経理と給与計算は、同じ会社にまとめて出すべきか
経理のアウトソーシングをご相談いただくと、ほぼ必ず途中でこの話になります。「ついでに給与計算もお願いできますか」。窓口が1つで済むなら楽だ、という発想はまったく自然ですし、実際に楽になる会社もあります。
ただ、当社にとって都合の悪いことから先に書きます。まとめて受注できるほうが受託側は嬉しいのですが、1社にまとめると、止まるときも1つにまとまります。経理と給与を同じ会社に預けている状態で乗り換えが必要になると、月次の締めと給与の支給が同時に不安定になります。ここを承知したうえでまとめるのと、知らずにまとめるのとでは、2年後の景色が違います。
この記事では、1社にまとめてよい会社と、分けたほうがよい会社を、3つの軸だけで判断する方法を書きます。「まとめたほうが安い」「窓口は少ないほうがよい」といった一般論では決まりません。決まるのは、御社の情報の流れと、締めのカレンダーと、解約したときに何が同時に止まるかの3点です。
この記事は「委託先を何社にするか」という一点に絞っています。給与計算そのものを外に出すかどうかは給与計算のアウトソーシングに、経理をどこまで出すかの範囲の決め方は経理の丸投げはどこまで可能かに、渡すデータと権限の設計は経理の外部委託に分けて書いています。
1|「窓口が1つ」で本当に減る手間は、どこか
先に、まとめる利点を正確にしておきます。1社にすると減るのは、主に会社をまたぐ受け渡しの手間です。具体的にはこの4つです。
- 給与仕訳の受け渡しが消える。 給与計算の結果を会計に取り込む工程で、CSVの様式合わせや金額の突合が発生します。同じ会社の中なら、この受け渡し自体がなくなります。
- 社会保険料・源泉所得税の納付データが二重に動かない。 給与側で計算した控除額を、経理側が納付の仕訳として起こす。この行き来が1本になります。
- 「どちらの担当か分からない質問」の宛先が決まる。 通勤手当の課税、立替経費と給与の線引き、役員報酬の期中改定。どちらに聞けばよいか迷う論点は、実務では意外と多くあります。
- 契約と請求が1本になる。 事務としては小さい話ですが、更新時期がずれて片方だけ条件が変わる、といった事故は減ります。
この4つは実在する利点です。ここを否定するつもりはありません。問題は、この利点と引き換えに何を差し出しているかが見えにくいことのほうにあります。
2|判断軸は、この3つだけです
ご相談の場では、次の3つを順に確認しています。3つとも「まとめてよい」に倒れれば1社、1つでも引っかかれば分ける、という単純な決め方で足ります。
(1)個人情報の流れが二重になるか
給与計算に渡すデータは、経理に渡すデータとは性質が違います。氏名・住所・扶養親族の情報・口座・そしてマイナンバーが入ります。個人情報保護法は、個人データの取扱いを委託する場合に、委託先に対する必要かつ適切な監督を求めています。マイナンバー(特定個人情報)についても、番号法で委託先の監督が求められています。つまり、委託先が2社なら、監督する対象も2社になります。
ここで判断が分かれます。すでに社会保険の手続きを社会保険労務士に出している会社は、給与に関わる個人情報の流れがすでにそこにあります。そこへ経理代行会社を加えると、同じ個人情報が3か所に流れる形になりかねません。この場合は、給与は社労士側にまとめ、経理は別に出すほうが流れが単純です。
逆に、社会保険の手続きも社内でやっていて、外部に給与関連の情報が出ていない会社は、出す先を増やす意味が薄い。1社にまとめたほうが監督も契約も1本で済みます。
(2)月次の締めと給与の支給日が、ぶつかるか
これは机上ではなく、カレンダーの話です。月次決算の締め作業と、給与計算の締め・支給日が同じ週に集中している会社があります。たとえば月末締めの翌月25日支給で、月次も翌月10営業日までに固めたい、という組み合わせです。
1社にまとめると、この2つを同じ担当者が、同じ週に処理することになります。人員に余裕のある委託先なら分業されますが、担当者が1人ないし2人の体制で受けている場合、どちらかが必ず後ろに倒れます。そして後ろに倒れるのは、たいてい月次のほうです。給与は支給日が動かせないからです。
| 御社の状況 | まとめる | 分ける |
|---|---|---|
| 締めと支給日が同じ週に集中している | △ 委託先の担当体制を必ず確認 | ◯ 相互に影響しない |
| 締めと支給日が2週間以上離れている | ◯ 同じ担当でも回る | ◯ |
| 月次を早めたい(当月内に固めたい) | △ 給与が優先されて後回しになりやすい | ◯ 月次に人を張れる |
| 賞与が年2回あり、支給月は特に混む | △ 賞与月の月次が遅れやすい | ◯ |
委託先を選ぶときに聞いておくべき質問は1つです。「弊社の経理と給与は、同じ担当者が見ますか。別ですか」。同じだと即座に不可というわけではありません。ただ、答えが「同じです」なら、締めと支給日が近い会社は分けたほうが安全です。月次を早める話は月次決算の早期化にまとめてあります。
(3)乗り換えるとき、両方が同時に止まるか
3つ目がいちばん重く、いちばん軽視されています。委託先を変える理由は、品質だけではありません。担当者の退職、料金改定、先方の体制変更、こちらの事業規模の変化。どれも起こります。
そのときに1社にまとめていると、経理の引き継ぎと給与の引き継ぎが同じ月に発生します。給与は1か月でも間違えると従業員に直接届きますし、遡って直すのが最も面倒な領域です。経理の引き継ぎだけでも数か月かかるものを、給与と同時にやることになります。
分けていれば、片方を替えるあいだ、もう片方は動き続けます。これは冗長性の話です。乗り換えそのものの手順は経理代行の乗り換えに書きましたが、そこで挙げた注意点は、給与が絡むと難度が一段上がります。
3つの軸の使い方。 (1)個人情報の流れが増えないか、(2)締めと支給日が同じ担当にぶつからないか、(3)同時に止まっても耐えられるか。3つとも問題なければ1社にまとめてよい、というのが当社の考え方です。1つでも引っかかるなら、分けたほうが結果的に安く済みます。まとめて値引きが出たとしても、乗り換え1回のコストのほうが大きいためです。
3|まとめたほうがよい会社の輪郭
実際にご相談を受けてきた範囲で、1社にまとめてうまく回っているのは、次のような会社です。
- 従業員数が数名から十数名で、給与の変動要因が少ない。 月次の変動が固定給中心で、勤怠の集計が単純な会社です。給与計算の工数そのものが小さいので、同じ担当で回ります。
- 社会保険の手続きを、まだ外に出していない。 出す先が増えないので、監督も契約も1本で済みます。
- 給与支給日と月次の締めが離れている。 同じ週にぶつからない設計になっている会社です。
- 経理担当者が退職して、いま社内に誰もいない。 この状態では、まず止めないことが最優先です。分業の議論は落ち着いてからで構いません。
4つ目は補足が要ります。担当者が抜けた直後(経理の引き継ぎ)のような場面では、理屈より復旧が先です。ただしその場合でも、契約書に「あとで分割できる」条項を入れておいてください。落ち着いたときに片方だけ切り出せる状態にしておく、という一手間です。
4|分けたほうがよい会社の輪郭
逆に、分けることをおすすめしているのは次のような会社です。
- すでに社労士に社会保険の手続きを出している。 給与計算はその流れに寄せ、経理は別に出す。個人情報の流れが増えません。
- 従業員数が増えていく途中にある。 人が増えると給与側の工数だけが先に伸びます。経理と同じ委託先だと、給与の伸びが月次の遅れとして出てきます。
- 勤怠や手当の設計が複雑。 シフト制、複数拠点、みなし残業と実残業の併用など。給与計算の難度が高い会社は、給与を専門に見る先に出すほうが事故が減ります。
- 月次決算を早めることが、いまの経営課題になっている。 月次に人を張れる形にしないと、早期化は進みません。
この4つ目に当てはまる会社に、当社が「給与もまとめてどうぞ」とはお伝えしていません。まとめて受けたほうが当社の売上は増えますが、月次を早めたい会社の給与を同じ担当が持つのは、目的に反します。
5|どちらを選んでも、契約書で決めておく3行
1社にする場合も、分ける場合も、先に決めておくと後で助かるのがこの3行です。
- 分割・部分解約の可否。 経理と給与のうち片方だけを解約できるか。できる場合、残るほうの料金がどう変わるか。まとめたことによる値引きが、片方を外した瞬間に消える契約になっていないかを確認してください。
- 個人情報の取扱いの範囲と、再委託の可否。 給与のデータをどこまで保持するか、誰が見られるか、再委託する場合に事前の同意を要するか。マイナンバーを含む場合は特に、書面で確認しておくべきところです。
- 締めと支給日が重なる月の優先順位。 賞与月・決算月など、両方の負荷が重なる月にどちらを優先するか。決めていないと、当月になってから相談することになります。
3つ目は契約書に書きづらければ、初回の打ち合わせ議事録でも構いません。要は、混む月の扱いを先に合意しておくかどうかです。稼働後の社内体制の作り方は経理を外に出したあと、社内に誰を残すかに整理しています。
シメゴの場合と、正直に申し上げること
当社は経理代行会社で、給与計算もお受けしています。そのうえで、次のようにご案内しています。
- 労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行は行いません。 これは社会保険労務士の業務です。当社がお受けするのは給与の計算と支給データの作成までで、その先の手続きが必要な会社には、社労士と組む形をお勧めしています。この線引きは給与計算代行にも書いたとおりです。
- すでに社労士がいる会社には、給与を社労士側に寄せる案も併せてお出しします。 当社が両方受けたほうが売上にはなりますが、個人情報の流れを増やさないほうが管理は楽です。
- まとめてお受けする場合も、経理と給与の担当を分けています。 締めと支給日が重なる月に、片方が後ろへ倒れないようにするためです。ご契約前に、担当の付け方をそのままお伝えします。
「全部まとめて安くします」と言えないぶん、見積の見た目では負けることがあります。それでも、2年後に両方が同時に止まる形を作らないほうが、結局は安いと考えています。
まとめ
経理と給与計算を1社にまとめる利点は本物です。給与仕訳の受け渡しが消え、納付データの行き来が1本になり、どちらに聞けばよいか迷う質問の宛先が決まります。
ただし、まとめると止まるときも1つにまとまります。判断は3つの軸だけで足ります。個人情報の流れが二重にならないか。月次の締めと給与支給日が、同じ担当者の同じ週にぶつからないか。乗り換えのときに両方が同時に止まっても耐えられるか。3つとも問題なければ1社に、1つでも引っかかるなら分ける。
そして、どちらを選んでも契約書に3行だけ入れておいてください。片方だけ解約できるか、個人情報の範囲と再委託、混む月の優先順位。この3行があるかどうかで、2年目以降の選択肢の広さが変わります。1社にまとめることが常に正解ではありません。御社のカレンダーと情報の流れが決めます。
まとめるべきか分けるべきかを、御社のカレンダーで判断します。
締め日・支給日・社会保険の委託状況をうかがい、1社に寄せてよい会社かどうかをお返しします。分けたほうがよいと判断した場合は、そうお伝えします。
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