経理代行が作った月次の帳簿は、そのまま決算に使えるか
月次は経理代行に出し、決算と申告は顧問税理士にお願いする。この分担は珍しいものではありません。当社がお受けしている会社でも、いちばん多い形です。ところが期末になって、「代行が作った帳簿が、そのままでは決算に使えなかった」という話が出ることがあります。実際には作り直しというより、税理士側で科目を組み替え、証憑を集め直し、期中の処理をなぞり直す作業が発生します。会社から見れば、月次に払った費用と、決算に払う費用の両方が発生したように見えます。
先に、当社にとって都合の悪いことを書きます。経理代行に月次を出しても、決算が楽にならない会社があります。むしろ、月次と決算の担い手が分かれたことで、両方が同じ確認を二度やる状態になることがある。これは代行会社の技量の問題ではなく、つなぎ目の取り決めが無いことが原因です。取り決めが無ければ、どこの代行会社に頼んでも同じことが起きます。
作り直しが起きる条件は、当社が見てきた範囲では3つに絞られます。勘定科目の当て方が期中で変わっている。証憑と仕訳の紐づけが残っていない。税務調整を前提にした処理を月次でしていない。この3つです。逆に言えば、この3つを期首に決めておけば、期末で揉めることはほとんどありません。この記事は、その3つの中身と、期首に何を決めるかの整理です。
1|「決算に使える帳簿」とは、何が揃っている状態か
まず前提を揃えます。会社法第432条第1項は、株式会社が法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならないと定めています。決算で作る計算書類(貸借対照表、損益計算書ほか)は、同法第435条第2項に基づいて各事業年度について作成されるもので、その土台がこの会計帳簿です。つまり「決算に使える帳簿」とは、期末になってから整える書類ではなく、期中に作られた帳簿がそのまま土台になる状態を指します。
そのうえで、税務の側があります。法人税法第22条第4項は、収益の額および原価・費用・損失の額を、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとすると定めています。会計として作った数字を出発点にして、税務上の調整を加えて所得を出す、という構造です。ここが月次と決算のつなぎ目にあたります。
実務で「使える/使えない」を分ける具体的な条件は、次の4つに落ちます。
| 揃っているべきもの | 揃っていないと期末に起きること |
|---|---|
| 期を通じて同じ勘定科目の当て方 | 前期比較・月次推移が意味を持たなくなり、増減の説明ができない。税理士は科目を組み替えてから見ることになる |
| 仕訳から証憑にたどれる状態 | 根拠を探す作業が期末に一気に発生する。1年分をさかのぼるので、月次でやる場合の何倍も時間がかかる |
| 期末に調整が要る項目の洗い出し | 棚卸・引当・未払・前払などが期末になって初めて論点化し、決算の日程が後ろに倒れる |
| 締めたあとに数字が動いていないこと | 月次で報告した数字と決算の数字が合わず、どちらが正なのかの確認から始まる |
4つ目は見落とされやすいところです。月次を締めたあとに過去月の仕訳を直すと、既に報告した数字が変わります。直したこと自体は正しくても、直した記録が残っていないと、期末に「なぜ違うのか」を追う作業が発生します。月次の締めをどう固めるかは月次決算とは?流れ・早期化のやり方と、締めが遅れる会社の共通点に書きました。
2|作り直しが起きる条件は3つ
ここからが本題です。当社が引き継ぎでお受けした会社、あるいは当社から税理士へ渡した会社を見ていて、期末に手戻りが出るのは次の3つのいずれかが起きているときです。
(1) 勘定科目の当て方が期中で変わっている
いちばん多い原因です。同じ内容の支出が、4月は「消耗品費」、9月は「事務用品費」、1月は「雑費」に入っている。担当者が代わった、あるいは会計ソフトの自動仕訳の学習が途中で変わった、というのが典型です。
これが厄介なのは、帳簿としては間違っていない点です。どの科目に入れても、費用の合計額は変わりません。ですから月次のP/Lを見ている限りは気づきにくい。気づくのは、前期と比べたとき、あるいは税務上の取扱いが科目によって変わる項目に当たったときです。交際費、寄附金、租税公課、修繕費と資本的支出の区分などは、科目の当て方がそのまま判断につながります。
対策は単純で、期首に勘定科目表を1枚作り、迷いやすいものだけ判断の基準を書いておくことです。全科目を網羅する必要はありません。当社が作るときも、実際に書くのは10〜20項目です。「この支出はこの科目」と決めておけば、担当者が代わっても当て方は動きません。作り方は勘定科目の決め方|正解を探すのではなく、迷わない状態を作るにまとめています。
期中で科目を変えること自体は、必要があれば行って構いません。問題は、変えた事実と、いつから変えたかが残っていないことです。当社は変更があった月の月次報告に1行残します。これがあるだけで、期末に税理士が「6月から科目が変わっている」と気づけます。無ければ、税理士は全期間を並べて自分で見つけることになります。
(2) 証憑と仕訳の紐づけが残っていない
2つ目は、数字は合っているのに根拠が出てこない状態です。仕訳は入っている、残高も合っている。しかし「この300,000円は何の支払いですか」と聞かれたときに、対応する請求書がすぐ出てこない。
紙で保管している会社では、期末に段ボールを開けて日付順に探すことになります。電子で保管していても、ファイル名が「scan_0912.pdf」のまま並んでいれば同じです。探す時間は、月次でやれば1件あたり数分ですが、期末に1年分をまとめてやると桁が変わります。そして、この作業は税理士の作業でも代行の作業でもなく、たいてい社内の誰かに回ってきます。
電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)は、第4条第3項で国税関係書類のスキャナ保存を認めており、その要件は同法施行規則で定められています。要件のなかには検索できる状態にしておくことに関する定めもあり、「保存してある」ことと「引けること」は別だという前提で制度が組まれています。ただし要件の細目と経過措置は改正が入りやすい領域なので、実際の運用は国税庁の最新の一問一答と、顧問税理士の確認を通してください。制度の全体像は電子帳簿保存法への対応、経理のどこが変わる?中小企業がやるべきことを実務で整理に整理しています。
あわせて保存の年限です。法人税法施行規則第59条は帳簿書類を原則7年間保存すべきことを定めており、青色申告法人が欠損金の繰越控除を受ける場合には、法人税法第57条の規定により繰越期間に対応した保存が求められます(平成30年4月1日以後に開始する事業年度に生じた欠損金の繰越期間は10年)。決算のためだけでなく、そのあと数年にわたって引ける状態が要るということです。
(3) 税務調整を前提にした処理を月次でしていない
3つ目は、月次の設計そのものの話です。月次を「今月いくら儲かったか」を出すためだけに組んでいると、期末に調整が集中します。
具体的には、次のような項目です。いずれも、月次のうちに拾っておけば期末の作業が薄くなり、拾っていなければ期末に一度に出てきます。
- 棚卸資産。期末にしか数えない会社は、期中の売上原価が概算のままです。決算で一気に動くと、月次の利益と決算の利益が大きくずれます。
- 減価償却費。期末に年額をまとめて計上する運用だと、月次のP/Lは1年を通じて実態より軽く出ます。月次では概算でも按分しておくほうが、期末の落差が小さくなります。
- 未払費用・前払費用。支払った月に全額を費用にする処理を続けていると、期末で期間対応に直す作業が発生します。
- 交際費、寄附金など税務上の取扱いが分かれる支出。科目が混ざっていると、期末に取引明細から抜き出す作業になります。
- 役員給与、貸付金・借入金の利息、関係会社との取引。期中に処理の方針が決まっていないと、期末に方針決めからやり直しになります。
ここで大切なのは、月次でどこまでやるかを、会社と代行と税理士の3者で先に決めておくことです。全部を月次でやる必要はありません。月次は概算でよい、期末に本番の数字に置き換える、と決めてあれば、それは手戻りではなく設計どおりの作業です。決めていないと、同じ作業が「聞いていない」という形で二度発生します。
3|期首に決めておく4点
ここまでの3つを潰すために、当社が期首(あるいは受託の初月)に必ず紙にしているのは次の4点です。特別なことは何もありません。決めていないから揉める、というだけの話です。
- 勘定科目表。迷いやすい10〜20項目だけでよい。誰が入力しても同じ科目になる状態を作ります。変更したら日付を残します。
- 証憑の置き場と命名の規則。どこに置くか、ファイル名に何を入れるか(日付・取引先・金額)。仕訳から証憑に、証憑から仕訳に、両方向でたどれることが条件です。
- 月次でやること/期末に回すことの線引き。棚卸・償却・未払・前払を月次で概算まで入れるのか、期末にまとめるのか。3者で合意して1枚に書きます。
- 締めの確定日と、確定後に直す場合の手順。何日をもって締めとするか。締めたあとに修正が要るとき、誰に伝え、どこに記録を残すか。
この4点は、代行会社を選ぶときの見積の中身にも直結します。「月次記帳一式」とだけ書かれた見積は、この線引きが入っていない可能性があります。相見積が横に並ばない理由は経理代行の相見積が横に並ばない理由|仕訳数・業務件数・人月、3社が別々のものを数えているに書きました。
4|税理士との役割の重なりを、先に整理しておく
月次を代行、決算を税理士という分担では、どちらの作業でもある領域が必ず出ます。ここを曖昧にすると、両方がやる(費用の二重)か、どちらもやらない(期末に発覚)のどちらかになります。
| 領域 | よくある取り決め | 決めておかないと |
|---|---|---|
| 期中の仕訳・残高照合 | 代行が担当。月次で残高の根拠まで残す | 期末に税理士が残高の根拠を集め直す |
| 科目の判断が割れる取引 | 代行が論点として挙げ、税理士に確認して決める。決めた内容を科目表に追記 | 代行の判断のまま進み、期末に組み替えになる |
| 棚卸・償却・引当などの調整 | 月次は概算、期末に税理士が確定。どちらでやるかを事前に明記 | 期末に「入っていると思っていた」が起きる |
| 税務代理・税務書類の作成・税務相談 | 税理士が行う | — |
最後の行について、はっきり書いておきます。税理士法第2条第1項は、税務代理、税務書類の作成、税務相談を税理士の業務として定めています。当社はこれらを行いません。月次の帳簿づくりと、その帳簿が決算で使える状態を保つところまでが当社の役割です。個別の税務判断は、必ず顧問税理士の確認を通していただいています。両者の違いは税理士と経理代行は何が違う?役割分担と「両方頼む」が正解な理由に整理しました。
5|正直に申し上げること
- 月次を外に出しても、決算が自動的に楽になるわけではありません。楽になるのは、上の4点を決めた場合だけです。決めずに出すと、月次の費用が増えただけで期末の作業は変わらない、ということが起こり得ます。
- 顧問税理士が既に月次まで見ている会社は、当社を挟むと重なります。その場合、当社は「いまのままでよいのではないですか」とお伝えしています。挟む価値が出るのは、税理士側が期中の実務まで手が回っていない、あるいは会社側の入力作業が残っている場合です。
- 期の途中からお受けする場合、期首にさかのぼって科目を揃え直すかどうかは、先に決めます。揃えるなら費用が発生します。揃えずに「この月から」とすることもできますが、その場合は前期比較が使えない期が1年発生します。どちらが得かは会社によります。切替の時期そのものの考え方は経理代行に切り替えるなら、いつが一番傷が浅いか|決算期・年末調整・給与改定を外した移行時期の決め方に書きました。
- 当社は、御社の顧問税理士に直接お尋ねすることを前提にしています。会社を経由して伝言する形だと、科目の判断が届くまでに時間がかかり、それが期末の手戻りの原因になります。初回のご相談で、税理士との連絡経路をどうするかを必ず確認しています。
まとめ
経理代行が作った月次の帳簿がそのまま決算に使えるかどうかは、代行会社の実力よりも先に、月次と決算のつなぎ目に取り決めがあるかどうかで決まります。
作り直しが起きる条件は3つです。勘定科目の当て方が期中で変わっている。証憑と仕訳の紐づけが残っていない。税務調整を前提にした処理を月次でしていない。いずれも、期首に決めておけば起きません。決めないまま1年走ると、期末に一度に出てきます。
決めるのは4点だけです。勘定科目表、証憑の置き場と命名、月次でやること/期末に回すことの線引き、締めの確定日と修正の手順。この4枚があれば、月次を外に出したことが決算の負担軽減につながります。無ければ、費用だけが二重になります。
そして、税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士の業務です。当社の役割は、その手前で「決算で使える帳簿」を毎月積み上げることです。期末に慌てないための仕事は、期首に終わっています。
いまの月次が、決算でそのまま使える状態かを確認します。
直近3か月の試算表と、勘定科目の当て方、証憑の置き場をうかがい、期末に手戻りが出そうな箇所をお返しします。顧問税理士が既に月次まで見ておられる場合は、そのままでよいと申し上げます。ご相談だけでも承ります。
無料コスト診断を受ける →※本記事は、記載時点で公表されている法令および公的機関の公表資料に基づく一般的な整理であり、個別の事案における取扱いや適否を判定するものではありません。参照した資料は、会社法第432条第1項および第435条第2項、法人税法第22条第4項、法人税法第57条、法人税法施行規則第59条、税理士法第2条第1項、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法)第4条第3項および同法施行規則(いずれもe-Gov法令検索)、ならびに国税庁が公表する電子帳簿保存法関係の一問一答です。制度は改正されることがあるため、細目および適用時期は各資料の最新版と顧問税理士の確認をお願いします。税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士の業務であり、当社では行いません。期末の手戻りが起きる条件に関する記述は、当社の受託実務および引継ぎで見てきた範囲に基づく整理であり、統計調査に基づくものではありません。