補助金を受けた会社の経理は、何を残しておけばよいか|実績報告で困らない支払の形と、外に出すときに渡すルール

目次
ものづくり補助金などに採択された会社の経営者から、こういうご相談をいただくことがあります。
- 設備は入った。請求書も通帳もある。それなのに、実績報告の段階で「この支払は対象として認められない可能性がある」と言われた。
- 経理は外に出している。委託先はいつもどおりきちんと処理してくれていた。でも、補助事業の経費だけを抜き出そうとしたら、ほかの支払と混ざっていて1件ずつ探し直すことになった。
- 採択の連絡が来たのは社長で、経理の担当も委託先も、補助金のルールを誰からも聞いていなかった。
このとき足りないのは、書類の量ではありません。支払の形が、その補助金のルールに合っていないことです。そして、支払の形は払ってしまったあとに経理で直すことができません。
この記事では、補助金を受けた会社が、経理(外に出している場合を含めて)をどう組んでおけば実績報告で困らないかを、支払の前に会社が決めておくルールと、委託先に渡すもの・社内に残すものの2つに分けて整理します。読者は証憑を整理する担当者ご本人ではなく、補助事業の体制を決める経営者・管理部門長の方を想定しています。
先にお断りしておきます。補助金は制度ごとに、対象になる経費、支払方法の制限、必要な証拠書類、保存の期間が違います。同じ制度でも公募回によって変わります。この記事で書くのは多くの補助金に共通する一般的な形までで、実際の要件は、採択された補助金の公募要領と交付規程、事務局の手引きで確かめてください。
1|補助事業の経理は、ふだんの経理とどこが違うか
ふだんの経理の目的は、正しい帳簿を作って決算と申告につなげることです。補助事業の経理はそれに加えて、「この支払は、決められた期間に、決められた方法で、この事業のために払った」ことを、第三者に書類で説明できることが求められます。
| ふだんの経理 | 補助事業の経理 | |
|---|---|---|
| 見られる相手 | 税理士・税務署・金融機関 | 補助金の事務局。支払の1件ごとに書類を確かめる |
| 問われること | 取引の金額と、計上した時期が正しいか | いつ発注し、いつ納品され、どの口座から、どう払ったか。その順番が決められた期間の中に収まっているか |
| 支払方法 | 振込・現金・カード・相殺、どれでも帳簿は付けられる | 多くの補助金で、自社名義の口座からの銀行振込が原則とされ、現金払いやカード払いが対象外になる場合がある |
| 書類の束ね方 | 月ごと・種類ごとに綴じる | 取引1件ごとに、見積から支払までの書類を1つの束で出せるようにする |
| あとから直せるか | 仕訳の誤りは修正できる | 発注日と支払方法は、終わってからは直せない |
いちばん下の行が、この記事の中心です。仕訳の誤りは経理で直せますが、「交付決定の前に発注していた」「現金で払ってしまった」は、誰にも直せません。だから、経理の中身よりも前に、支払が起きる前のルールを会社が決めておく必要があります。
2|経理を外に出す前に、会社が決めておく4つのルール
委託先がどれだけ正確でも、委託先は「払ったあと」の記録しか扱えません。次の4つは支払の前の話なので、会社の側で決めて、委託先と社内の両方に伝えるものです。
(1) 発注してよい日を、誰が確かめるか
多くの補助金で、交付決定の日より前に発注・契約した経費は対象になりません。問題は、発注するのは経理ではなく現場だということです。設備担当が「採択されたから」と見積の段階で発注を約束してしまう、というのがいちばん起きやすい形です。
決めておくのは、補助事業に関わる発注は、交付決定の日付を確かめた1人が決裁するまで出さない、という1行です。この1人は社長か管理部門長で、経理の委託先ではありません。
(2) どの口座から、どの方法で払うか
自社名義の口座からの振込を原則とし、現金・カード・相殺・手形といった方法は使わない、と先に決めてしまうのが安全です。実際にどの方法が認められないかは制度ごとに違うので、公募要領の該当箇所を、決めた人が一度読んでください。
ここで抜けやすいのが、社長や社員の立替払いです。展示会の出展料や小さな部品を、急ぎだからと個人のカードで払い、あとで精算する。ふだんなら何の問題もない処理が、補助事業では説明のつかない支払になることがあります。
(3) 補助事業の支払に、どう印を付けるか
冒頭の「ほかの支払と混ざっていて探し直した」はここで起きます。補助事業の経費は、発生した時点で見分けが付くようにしておきます。会計ソフトの部門やプロジェクトのコードを1つ切る、振込の摘要に決めた文字列を入れる、といった形で構いません。
決めるのは形式ではなく、誰がその印を付けるかです。請求書を受け取った人が付けるのか、経理が付けるのか。委託先が付けるのであれば、どの請求書が補助事業のものかを委託先が判断できる材料を、会社が渡す必要があります。
(4) 取引1件ごとの書類を、誰が束ねるか
実績報告では、支払の1件ごとに、見積・発注・納品・検収・請求・支払の書類が求められることが多くあります。このうち経理の手元に自然に集まるのは、請求書と支払の記録だけです。見積書・発注書・納品書は現場や設備担当の手元にあります。
ですから、束ねる担当を1人決め、その人に現場から書類が集まる流れを作っておくことが要ります。経理を外に出している場合、委託先に集めてもらうことはできても、社内のどの机に発注書があるかまでは委託先には分かりません。
3|委託先に渡すもの、社内に残すもの
経理を外に出している会社が補助金を受けたら、まず委託先に「補助事業が始まる」ことを伝えてください。当社は経理事務の代行|「入力だけ」を出したときに社内に残る手間で、事業を始めた・部門を分けた・補助金を受けたといったルールの変更を伝えるのは会社側の責任だと書きました。補助金はその典型です。
| 委託先に渡すもの | 社内に残すもの |
|---|---|
| 補助事業の期間(交付決定の日と、事業の終わりの日) | 交付決定の前に発注していないかの確認と、補助事業に関わる発注の決裁 |
| 補助事業の経費に付ける印の決まり(部門・プロジェクトコード・摘要の文字列) | どの支払が補助事業の経費かの判断。迷うものの線引き |
| 支払方法の制限(振込のみ、立替は不可、など会社として決めた内容) | 支払方法を守らせること。現場の立替を止めること |
| 補助事業の支払を一覧にして月ごとに出す、という依頼 | 見積書・発注書・納品書・検収の記録を現場から集めること |
| 公募要領のうち、経理に関わる箇所の写し | 事務局とのやり取り。実績報告書の作成と提出 |
右の列は、委託先に頼めないものというより、会社に残しておかないと誰も責任を持てないものです。外に出しても判断が会社に残るのは補助事業に限った話ではなく、どこまでを任せられるかは経理の丸投げ|任せられる範囲・費用・会社に残る3つの判断に書いたとおりです。
もうひとつ、正直に申し上げておくと、補助事業の経費を別に抜き出して一覧にする作業は、ふだんの委託の範囲に入っていないことが多く、追加の作業になります。経理アウトソーシングはやめとけと言われる理由|失敗例とデメリットでも、補助金や監査で特定の形式の資料を求められると追加の工数になる、と書きました。採択が決まった段階で、委託先に範囲と費用を確かめてください。
4|あとから経理では直せない事故
ご相談の中で見てきた範囲で、実績報告の段階になって初めて気づき、経理ではどうにもならなかったものを並べます。
| 起きたこと | なぜ起きたか | 先に決めていれば防げたこと |
|---|---|---|
| 発注書の日付が交付決定より前だった | 採択の連絡の時点で、現場が「もう決まった」と受け取った | ルール(1)。採択と交付決定は別物だと、社長が現場に伝える |
| 同じ取引先への支払を、ほかの取引とまとめて1回で振り込んだ | いつもどおり月末にまとめて払った。委託先は通常の処理をしただけ | ルール(2)(3)。補助事業の支払は分けて出す、と委託先に伝える |
| 取引先への売掛金と相殺して支払った | 取引先から相殺の申し出があり、ふだんどおり受けた | ルール(2)。補助事業の支払では相殺しない、と先に決める |
| 小さな経費を社員が個人カードで立替えた | 急ぎだった。立替精算のルールは社内にあったので、誰も止めなかった | ルール(2)。補助事業の経費だけは立替不可、と現場に伝える |
| 見積書が1社分しか残っていなかった | 相見積を取ったが、採用しなかった側の見積を捨てていた | ルール(4)。採用しなかった見積も束に入れる。要否は公募要領で確かめる |
どれも、経理の処理としては誤りではありません。帳簿は正しく付いています。ふだんなら正しい処理が、補助事業では説明のつかない支払になる。これが補助事業の経理の難しさで、だから経理の外で先にルールを決める必要があります。
5|実績報告の直前に始めると遅いこと
実績報告の書類は、事業の終わりに一度に作るものだと考えられがちです。実際には、次の3つは支払が起きるたびにやっておかないと、あとで集められなくなります。
- 書類の束ね。事業が終わってから発注書を探すと、担当者が替わっていたり、メールの中に埋もれていたりします。支払が1件出るたびに、その1件の束を作ってしまうほうが結果的に早く終わります。
- 補助事業の支払一覧の突き合わせ。月に一度、補助事業の印が付いた支払の一覧と、束ねた書類の数が合っているかを確かめます。ずれていれば、その月のうちなら理由を思い出せます。
- 電子で受け取った書類の保存。請求書や見積書をメールやPDFで受け取ることが増えています。電子で受け取ったものの保存の仕方は電子帳簿保存法への対応、経理のどこが変わる?中小企業がやるべきことを実務で整理に書きました。補助事業では、事務局に出す形式もあわせて確かめてください。
もうひとつ、補助金の入金の会計処理と税務上の扱い(いつ収益に計上するか、圧縮記帳を使うか、など)は、税理士の判断が要る論点です。入金の前に顧問税理士に相談しておいてください。税理士と経理代行の役割の分け方は経理代行と税理士の違い|業務の線引きと、両方に頼むときの分け方に整理しました。
6|シメゴの場合と、正直に申し上げること
- 当社が受けるのは、記帳・支払データの作成・請求・月次の資料作成といった処理です。補助事業の経費に印を付けて月ごとに一覧にすること、支払の記録と束ねた書類の数を突き合わせることは、委託の範囲に加えてお受けできます。ふだんの範囲を超える分の費用は、お見積もりの段階でご確認ください。
- 補助金の申請書・事業計画書・実績報告書の作成代行は行いません。事務局とのやり取りも御社か、申請を支援した専門家にお願いします。
- ある経費が補助の対象になるかどうかの判断はいたしません。判断の材料になる支払の記録はお出しできますが、対象かどうかは公募要領と事務局の判断です。
- 発注日の確認と、現場の立替を止めることは、当社にはできません。当社に届くのは払ったあとの記録なので、支払の前のルールは御社で決めて守っていただく必要があります。
- 補助金の入金の税務上の取扱いは扱いません。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士の業務です。
- 補助事業の期間が短く、支払が数件で終わる場合は、そのためだけに外に出すことをお勧めしないこともあります。社内の1人が束ねれば足りる規模なら、委託の範囲を広げないほうが安く済みます。
まとめ
補助金を受けた会社の実績報告で止まるのは、書類の量ではなく、支払の形が補助金のルールに合っていないことです。発注の日付、支払の方法、補助事業の経費の見分け。この3つは、払ってしまったあとに経理では直せません。
だから、経理を外に出しているかどうかに関わらず、支払が起きる前に会社が4つのルールを決めます。発注してよい日を誰が確かめるか、どの口座からどう払うか、補助事業の支払にどう印を付けるか、取引1件ごとの書類を誰が束ねるか。委託先に渡すのは、そのルールと補助事業の期間です。判断と、現場から書類を集めることは社内に残ります。
そして要件そのものは、制度ごと・公募回ごとに違います。採択の連絡が来たら、まず公募要領の経理に関わる箇所を、社長か管理部門長が一度読んでください。そこから4つのルールを書き起こすのが、いちばん確実な始め方です。
補助事業の支払を、ふだんの経理と分けて回せるか。1枚にしてお返しします。
いまの支払の流れと、経理を誰がどこまで持っているかをうかがい、補助事業のために会社が決めるルール・外に出せる処理・税理士や事務局へ確かめる論点に分けてお返しします。委託の範囲を広げないほうがよい、という結論になることもあります。
無料コスト診断を受ける →※本記事は、記載時点での一般的な整理であり、特定の補助金の要件を示すものでも、補助金の交付や補助対象としての認定を保証するものでもありません。補助対象経費の範囲、支払方法の制限、必要な証拠書類、書類の保存期間、交付決定前の発注の扱いは、補助金の種類・公募回・交付規程によって異なります。実際の要件は、各補助金の公募要領・交付規程・事務局の手引き等でご確認ください。記事中の事故の例と4つのルールは、当社の受託実務およびご相談で見てきた範囲に基づく整理であり、統計調査に基づくものではありません。補助金の入金に係る会計処理・税務上の取扱いは税理士にご確認ください。当社は補助金の申請書・事業計画書・実績報告書の作成代行、税務代理・税務書類の作成・税務相談を行いません。
