シメゴの運営会社であるNever Redが経営管理のコンサルティングとして扱っています。作業の置き場所と、管理の設計を同じ図面で考えたい場合は、そちらもご相談ください。
まとめ
会社を買ったあとの経理には、引き継ぎ・委託先の切り替え・統合の3つが同時に来ます。全部を同じ月に片付けようとしないことが、最初の分かれ目です。
取得した週に、4つだけ確かめてください。いま帳簿を作っているのは誰でいつまでいるか。会計ソフトの名義とデータの場所。振込の権限の持ち主。外注先と顧問税理士の契約の終わり方。
そのうえで、置き場所はそのまま残す・親会社に寄せる・統合までの間を外に出すの3択です。分けるのは規模ではなく、売り手側の人が残るかと統合の形が決まっているかの2つ。人が残らず形も決まっていないなら、期限を付けて外に出し、形が決まった時点で決め直すのが、後戻りの小さい選び方です。そのときも、承認する人だけは買い手側に置いてください。
取得した会社の経理の置き場所を、1枚にしてお返しします。
いま帳簿を作っている人と期限、会計ソフト、親会社の報告日をうかがい、そのまま残す・親会社に寄せる・統合までの間を外に出すの3つを、手間と費用の出方で並べてお返しします。「いまは外に出さなくてよい」という結論になることもあります。
無料コスト診断を受ける →※本記事は、記載時点での一般的な整理であり、個別の会社における最適な体制を示すものでも、特定の結果を保証するものでもありません。3択の比較、2つの条件による整理、先に決める5項目は、当社の受託実務およびご相談で見てきた範囲に基づく整理であり、統計調査に基づくものではありません。買収前の調査、買収に伴う会計処理、税務上の取り扱い、契約の解釈については、監査法人・税理士・弁護士にご確認ください。当社は会計監査、税務代理・税務書類の作成・税務相談、法的な判断を行いません。