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社長が替わるとき、経理をどうするか|先代の頭の中にあった判断を、外に出す前に書き出す順番

社長が替わるとき、経理をどうするか|先代の頭の中にあった判断を、外に出す前に書き出す順番
目次
  1. 1|経理担当者の引き継ぎとは、渡すものが違う
  2. 2|先に書き出すのは、この3つだけ
  3. 3|書き出す場をどう作るか
  4. 4|処理を外に出すのは、書き出す前か、あとか
  5. 5|交代の前・当日・あとで、経理として動かすもの
  6. 6|買収で経営者が替わる場合との違い
  7. 7|シメゴの場合と、正直に申し上げること
  8. まとめ

社長を引き継いだ方、あるいはこれから引き継ぐ方から、こういうご相談をいただくことがあります。

このとき渡っていないのは、帳簿でも権限でもありません。支払う順番を決めていた基準、取引先ごとに置いていた約束、資金繰りをどう見ていたかという判断です。帳簿はデータなので渡せます。判断は本人の頭の中にあるので、書き出さないかぎり渡りません。

この記事では、社長の交代を機に経理をどう組み直すかを、判断を書き出す順番と、処理を外に出すタイミングの2つに分けて整理します。株式の移転、相続、事業承継税制、株価の評価といった論点は扱いません。そちらは税理士・弁護士の領域です。ここで扱うのは、交代した翌月から毎月回る、日々の経理だけです。

1|経理担当者の引き継ぎとは、渡すものが違う

経理の引き継ぎというと、担当者が辞めるときの話を思い浮かべる方が多いと思います。当社は経理の引き継ぎ|渡っていないのは手順ではなく「判断の理由」で、担当者の引き継ぎでも渡っていないのは操作手順ではなく判断の理由だ、と書きました。社長の交代でも同じことが起きますが、渡っていない判断の種類が違います。

経理担当者が替わる社長が替わる
渡っていない判断処理上の判断。どの月に計上するか、どの部門に付けるか、この取引先だけなぜ処理が違うか経営上の判断。払う・待つ・断る・値上げを受けるかを決めていた基準
渡っていないと何が起きるか月次が遅れ、前任者に電話がかかる月次は出るが、決裁が止まる。先代に電話がかかる
期限退職日という締切がある締切が無い。先代に聞ける状態が続くと、何年でも先送りできる
誰が書き出すか前任者。引き継ぎ資料を作るのが仕事の一部になる後継者が聞き出すしかない。先代にとっては「当たり前」なので、質問されないと言語化されない

担当者の退職に備える側の話、渡す順番や残り時間別の優先順位は上の記事が詳しいので、ここでは繰り返しません。本稿は「渡していないのが社長本人だった場合」だけを扱います。

もうひとつ、担当者の引き継ぎと違うのは、社長の交代には締切が無いことです。退職なら最終出社日が来ればその人は居なくなりますが、先代は多くの場合、会長として社内に残るか、電話がつながる場所にいます。聞ける状態が続くかぎり、書き出さなくても回ってしまう。これが、承継後に何年も判断が移らない最大の理由です。

2|先に書き出すのは、この3つだけ

「先代の頭の中を全部書き出す」と構えると、着手できません。実際に毎月効いてくるのは、次の3つです。順番も、この順です。

(1) 支払の優先順位

資金が薄い月に、どの支払を先に出し、どれを後ろにずらしてきたか。これは金額順でも期日順でもなく、止まると事業が止まる順で決まっていることがほとんどです。

この4つを紙に書いてもらうだけで、次の資金が薄い月に後継者が自分で決められるようになります。逆にここが無いまま経理だけ外に出すと、委託先から「この支払、出してよいですか」と聞かれるたびに先代へ電話することになります。

(2) 取引先ごとの約束

契約書に書かれていない約束が、中小企業にはかなりの数あります。

最後の一行は、承継で必ず出てきます。会社の口座から引き落とされているのに、契約者が先代個人のままという支出です。これは経理の処理の問題ではなく、契約の名義を移すか解約するかという会社の決定事項です。洗い出しだけ経理でやり、判断は新社長が持ってください。

(3) 資金繰りの見方

先代が「今月は大丈夫」と言っていたとき、何を見てそう言っていたのか。残高だけを見ていたのか、入金予定と支払予定を頭の中で突き合わせていたのか。

ここは、聞いても言語化されないことが多い部分です。そういうときは、先代が使っていた見方をそのまま再現しようとせず、新しく表を作ってしまうほうが早いです。作り方は資金繰り表の作り方|3ヶ月先の資金ショートを防ぐ手順とテンプレの考え方に書きました。3か月分の入出金を1枚に並べれば、先代の勘で見ていたものはだいたい表に出ます。

この3つ以外、たとえば処理の手順や書類の綴じ方は、後回しで構いません。手順は誰でも再発見できますが、判断は再発見できないからです。

3|書き出す場をどう作るか

「書いておいてください」と頼んでも、まず書かれません。先代にとっては当たり前のことなので、何を書けばよいか分からないからです。

実務として動くのは、後継者が先に質問票を作り、先代に答えてもらう形です。上の3つを、たとえばこう分解します。

聞き方引き出せるもの
「先月、資金が薄かったとしたら、どの支払を後ろにずらしましたか」優先順位そのもの。仮定で聞くと答えやすい
「この10社のうち、支払が1週間遅れたら電話が来るのはどこですか」取引先ごとの温度差。一覧を見せながら聞く
「過去に一度でも払えそうになかった月はいつですか。何をしましたか」資金が詰まったときの手札(借入枠、支払の分割、入金の前倒し依頼)
「この支出は、何のために続けていますか」惰性で続いている契約と、理由があって続いている契約の切り分け

一度に全部を聞こうとせず、月次の締めのタイミングで数問ずつ聞くほうが、実際には最後まで進みます。半年もあれば、支払の優先順位と取引先ごとの約束はほぼ埋まります。

そして、聞いた答えは会社の文書として残してください。後継者の手帳に書いても、それは判断の持ち主が1人替わっただけで、属人化の構造は同じです。属人化をどこから崩すかは経理の属人化|手順書を作っても直らない理由と、崩す順番に整理しました。社長の場合も同じで、抜くのではなく、片方を外に置くのが現実的です。

4|処理を外に出すのは、書き出す前か、あとか

順番の質問をよくいただきます。判断を書き出してから外に出すのか、先に外に出して手を空けてから書き出すのか。

当社は外注を受ける側なので割り引いて読んでいただきたいのですが、この2つは同時に始めてよく、むしろ同時のほうが書き出しが進みます。理由は、委託先が入ると質問が発生するからです。

やり方起きること
判断を全部書き出してから外に出すいつまでも「まだ書けていない」で始まらない。締切が無いので先送りされる
先に外に出してから書き出す委託先から「この支払の優先順位は」「この先は相殺ですか」と聞かれる。答えるたびに1項目ずつ文書になる
外に出さず、後継者が自分で全部やる処理に時間を取られ、判断の書き出しに手が回らない。承継直後にいちばん起きやすい

ただし、外に出しても、判断は会社に残ります。委託先が決めてくれるわけではありません。どこまでを任せられて、何が必ず会社に残るかは経理の丸投げ|任せられる範囲・費用・会社に残る3つの判断に書いたとおりです。承継の局面では、この「残るほうの仕事」が、そのまま後継者が身につけるべき判断と重なります。

外に出したあと、社内に誰を残すかも先に決めてください。窓口・承認・締めの3役を空にすると、質問の行き先が無くなって結局は先代に戻ります。役割の置き方は経理を外に出したあと、社内に誰を残すか|窓口・承認・締めの3役を決めないと戻ってくるに整理しました。

5|交代の前・当日・あとで、経理として動かすもの

判断の書き出しとは別に、手続きとして期日が来るものがあります。抜けやすいものを並べます。

時期経理・管理として動かすこと
交代の前銀行取引の担当者へ交代予定の連絡/先代個人名義の契約の洗い出し/会社の実印・銀行印・カード・電子証明書の所在確認/会計ソフト・ネットバンキング・電子申告のID棚卸し
交代の当日〜直後代表者変更の登記(司法書士)/銀行の代表者届出・印鑑届/ネットバンキングの管理者変更/各種届出の代表者名義/取引先への通知/社会保険・労働保険の事業主変更(社会保険労務士)
交代のあと先代個人名義の契約を、会社名義へ移すか解約するかを1件ずつ処理/役員報酬の改定(定時株主総会の時期と、税務上の取扱いは顧問税理士へ)/保証債務の扱い(金融機関・弁護士へ)

このうち、銀行の代表者届出とネットバンキングの管理者変更は、完了するまで支払が出せなくなる期間が発生します。交代日と支払日が近い月は、先に銀行へ日程を確認してください。ここを確認せずに交代日を決め、給与の振込日と重なった例を見ています。

登記、社会保険・労働保険の手続き、役員報酬の税務上の扱い、保証債務は、いずれも司法書士・社会保険労務士・税理士・弁護士の領域です。経理代行が代わりに行うことはできません。役割分担の考え方は経理代行と税理士の違い|業務の線引きと、両方に頼むときの分け方に書きました。

6|買収で経営者が替わる場合との違い

同じ「経営者が替わる」でも、親族内・社内での承継と、第三者への譲渡では、経理でやることの重心が違います。

親族内・社内の承継買収(第三者への譲渡)
いちばんの課題判断が渡っていない。先代に聞ける状態が続く数字の出し方が買い手の様式と違う。期日が早くなる
時間の余裕ある。だから先送りされる無い。クロージング日が決まっている
先代の関与残ることが多い引継期間が契約で決まっていて、期限が来れば終わる

買収後に経理をどう整えるかは会社を買ったあと、買った会社の経理をどうするか|統合までの間を外に出すか、そのまま残すかに書きました。承継の場合は、そこに書いた「期日が決まっている」という強制力が無い分、自分で締切を作らないと進まないのが違いです。質問票を作るところまでを、交代日から3か月以内と決めてしまうのが現実的だと思います。

第三者に会社を売ることを数年先に考えている場合、売り手として経理のどこを整えておくかは会社を売るとき、経理を外に出していたことは不利になるかにまとめました。

7|シメゴの場合と、正直に申し上げること

まとめ

社長が替わるとき、帳簿は渡ります。渡らないのは、支払う順番を決めていた基準、取引先ごとの約束、資金繰りの見方の3つです。この3つを、後継者が質問票を作って先代に答えてもらう形で書き出す。順番もこのとおりで、処理の手順書はあとで構いません。

処理を外に出すのは、書き出しが終わるのを待たなくてよいと考えています。委託先が入ると毎月質問が出て、答えるたびに1項目ずつ文書になるからです。ただし外に出しても判断は会社に残るので、窓口・承認・締めの3役だけは社内に置いてください。

そして、社長の交代には締切がありません。先代に聞ける状態が続くかぎり、判断は何年でも移らない。交代日から3か月以内に質問票を作る、と自分で締切を決めるのが、いちばん効きます。

先代に聞かないと決められない支払が、毎月どれだけあるか。1枚にしてお返しします。

いまの支払の回り方と、判断が誰の手元にあるかをうかがい、外に出せる処理・後継者に残す判断・税理士や司法書士へ送る論点に分けてお返しします。まだ外に出さないほうがよい、という結論になることもあります。

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※本記事は、記載時点での一般的な整理であり、個別の会社における最適な承継の進め方を示すものでも、特定の結果を保証するものでもありません。書き出す3項目、質問票の聞き方、交代の前・当日・あとに動かす事項の一覧は、当社の受託実務およびご相談で見てきた範囲に基づく整理であり、統計調査に基づくものではありません。手続きの要否・期限・必要書類は会社の形態や金融機関により異なるため、実際の進め方は関与する専門家にご確認ください。株式の移転、相続、事業承継税制、株価の評価、役員報酬の税務上の取扱いは税理士に、代表者変更の登記は司法書士に、社会保険・労働保険の事業主変更手続きは社会保険労務士に、保証債務や契約の承継に関する法律上の論点は弁護士にご確認ください。当社は税務代理・税務書類の作成・税務相談、登記申請の代理、労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行を行いません。

浅香 祐輔

この記事を書いた人

浅香 祐輔(Never Red株式会社 代表取締役)

大手コンサルティングファーム(アクセンチュア/アビーム)出身。専門は経営管理改革とSAP財務会計(FI)。直近はSAP導入プロジェクトのPMとして、50名超のチームを率い、経理部門約30名のメンバーをまとめました。経理代行「シメゴ」を設計・運営しています。

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