freeeのまま記帳代行を頼めるか|会計ソフトが代行会社と違うとき
freee会計やマネーフォワード クラウドを入れて、口座とカードを連携させ、自動登録のルールも少しずつ育ててきた。そのうえで記帳を外に出そうと見積を取ったら、「当社は別のソフトで作業しますので、移行をお願いします」と書かれていた。あるいは、移行は求められないものの、見積の中に「他社ソフト対応費」という1行が入っていた。
この場面で経営者が迷うのは当然です。ソフトへの投資は済んでいて、社員も画面に慣れています。代行のためにそれを捨てるのか、それとも代行会社を選び直すのか。決め直しの心理的な重さが、判断そのものを遅らせます。
先に結論を書きます。ソフトを指定できる代行会社は少なくありません。ただし、どちらかが相手に合わせる手間は、どの選び方をしても消えません。変わるのは、その手間を誰が負担するか、だけです。この記事では、ソフトが食い違ったときの分岐を3つに固定し、それぞれで何が増えるのか、見積の段階で何を聞けばよいのかを整理します。
1|代行会社がソフトを指定するのは、手を抜くためではない
まず、指定する側の事情を開きます。記帳代行の料金は、仕訳の本数だけでなく「1本あたりに何分かかるか」で決まります。この点は記帳代行の料金は何で決まるか|仕訳数・証憑の形・締めの回数の3変数で分解するに書きました。
1本あたりの時間を縮める一番の方法は、作業する画面・科目の体系・チェックの手順を全顧客で揃えることです。担当者が画面を行き来せず、同じ手順で確認できれば、ミスも減ります。ソフトを1つに絞っている代行会社は、そうやって単価を下げています。
ですから「うちのソフトに移ってください」という要望は、多くの場合、その会社の標準の単価で受けるための条件です。逆に言えば、自社のソフトのままお願いすると、標準から外れる分の手間が見積に乗ることがあります。「他社ソフト対応費」の1行はその表れです。どこでも無条件に合わせてもらえる、とは考えないほうが安全です。
2|分岐は3つしかない
ソフトが食い違ったときに取れる道は、次の3つです。
| 分岐 | 何が起きるか | 増えるもの | 誰が負担するか |
|---|---|---|---|
| (1) 代行会社が自社のソフトに入る | 自社が契約しているアカウントに、代行会社をメンバーとして招待する | 代行側が御社の科目体系・自動登録ルールを読み解く初期の手間/標準から外れる分の単価 | 主に代行会社(一部が見積に乗る) |
| (2) 自社が代行会社のソフトに移る | ソフトを乗り換え、仕訳・科目・残高を移す | データ移行と照合/口座・カード連携の張り直し/周辺ツールとの連携の組み直し/社員の画面の慣れ直し | 主に自社(移行費として見積に乗ることもある) |
| (3) 二重に持つ | 代行会社は自分のソフトで作り、結果を自社のソフトに取り込む | 毎月の取り込みと突き合わせ/「どちらが正しい帳簿か」の判断 | 両方。しかも毎月続く |
表のとおり、(1)と(2)は最初に一度払えば終わる手間で、(3)だけが毎月発生し続ける手間です。これが3つを比べるときの一番大きな違いです。
3|(1) 代行会社が自社のソフトに入る場合
クラウド会計の場合、この形はソフトの標準機能で組めます。freee会計にはメンバーを招待して権限を割り当てる機能があり、ヘルプセンターでは「管理者」「一般(経理)」「取引登録のみ」「閲覧のみ」などの権限セットが案内されています。マネーフォワード クラウド会計でも「メンバーの追加・管理」画面からメンバーを追加し、「閲覧のみ」やメンバーごとに機能を選べる「カスタム」などの権限を設定できます。名称と区分は各社で改定されることがあるので、実際に設定する日に、公式ヘルプの現行表記を確認してください。
この形で当社がいちばん大事だと考えているのは、権限の線引きです。
- 代行会社に「管理者」を渡さない。メンバーの招待や口座連携の設定を変えられる権限は、社内に残します。記帳に必要なのは取引の登録と修正です。
- 口座・カードの連携は、社内の人が自分で設定する。金融機関のログイン情報を外部に渡す運用にしないためです。
- 担当者が替わったとき、招待を外すのは社内の仕事にする。外部の人のアカウントが残り続けるのは、情報管理として弱い状態です。
増えるのは、代行会社の側の読み解きの手間です。御社が育ててきた自動登録のルールや補助科目の切り方は、代行会社の標準とは違います。初月は「このルールで登録された取引は、どういう意図でこの科目なのか」を確認する時間が必ず出ます。ここで社内に答えられる人がいないと止まります。(1)を選ぶなら、ルールを作った人が最初の1〜2か月は質問に答えられる状態にしておいてください。
自動化で減る作業と、それでも残る作業の線引きはクラウド会計(freee/マネーフォワード)×経理代行で「自計化」はどこまで進む?に整理しました。(1)の形は、その「残る作業」を外に出す形だと考えると分かりやすいと思います。
4|(2) 自社が代行会社のソフトに移る場合
乗り換えそのものは、各社が移行の機能を用意しています。freee会計のヘルプセンターには、弥生会計からの「弥生会計仕訳インポート」や、その他のソフトからの「他社会計ソフトインポート」の手順が載っています。マネーフォワード クラウド会計にも「他社ソフトデータの移行」の画面があり、弥生会計やfreeeなどからの移行手順が公開されています。
ただし、「移せる」と「そのまま使える」は別の話です。たとえばマネーフォワード クラウド会計のサポートページでは、freeeからの移行について、仕訳はインポートできる一方、勘定科目と開始残高はマネーフォワード側の形式でCSVを作って取り込む必要がある旨が案内されています。移行元と移行先の組み合わせで、手作業で作り直す部分が変わるということです。
移行で実際に増えるのは、次の4つです。
- 初期の照合。移したあとの試算表が、移す前と一致しているかを確かめる作業です。科目の対応表を作り、残高を1つずつ突き合わせます。ここを飛ばすと、ずれに気づくのは決算の時です。
- 過年度データの持ち出し。移行元のソフトを解約したあと、過去の帳簿をどこまで閲覧・出力できるかは、各社の規約とプランで異なります。解約の前に、仕訳帳・総勘定元帳・決算書を出力して保存してください。法人税法施行規則第59条は、帳簿書類を原則7年間保存すべきことを定めています。ソフトを替えても保存の義務は会社に残ります。
- 連携の張り直し。口座・カードの連携、請求書発行や経費精算のツールとの連携は、移行先で設定し直しになります。周辺のツールが移行先に対応していない場合は、そのツールごと見直すことになります。
- 社員の慣れ直し。経費の申請や請求書の登録を社員がソフト上でしている会社では、画面が変わると問い合わせが増えます。記帳を外に出しても、この負担は社内に残ります。
移すなら、時期は期首が安全です。期の途中で移すと、1つの事業年度の帳簿が2つのソフトにまたがり、決算で両方を突き合わせることになります。時期の選び方は経理代行に切り替えるなら、いつが一番傷が浅いか|決算期・年末調整・給与改定を外した移行時期の決め方に書きました。
5|(3) 二重に持つ場合
代行会社は自分のソフトで記帳し、毎月の結果を仕訳データとして御社のソフトに取り込む形です。どちらも自分のソフトを手放さずに済むので、話し合いの落としどころとして選ばれやすい形です。
当社は、この形はできるだけ避けたほうがよいと考えています。理由は2つあります。
- 正しい帳簿が2つになる。取り込んだあとで御社の側が1本でも修正すると、代行会社の帳簿と食い違います。どちらが正しいかを毎月決める作業が生まれ、決算の時には両方の差を説明することになります。
- 手間が毎月続く。(1)と(2)の手間は最初の数か月で終わりますが、(3)の取り込みと突き合わせは契約が続く限り発生します。月額には見えにくい形で、社内の時間を使い続けます。
やむを得ず(3)にするなら、「正本はどちらか」と「御社の側では修正しない」を契約の段階で文字にしてください。これが決まっていないと、食い違いの責任の置き場がなくなります。
6|見積の段階で聞く3つの質問
ソフトの話は、契約してから詰めると揉めます。相見積の段階で、各社に次の3つを聞いてください。
- 「当社のソフトのままでお願いした場合、見積はどう変わりますか」。変わらないのか、単価が上がるのか、初回費用が付くのか。金額の差が分かれば、(1)と(2)を数字で比べられます。課金の単位が会社ごとに違って見積が並ばない問題は経理代行の相見積が横に並ばない理由|仕訳数・業務件数・人月、3社が別々のものを数えているに書きました。
- 「移行をお願いされる場合、移行費には何が含まれますか」。データの取り込みだけか、照合までか、連携の設定までか。「移行費一式」のままにせず、作業の項目で確認します。
- 「契約が終わったとき、帳簿はどちらのアカウントに残りますか」。ここが一番見落とされます。(2)や(3)で代行会社の契約しているアカウントに帳簿を作る場合、解約した日に御社の手元に何が残るのかを確認してください。仕訳データをどの形式で、いつまでに渡してもらえるのか。これが書面で決まっていれば、将来の乗り換えで困りません。
3つ目は、代行会社を替えるときの引き継ぎにそのまま効きます。乗り換えの手順と、受け取るデータの範囲は経理代行を切り替えるとき|いまの委託先から引き継ぐ手順と、止まる期間の作り方に整理しました。
7|顧問税理士のソフトも、同じ話になる
見落としやすいのが、顧問税理士の事務所が使っているソフトです。記帳は代行会社、決算と申告は税理士という分け方をすると、ソフトの関係者が3者になります。代行会社のソフト、税理士のソフト、御社のソフトがばらばらだと、決算のたびにデータの受け渡しが発生します。
ここでも考え方は同じで、正本を1つに決め、他の2者がそこに入るか、そこから受け取るかを決めます。税理士と代行会社の役割の分け方は記帳代行は税理士に頼むべきか|顧問料に含まれているかの見分け方と、分けたほうがよい条件に書きました。なお、税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士の業務であり、当社では行いません。
8|シメゴの場合と、正直に申し上げること
- シメゴは、freee会計・マネーフォワード クラウドに対応した経理代行です。この2つをお使いの会社には、原則として(1)の形、つまり御社のアカウントのまま作業する形をおすすめしています。帳簿が御社の側に残り、解約しても手元から消えないからです。
- 合わせることで、手間が増える場合があります。御社の自動登録ルールや補助科目の切り方を読み解く初月は、通常月より時間がかかります。その分をどう見積に反映するかは、初回のご相談で科目体系と取引の量を拝見してからお返しします。「どこでも合わせられます」とは申し上げません。
- それ以外のソフトをお使いの場合は、対応できるかどうかを初回に確認します。インストール型のソフトなど、外部からの作業の形が組みにくい場合は、正直にそうお伝えします。そのときに(2)の移行をおすすめするなら、移行で増える4つの手間と費用を項目で分けてお見積りします。
- ソフトを替えれば経理が楽になる、とは限りません。手間の多くはソフトではなく、証憑の集まり方と、社内で質問に答える人の有無で決まります。ソフトの話を始める前に、社内に誰を残すかを決めておくほうが効きます。その整理は経理を外に出したあと、社内に誰を残すか|窓口・承認・締めの3役を決めないと戻ってくるに書きました。
- この記事に書いた製品の機能名は、記載時点で各社の公式ヘルプに掲載されている表記です。プランや仕様は改定されることがあるため、設定や移行の前に必ず各社の最新のヘルプを確認してください。
まとめ
会計ソフトが代行会社と違うとき、取れる道は3つです。代行会社が自社のソフトに入る。自社が代行会社のソフトに移る。二重に持つ。
どれを選んでも、合わせる手間は消えません。変わるのは、誰がその手間を負担するかと、それが一度で終わるか毎月続くかです。(1)と(2)は最初の数か月で終わり、(3)だけが毎月続きます。
見積の段階で聞くのは3つ。自社のソフトのままだと見積はどう変わるか。移行費に何が含まれるか。解約したとき帳簿はどちらのアカウントに残るか。とくに3つ目は、契約してからでは聞きにくくなります。
ソフトへの投資を守りたいという気持ちは、正しい判断の出発点です。守るべきはソフトそのものより、帳簿が御社の手元に残り続けることです。そこを基準に選べば、3つのどれを取っても大きくは間違えません。
いまのソフトのままで外に出せるか、見立てをお返しします。
お使いの会計ソフトとプラン、口座・カード連携の状況、月の仕訳の量、顧問税理士の事務所が使っているソフトをうかがい、3つの分岐のどれが合うかと、増える手間をお返しします。ご相談だけでも承ります。
無料コスト診断を受ける →※本記事は、記載時点で公表されている法令、各社の公式ヘルプおよびサポートページに基づく一般的な整理であり、個別の事案における取扱いや適否を判定するものではありません。参照した資料は、法人税法施行規則第59条(e-Gov法令検索)、freee ヘルプセンター「freee会計のメンバー招待・権限」「弥生会計から仕訳データを移行する」「その他の会計ソフトから仕訳データを移行する」、マネーフォワード クラウド会計サポート「メンバーの『権限』にはどのようなものがありますか?」「『freeeの仕訳インポート』機能の使い方」「移行に対応している他社ソフトを確認できる一覧はありますか?」です。製品の機能名・権限の区分・プランは改定されることがあるため、実際の設定や移行の前に各社の最新のヘルプをご確認ください。freee会計は freee株式会社、マネーフォワード クラウドは株式会社マネーフォワード、弥生会計は弥生株式会社の製品です。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士の業務であり、当社では行いません。代行会社の見積や対応に関する記述は、当社の受託実務で見てきた範囲に基づく整理であり、統計調査に基づくものではなく、他社の受託基準を示すものでもありません。