経理代行は近くの会社に頼むべきか
「経理代行」を探す方の一定数は、そこに地域名を足して検索されます。市区町村名と一緒に調べる、という行動そのものが、「近くないと回らないのではないか」という不安が先にあることを示しています。実際、お問い合わせの席でも「御社は都内ですが、うちは地方でも大丈夫ですか」は、料金の次に多い質問です。
先に、当社にとって都合の悪いところから書きます。当社は原則としてリモートで受託しています。ですから本音を言えば「距離は関係ありません」と書きたい。ですが、それは嘘になります。近い委託先のほうが確実に有利な会社は実在します。そして、その会社が遠方の委託先と契約すると、たいてい半年で戻ってきます。
分かれ目は、業種でも売上規模でも、社長の年齢でもありません。社内に「現金」「紙の郵便物」「押印」がどれだけ残っているか、この3つだけです。3つとも無い会社にとって、距離は費用にも品質にも影響しません。1つでも残っている会社は、近い先を選ぶ理由があります。この記事は、その判定を自分でできるようにするための整理です。委託先そのものの選び方は経理代行サービスの選び方|失敗しない7つのチェックポイントに書きました。本記事は、そこに入る前の「距離」に絞ります。
1|距離が効くのは、モノが動くときだけ
経理の仕事を、いったん2つに分けてください。データが動く仕事と、モノが動く仕事です。
データが動く仕事は、会計ソフトへの入力、残高の照合、月次の集計、資金繰り表の更新、質問と回答のやり取りです。これらは、担当者が隣の席にいても、300km離れていても、作業の中身が変わりません。変わるのは連絡の手段だけで、それは委託先が近くても電話とメールとチャットです。近い委託先が「毎日顔を出す」わけではありません。ここは冷静に見てください。月1回の訪問がある契約と、訪問ゼロの契約とで、月次の処理そのものは同じです。
モノが動く仕事は違います。現金を数える、郵便物を開封して仕分ける、通帳を記帳する、書類に印を押す、原本を保管する。これらは、誰かが物理的にその場所にいないと終わりません。だから、モノが動く仕事が社内にどれだけ残っているかで、距離の意味が変わります。
「近くにお願いしたい」という言葉の中身を分解すると、たいてい2つに割れます。1つは「モノを運ぶ相手が近くにいてほしい」。もう1つは「困ったときに来てもらえる安心がほしい」。前者は実務の問題なので、この記事の3つの判定で答えが出ます。後者は契約の書き方で埋められます(第5章)。この2つを混ぜたまま探すと、判断の軸が最後まで定まりません。
2|判定は3つ。現金・紙の郵便物・押印
当社が受託前の面談で必ず確認する3点です。この3つは、外注の可否ではなく「距離が効くかどうか」を決めます。
| 残っているもの | なぜ距離が効くのか | 近い先に頼まない場合の代替 |
|---|---|---|
| (1) 現金 小口現金、現金売上、手提げ金庫 | 実際に数えて帳簿と合わせる作業は、その場でしかできない。差異が出たときに「いつ・誰が・何に使ったか」を追うのも現地 | 小口現金そのものを廃止して立替精算に寄せる。現金売上は日次で全額入金に統一する |
| (2) 紙の郵便物 請求書・納品書・支払通知の原本 | 開封・仕分け・スキャンをする人が要る。届く先は会社の住所であって、委託先の住所ではない | 社内でスキャンして共有する担当を置く。または郵便物の転送・私書箱・スキャン代行を挟む |
| (3) 押印 銀行届出印、契約印、社内の承認印 | 印そのものが社内の金庫にある。押す行為は代理できても、印を動かすことはできない | 承認をワークフローに置き換える。振込は電子承認に切り替える |
判定はきわめて単純です。3つとも社内に無い、または既に代替に置き換わっている会社は、距離を選定条件から外して構いません。1つ残っているなら、その1つを誰が担うのかを決めれば遠方でも回ります。2つ以上残っていて、かつ当面それを変える気がない場合は、近い委託先のほうが素直です。
(1) 現金:いちばん距離が効く
3つの中で最も強く効きます。現金は、残高が合わないことがあるからです。合わないときにやることは、金庫を開けて数え直し、レシートを並べ、日付をさかのぼることです。これを遠隔でやろうとすると、社内の誰かが同じ作業を全部やって、その結果だけを委託先に送ることになります。つまり、外に出した意味が薄れます。
ですから当社は、現金が残っている会社には順序を逆にしてご提案します。委託先を探す前に、まず小口現金を減らすことです。ここを飛ばすと、外注しても社内の作業がほとんど減りません。置き換え先を作らずに廃止だけすると必ず戻る点は小口現金の廃止|先に置き換え先を作らないと、必ず戻りますにまとめました。
(2) 紙の郵便物:距離ではなく「誰が開けるか」の問題
ここは誤解されやすいところです。郵便物は、委託先が近くても委託先には届きません。会社の登記上の住所、あるいは事業所の住所に届きます。ですから「近くだから郵便物を見てもらえる」というのは、多くの場合そのままでは成り立ちません。成り立つのは、委託先が定期的に訪問して回収する契約になっている場合だけです。
本当の論点は、開封して仕分ける人を社内に置けるかです。置けるなら遠方でも回ります。置けないなら、近い委託先に取りに来てもらうか、郵便の転送やスキャンの仕組みを挟むかの二択になります。
あわせて考えるべきなのが、原本をどう保存するかです。電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)は、第4条第3項で国税関係書類のスキャナ保存を認めており、その要件は財務省令(同法施行規則)で定められています。要件を満たしてスキャナ保存に移行すれば、紙の原本を社内に積み続ける必要は小さくなります。ただし要件の細目と経過措置は改正が入りやすい領域なので、実際の移行時は国税庁の最新の一問一答と、顧問税理士の確認を必ず通してください。制度の全体像は電子帳簿保存法への対応、経理のどこが変わる?中小企業がやるべきことを実務で整理に整理しています。
(3) 押印:印を渡すという発想をしない
銀行届出印を委託先に預けるという相談を受けることがあります。当社はお受けしません。理由は2つあります。第一に、印を預かった側が振込を作り、振込を実行し、通帳を確認するという流れは、社内の誰も途中を見られない構造になるからです。第二に、事故が起きたときに何が起きたのかを再現できないからです。
ですから押印が残っている場合の答えは「近い委託先に押しに来てもらう」ではなく、「押印を必要としない経路に振込を移す」です。振込データを委託先が準備し、承認と実行は社内の権限者が行う。この線の引き方は支払代行を入れる前に決めること|振込の権限を、どこまで渡すかに書きました。この形にすると、押印は契約書など月に数回のものだけになり、距離の問題ではなくなります。
3|遠方でも回っている会社に共通していること
当社がリモートで受託している会社を見ると、業種はばらばらです。共通しているのは、次の状態に達していることです。逆に言えば、この状態に無い会社は、距離の前にここを整えるほうが先になります。
- 会計ソフトがクラウドで、口座とカードが連携されている。通帳の記帳や明細のCSV取り込みを人がやっている段階だと、その人が社内に必要になります。自計化がどこまで進むかはクラウド会計(freee/マネーフォワード)×経理代行で「自計化」はどこまで進む?にまとめました。
- 請求書が電子で届く割合が高い。すべてでなくて構いません。紙が月に数通なら、社内の誰かが週1回まとめてスキャンすれば足ります。
- 社内に窓口が1人いる。これは距離に関係なく必須ですが、遠方の場合は特に効きます。質問の宛先が決まっていないと、遠方の委託先は誰に聞けばよいか分からず、確認が止まった分だけ締めが遅れます。
- 締めの日程が紙で決まっている。「だいたい月末までに」で回している会社は、近い委託先が催促しに来ることで成立していることがあります。遠方に出すなら、いつまでに何が揃うかを先に決めておく必要があります。
この4つのうち3番目と4番目は、距離の話ではなく受け入れ体制の話です。窓口・承認・締めの確認という3つの役割の置き方は経理を外に出したあと、社内に誰を残すか|窓口・承認・締めの3役を決めないと戻ってくるに書きました。
4|「近さ」に期待していることを、もう一段だけ分解する
ここまでは実務の話です。ただ、地域名を付けて検索される方の多くは、実務だけを気にしているわけではありません。よく挙がるのが次の3つで、それぞれ答えが違います。
| 期待していること | 実際にどうか | 遠方で埋めるなら |
|---|---|---|
| 困ったときにすぐ来てもらえる | 訪問の頻度は契約で決まる。近くても契約に無ければ来ない | 回答期限を契約に書く(例:営業時間内の質問はその日のうちに一次回答) |
| 地元の商習慣を分かっている | 取引先ごとの例外処理は、地域ではなく会社ごとに違う。地元でも引き継ぎがなければ分からない | 例外処理の一覧を最初に渡す。手順ではなく「例外だけ」を挙げてもらう |
| 顔を合わせたほうが安心できる | これは実務ではなく信頼の問題で、実在する要求。否定しない | 初回と、決算前後の年2回を対面にする。あとは画面共有で足りることが多い |
3つ目について、当社は「オンラインで十分です」とは申し上げません。お金の話を任せる相手と一度も会わないのは、落ち着かないのが普通です。ですから、初回のご相談と、決算の前後にお時間をいただく形をご提案しています。ここに費用はいただいていません。
5|遠方に頼むと決めたら、契約前に4つ決める
距離の問題は、決めておけば消えます。逆に、決めないまま始めると、3か月目あたりで「やっぱり近くのほうが」という話になります。契約前に紙で決めるのは次の4点です。
- 郵便物の扱い。誰が開封し、いつスキャンし、どこに置くか。週次なのか、届いた日なのか。ここが決まっていないと、締めの遅れは全部この工程で起きます。
- 原本の保管場所と保存年限。紙の原本は原則として会社に残ります。法人税法施行規則第59条は、帳簿書類を原則7年間保存すべきことを定めており、青色申告法人が欠損金の繰越控除を受ける場合には、法人税法第57条の規定により繰越期間に対応した保存が求められます(平成30年4月1日以後に開始する事業年度に生じた欠損金の繰越期間は10年)。委託先の倉庫に預けるのではなく、社内のどこに、誰の管理で置くかを先に決めてください。細目と適用時期は改正が入るため、顧問税理士の確認を通してください。
- 質問の経路と回答の期限。チャットなのかメールなのか、宛先は個人なのかグループなのか。回答期限を書いておくと、「近くないから遅い」という不満はほぼ出なくなります。
- 訪問の有無と、その費用。年に何回、どのタイミングで、交通費は誰が持つのか。遠方の場合、ここを曖昧にすると見積の比較ができません。相見積が横に並ばない理由は経理代行の料金相場はいくら?月5万円〜の中身と「高い/安い」の見分け方にも通じます。
6|近くの会社に頼んだほうがよい場合
正直に書きます。次に当てはまる場合は、当社ではなく地域の会計事務所や代行会社に相談されたほうが、費用も手間も少なく済む可能性が高いと考えています。
- 現金商売で、日々の現金残高の確認が必要な場合。飲食・小売・理美容など、現金売上が残る業態です。ここは訪問できる先の価値が明確にあります。
- 紙の請求書と手書きの伝票が主で、当面それを変える予定が無い場合。変えないという判断自体は、会社の事情として十分にあり得ます。その前提なら、紙を取りに来られる距離が有利です。
- 税務申告まで一体で任せたい場合。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士の業務であり、当社では行いません。申告まで含めて1社にまとめたいなら、税理士事務所を軸に探すほうが早くまとまります。当社と税理士の役割の違いは税理士と経理代行は何が違う?役割分担と「両方頼む」が正解な理由に書きました。
ここを曖昧にしたまま受託すると、結局どちらも損をします。当社は、初回のご相談でこの3点に当てはまると分かった場合、その旨をお伝えしています。
シメゴの場合と、正直に申し上げること
- 当社は原則リモートで受託しており、訪問は初回と決算前後を想定しています。毎月の訪問を前提とした契約は行っていません。訪問が毎月必要な状態であれば、それは距離の問題ではなく、上の3つが残っている状態です。
- 銀行届出印はお預かりしません。振込データの準備までを当社が行い、承認と実行は御社の権限者に残していただきます。
- 「どこでも同じです」とは申し上げません。現金・紙・押印が2つ以上残っている会社について、当社が近い委託先より有利だとは考えていません。まずその3つを減らすご提案をして、減らさない判断であれば、その旨をお伝えします。
- 初回のご相談で、この3点の棚卸しだけを行うこともできます。契約前提ではありません。結果として「いまは外に出さないほうがよい」となることもあります。
まとめ
経理代行を地域名で探すとき、判断の軸は「近いか遠いか」ではありません。社内にモノが残っているかどうかです。
データが動く仕事——入力、照合、集計、資金繰り、質問への回答——は、距離で品質が変わりません。距離が効くのは、現金を数える、郵便物を開ける、印を押すという、人がその場にいないと終わらない仕事だけです。
ですから判定は3つで済みます。現金・紙の郵便物・押印。3つとも無いなら距離は選定条件から外してよい。1つ残っているなら、それを誰が担うかを決めれば遠方でも回る。2つ以上残っていて当面変えないなら、近い先のほうが素直です。
そして、遠方に決めたなら、郵便物の扱い・原本の保管・質問の回答期限・訪問の有無と費用の4点を契約前に紙で決めてください。距離の不安は、決めれば消えます。決めないまま始めると、距離のせいにされて終わります。
現金・紙・押印が御社にどれだけ残っているか、一緒に棚卸しします。
いまの現金の扱い、届く郵便物の量、承認と振込の流れをうかがい、遠方でも回る状態かどうかをお返しします。近い委託先を探されたほうがよいと判断した場合は、その理由とともにそうお伝えします。ご相談だけでも承ります。
無料コスト診断を受ける →※本記事は、記載時点で公表されている法令および公的機関の公表資料に基づく一般的な整理であり、個別の事案における取扱いや適否を判定するものではありません。参照した資料は、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法)第4条第3項および同法施行規則、法人税法第57条、法人税法施行規則第59条(いずれもe-Gov法令検索)、ならびに国税庁が公表する電子帳簿保存法関係の一問一答です。制度は改正されることがあるため、細目および適用時期は各資料の最新版と顧問税理士の確認をお願いします。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士の業務であり、当社では行いません。距離・訪問頻度・受託可否に関する記述は、当社の受託実務で見てきた範囲に基づく整理であり、統計調査に基づくものではありません。