給与計算は、従業員が何人になったら外に出すか|人数ではなく、給与の「変わり方」で決まる境目

目次
給与計算を社長ご自身や経理の兼務の方が続けてきた会社から、よくこう聞かれます。
- 「従業員が何人くらいになったら、給与計算は外に出すものですか」
- 「10人を超えたら、と聞いたことがあるが、うちはもう超えている。まだ社内で回っている気もする」
- 「逆に、まだ7人なのに毎月の締めがつらい。うちが特殊なのか」
当社はこの質問に、人数ではお答えしていません。同じ10人でも、全員が固定給で同じ事務所に通う10人と、シフトで働くパートが半分を占める10人とでは、毎月の給与計算の中身がまるで違うからです。
給与計算の手間を決めているのは人数そのものではなく、毎月、給与のどこがどれだけ変わるかです。この記事では、その「変わり方」を4つに分けて数える方法と、人数が増えてもまだ社内でよい会社、人数が少なくても外に出したほうがよい会社の見分け方を、社長・管理部門長の方に向けて整理します。
経理全体を外に出すかどうかの判定は、経理アウトソーシングを入れる基準|自社で回るかどうかを、5つの数字で判定するに書きました。そちらでも「従業員が◯人を超えたら」は当たらない基準として挙げています。この記事は、その考え方を給与計算に絞って掘り下げたものです。
1|人数で線を引けない理由
給与計算の作業は、大きく2つに分かれます。毎月同じことを繰り返す部分と、その月だけ違う部分です。
全員が固定給で、手当も毎月同じなら、給与ソフトは先月の結果をほぼそのまま使えます。人数が増えても、増えるのは同じ作業の繰り返しで、確かめる箇所はあまり増えません。
一方、手間とミスが集中するのは「その月だけ違う部分」です。入社した人の日割り、残業代、シフトによって変わる支給額、途中で変わった手当、欠勤の控除。ここは毎月、人が判断して入力し、確かめる必要があります。
たとえば、次の2社を並べてみます(説明のための架空の例です)。
| A社(従業員12人) | B社(従業員7人) | |
|---|---|---|
| 雇用形態 | 全員正社員・月給制 | 正社員3人、時給のパート4人 |
| 勤怠による変動 | 残業はほぼ無い | パートはシフトで毎月勤務時間が変わる |
| 手当 | 通勤手当のみ。毎月同額 | 資格手当・深夜の割増・店舗ごとの手当 |
| 拠点 | 1か所 | 2店舗。勤怠の締め方が店舗ごとに違う |
| 毎月、手で確かめる箇所 | 数か所 | パート4人分のほぼ全行と、手当の例外 |
人数はA社のほうが多いのに、毎月の手間はB社のほうが大きい。こうした逆転は起こりえます。だから「何人になったら」ではなく、「毎月、何か所が変わるか」で考えます。
2|給与の「変わり方」を4つに分けて数える
給与が毎月変わる原因は、ほぼ次の4つに分けられます。
(1) 人の出入り
入社・退職・休職・復職・産休育休の開始と終了。それぞれ、その月の日割りや、住民税・保険料の扱いの切り替えが発生します。人数が増えている途中の会社で最初に効いてくるのがここです。1年に何件あったかを数えてください。
(2) 勤怠による変動
残業、深夜、休日出勤、時給の人の勤務時間、欠勤・遅刻の控除。勤怠の締めから支給額への変換は、給与計算の中でいちばん時間がかかる工程です。時給やシフトで働く人が何人いるかは、総人数よりも手間に直結します。
(3) 手当・控除の種類と例外
手当の種類が多い会社、「この人だけ今月は別」という例外が多い会社は、毎月の確認が増えます。規程にない個別の約束(口頭で決めた手当、特別な立替の精算)が給与に混ざっていると、担当者の頭の中にしか計算方法がない、という状態になりがちです。
(4) 締め方の種類
拠点ごとに勤怠の締め日が違う、雇用形態ごとに締め日や支給日が違う、役員と社員で扱いが違う。締め方が1種類増えるごとに、確かめる工程が1本増えます。
この4つに加えて、年に数回だけ重くなる月があります。賞与の月と、年末調整の月です。月々は社内で回っていても、この数か月だけ担当者が残業で乗り切っている会社は少なくありません。年末調整の準備は秋口から始まるので、外に出すかどうかを考え始めるなら、夏から初秋のうちに決めておくと間に合いやすくなります。重い月の数え方は給与計算を外注したのに社内の手間が減らない会社は、何を出し忘れたのかにも書きました。
3|境目の見分け方
4つを数えたら、次の問いに答えてみてください。どれも数字で閾値を決めるものではなく、いまの体制がどこで無理をしているかを見るための問いです。
| 問い | 社内のままでよい状態 | 外に出すことを考える状態 |
|---|---|---|
| 先月から変わった箇所を、担当者以外が一覧で見られるか | 変更点の一覧があり、ほかの人が読んでも同じ計算ができる | 変更点は担当者の頭の中とメールの中にしかない |
| 勤怠の締めから支給まで、担当者は何日を使っているか | 毎月ほぼ同じ日数で終わる | 月によって大きくぶれる。ぶれる理由は人の出入りと勤怠の変動 |
| 担当者が支給日の前の週に休んだら、どうなるか | 代わりの人が、手順書を見て締められる | 支給日を動かすか、社長が徹夜で計算するしかない |
| 支給したあとに、差額の払い直しが年に何回あったか | ほとんど無い | 毎月のように何かを翌月で精算している |
| 給与を計算しているのは誰か | 給与計算に時間を取れる担当者がいる | 社長ご自身、または本業の片手間の兼務者 |
右側に当てはまる行が増えてきたときが、人数に関係なく、給与計算を外に出すことを考える時期です。とくに3行目(担当者が休んだら止まる)は、支給日という動かせない期限がある給与では、ほかの経理業務より重く見てください。
4|人数が増えても、まだ社内でよい会社
次のような会社は、従業員が20人、30人と増えても、社内で十分に回っていることがあります。
- 月給制の社員が中心で、残業の集計が勤怠システムから自動で取れる。毎月手で確かめる箇所が少なく、人数が増えても作業はほぼ比例しません。
- 給与の担当者が、ほかの業務と兼務していても時間を取れていて、手順書がある。代わりの人が同じ手順で締められるなら、止まる心配は小さい状態です。
- 人の出入りが少なく、年に数件で収まっている。
この場合、外に出すより先に、勤怠システムと給与ソフトの連携や、手順書の整備のほうが効くことがあります。外に出すのは、担当者の退職や採用の加速など、前提が変わったときで間に合います。
5|人数が少なくても、外に出したほうがよい会社
反対に、従業員がまだ10人に満たなくても、次に当てはまるなら早めに考えてください。
- 社長ご自身が給与を計算している。社長の時間の使い方として割に合わないうえに、社長が出張や体調不良で動けない月に、代わりがいません。
- 時給・シフトで働く人の比率が高い。飲食・小売・介護・教室運営のように、少人数でも勤怠の変動が大きい業態は、人数以上に手間がかかります。
- 拠点が2か所以上あり、勤怠の締め方がそろっていない。
- 給与を知る人を社内で増やしたくない。役員報酬や個人別の給与を社内の経理に見せたくない、という理由で社長が抱えている場合です。この考え方は役員報酬や個人別の給与を、社内の経理に見せたくないときに整理しました。
どれも共通しているのは、人数ではなく、変わり方の多さか、代わりのいなさが問題になっている点です。
6|1か月でできる数え方
判断のために大がかりな調査は要りません。次の手順で、1か月分の給与を題材に数えられます。
- 今月の給与について、先月から変わった箇所を全部書き出す。誰の、どの項目が、なぜ変わったか。1行1件で構いません。
- 書き出した行を、2章の4つ(人の出入り・勤怠・手当と控除・締め方)に振り分ける。どこに行が集中しているかで、手間の正体が分かります。
- 勤怠の締めから支給データを作り終えるまでの時間を、担当者に記録してもらう。確かめ直しや問い合わせの時間も含めます。
- 過去1年の人の出入りの件数と、賞与・年末調整の月にかかった時間を思い出して足す。
この4つがそろえば、外に出すかどうかだけでなく、外に出すときに見積を取る材料にもなります。「従業員は何人です」とだけ伝えて見積を取ると、返ってくるのは人数単価の表だけで、比べても差が出にくいからです。
7|外に出すと決めたあとに考えること
境目を越えていると分かったら、次の判断が続きます。それぞれ別の記事で整理しているので、順番にご覧ください。
- 社労士に頼むか、代行会社に頼むか。入退社のたびに発生する社会保険・雇用保険の手続きまで外に出すかどうかで分かれます。給与計算は社労士に頼むか、代行会社に頼むかをご覧ください。
- 経理と同じ委託先にまとめるか。従業員が増えていく途中の会社では、給与側の手間だけが先に伸びます。経理と給与計算は、同じ会社にまとめて出すべきかに判断軸を書きました。
- 何を渡し忘れると、社内の手間が減らないか。2章の「変わり方」のうち、変更点の一覧と手当の例外のルールは、外に出しても会社が渡し続ける情報です。
シメゴの場合と、お伝えしておくこと
- 当社がお受けするのは、給与の計算と支給データの作成、給与仕訳の会計への取り込みまでです。経理とあわせてお受けすることもできます。
- 社会保険・雇用保険などの手続き(労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行)は行いません。これは社会保険労務士の業務です。人の出入りが多い会社には、社労士側へ寄せる案を先にお出しします。
- 変わり方が少なく、社内で回っている会社には、外に出すことをお勧めしないことがあります。4章に当てはまる会社は、手順書と勤怠の連携を整えるほうが安く済むことが多いからです。
- 外に出しても、変更点を伝える役目は会社に残ります。入社・退職・手当の変更を、決まった日までに当社へ伝えていただく流れを、最初に一緒に決めます。
まとめ
給与計算を外に出す境目は、従業員の人数では決まりません。決めているのは、毎月、給与のどこがどれだけ変わるかです。人の出入り、勤怠による変動、手当と控除の例外、締め方の種類。この4つを数えると、同じ人数でも手間がまったく違う理由が見えてきます。
そして、変わり方が多いのに担当者が1人しかいない、担当者が休むと支給が止まる、社長ご自身が計算している。このどれかに当てはまるなら、人数が少なくても外に出すことを考える時期です。逆に、人数が増えても変わり方が少なく、手順書があって代わりがいるなら、まだ社内で十分に回ります。
まずは今月の給与で、先月から変わった箇所を書き出すところから始めてください。その1枚が、判断の材料にも、見積を取る材料にもなります。
御社の給与が毎月どこで変わっているか、1枚にしてお返しします。
雇用形態・勤怠の締め方・手当の種類・過去1年の入退社の件数をうかがい、いまは社内のままでよいのか、外に出すなら計算だけか手続きまでか(社労士の領域)を分けてお返しします。まだ外に出さないほうがよい、という結論になることもあります。
無料コスト診断を受ける →※本記事は、記載時点での一般的な整理であり、個別の会社について給与計算の外部委託の要否を判定するものではありません。記事中の会社の例と判断の問いは、当社の受託実務およびご相談で見てきた範囲に基づく整理であり、統計調査に基づくものではありません。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行・事務代理は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士の業務であり、当社では行いません。個別の判断については、顧問社会保険労務士・顧問税理士にご確認ください。
