会社を売るとき、経理を外に出していたことは不利になるか|買い手が見るのは帳簿の作り手ではなく、出てくる早さ

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数年後に会社を売ることを考え始めた経営者の方から、経理の外注について、こう聞かれることがあります。「帳簿を外の会社に作ってもらっていると、買い手に嫌がられないか」。社内に経理担当がいないことが、会社の弱さに見えるのではないかという心配です。
当社の理解では、外に出していること自体で評価が下がるとは限りません。買い手が確かめたいのは、帳簿を誰が作ったかより、数字がいつ出てくるか、数字の根拠をたどれるか、判断が特定の1人の頭の中にしか無い状態になっていないか、の3つです。外注はこの3つを良くすることもあれば、悪くすることもあります。
この記事では、売却を数年先に考えている売り手の経営者に向けて、経理の外注が有利に働く面と不利に働く面を並べ、売る前に整えておくことを整理します。買収価格や審査の結果は案件ごとに違い、当社が断定できるものではありません。税務と法務の判断は、税理士・弁護士・M&Aの仲介会社やアドバイザーにご確認ください。
会社を買った側が、取得した会社の経理をどうするかは会社を買ったあと、買った会社の経理をどうするかに書きました。この記事はその逆で、売る側が売る前に何を整えるかを扱います。
1|買い手が経理について確かめる3つ
会社の売却では、多くの場合、買い手が財務の調査(財務デューデリジェンス)を行います。決算書、月次の試算表、勘定科目ごとの明細、契約書などを取り寄せ、数字が実態と合っているかを確かめる作業です。この調査で経理の体制について見られるのは、主に次の3つです。
- 月次の数字がいつ出てくるか。月が締まってから試算表が出るまでの日数です。調査では、直近の月の数字を何度も求められます。1か月半かかる会社は、それだけ調査が延びます。
- 数字の根拠にさかのぼれるか。売掛金の残高や未払金の中身を聞かれたとき、請求書や契約書までたどれるか。「前任者がこう処理していた」で止まる科目があると、そこは買い手にとって不確かな部分として残ります。
- 判断が誰か1人の頭の中にないか。どの取引をどの科目で処理するか、引当や在庫をどう見積もるかを、特定の1人しか説明できない状態です。売却のあとにその人が辞めれば、買い手は数字の作り方ごと失います。
この3つのどれにも、「社内の人が作っていること」は入っていません。社内に経理担当が1人いて、その人しか中身を知らない会社は、3つめで弱く見えます。
2|外注が有利に働く面
外に出していることが、調査の場面でかえって助けになる場合があります。
- 処理のルールが文書になっていることが多い。委託先に仕事を渡すとき、どの取引をどう処理するかを文書にするのが普通です。それが1の「判断が1人の頭にない」ことの裏付けになります。
- 月次が決まった日に出る。契約で締め日と提出日を決めていれば、月次の早さは記録として残ります。「毎月第5営業日に試算表が出ている」と過去1年分で示せれば、1の1つめに答えられます。
- 担当者の退職が売却の条件にならない。社内の経理担当に売却後も残ってもらうことを、買い手が条件にしてくる場合があります。外注していれば、その交渉の材料が一つ減ります。
どれも「外に出していれば自動的にそうなる」ものではありません。処理のルールを文書にせずに丸ごと任せている場合、判断は社内の1人から、委託先の1人に移っただけです。
3|外注が不利に働く面
外注を勧める立場として書きにくいことですが、売却の場面で外注が弱点になる形もあります。
- 根拠の書類が委託先にしかない。請求書や領収書の原本、仕訳の元になった資料を委託先が保管していると、調査のたびに委託先へ取り寄せる手間がかかります。委託先の対応が遅ければ、それが調査の遅れになります。
- 処理の理由を社内で誰も説明できない。買い手は、ある費用がなぜその科目なのかを経営者に聞くことがあります。「委託先に聞いてください」としか答えられないと、会社として数字を把握していないように見えます。
- 委託先との契約が、買い手のもとでそのまま続くとは限らない。株式を売る形なら会社そのものは変わらないため、契約は原則として続きます。ただし契約書に、会社の支配権が替わったときの解除の定め(チェンジ・オブ・コントロール条項)があれば、委託先から解除される場合があります。事業だけを譲る形では、契約を新しい会社へ移すのに相手方の同意が要るのが一般的です。売却の直後に経理の受け手がいなくなる事態は、買い手にとって不安の種になります。
3つめは、委託先がどこであっても起こりうることです。当社の契約でも、支配権が替わったあとの扱いは、売却の話が具体化した段階で個別にご相談いただく形になります。
4|売る2〜3年前から整えておくこと
売却を決めてから慌てて整えても、過去の月次の遅れや、根拠をたどれない科目は消えません。調査では直近2〜3期の数字を見られることが多いため、そのぶん前から手を付けておくと、整えた期間がそのまま記録になります。
| 整えること | 外注している会社でやること | 社内でやっている会社でやること |
|---|---|---|
| 月次の早さを記録に残す | 締め日と提出日を契約に書き、実際に出た日を毎月記録する | 締めの手順を決め、試算表が出た日を毎月記録する |
| 根拠の書類を会社の手元に置く | 原本またはデータの保管場所を会社側に決め、委託先には写しで渡す | 担当者の個人フォルダに散らばった資料を、会社の共有の場所へ集める |
| 処理の判断を書き出す | 委託先に渡した処理ルールを、会社側でも保管し、年に1回見直す | 担当者しか知らない判断を、科目ごとに書き出してもらう |
| 契約の扱いを確かめる | 委託契約に、支配権が替わったときの解除の定めがあるかを読む | 経理ソフトや銀行の連携サービスの契約名義と、管理者の権限を確かめる |
社内でやっている会社の3行めは、担当者が1人の会社ほど時間がかかります。書き出しの順番は社長が替わるとき、経理をどうするかで、先代の経営者の判断を書き出す手順として書きました。経営者が替わる承継と、会社そのものを売る売却は別の話ですが、書き出す中身はかなり重なります。
5|売却の直前に委託先を替えるのは避けたい
調査が始まってから委託先を替えると、処理の仕方が期の途中で変わり、前の期と比べにくくなります。引き継ぎの間に月次が遅れれば、それも調査の中で目に入ります。
外注を始めるにせよ、委託先を替えるにせよ、当社の考えでは、少なくとも1期は同じ形で回してから売却の話に入るほうが安全です。切り替えの手順と、止まる期間の見込み方は経理代行を切り替えるときにまとめています。
シメゴの場合と、お伝えしておくこと
- 月次の提出日を契約に書き、提出した日を記録に残します。売却の準備で過去の月次の早さを示す必要が出たとき、そのまま使える形でお渡しします。
- 処理ルールは、御社の手元にも残る形で作ります。当社との契約が終わっても、次の担当が同じ処理を続けられることを前提にしています。
- M&Aの仲介、企業価値の算定、財務デューデリジェンスそのものは、当社では行いません。税務の判断は税理士、契約の判断は弁護士にご相談ください。
まとめ
会社を売るとき、経理を外に出していたこと自体が不利になるとは限りません。買い手が見るのは、月次がいつ出るか、根拠にさかのぼれるか、判断が1人の頭の中にないか、の3つです。外注はこの3つを良くもするし、根拠の書類が委託先にしかない、社内で誰も理由を説明できない、という形で悪くもします。
売る2〜3年前から、月次の早さを記録に残し、根拠の書類を手元に置き、処理の判断を書き出しておく。外に出しているかどうかより、こちらのほうが調査の結果を左右します。
参考資料・注意事項
財務デューデリジェンスで求められる資料や、契約が買い手に引き継がれるかどうかは、案件の形(株式の譲渡か、事業の譲渡か)と個々の契約書の定めで変わります。中小企業の事業承継・M&Aの進め方は、中小企業庁「中小M&Aガイドライン」が参考になります。最終確認:2026年9月28日。個別の案件は、専門家にご確認ください。
売る前に整える経理を、いまの形から一緒に洗い出します。
いまの月次の出方、書類の置き場所、処理の判断を誰が持っているかをうかがい、売却の準備として手を付ける順番を1枚にしてお返しします。当社への委託を前提にしない結論でも構いません。
無料コスト診断を受ける →※本記事は、記載時点での一般的な整理であり、個別の事案について法的・税務上の判断を示すものではありません。当社では税務代理・税務書類の作成・税務相談、M&Aの仲介・企業価値の算定は行いません。
