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上場準備に入る会社は、経理を外に出したままでよいか|社内に戻す範囲と、外に残してよい範囲

キーワード: 経理 アウトソーシング 上場準備 | シメゴ(運営: Never Red株式会社)

創業から数年、経理は外に出して回してきた。売上が伸びて、資金調達の話も進み、社内で「上場」という言葉が出始めた。そのタイミングで、社長や管理部門の責任者からこう聞かれます。「上場を目指すなら、経理は全部社内に戻さないといけないんですよね」。

先に、当社の理解を書きます。全部を戻す必要はないと考えています。ただし、戻さなければならないものは確かにあって、それは作業の量ではなく、次の2つです。

  1. 判断。どの会計処理を選ぶか、いつ計上するか、見積もりをどう置くか。
  2. 説明。その判断の理由と、数字が毎月同じ手順で作られていることを、社外の人に自分の言葉で説明すること。

仕訳の入力や証憑の整理、給与の計算といった作業は、条件を整えれば外に残せる、というのが当社の見方です。逆に、判断と説明を外に預けたまま上場準備に入ると、作業をいくら内製しても足りません。この記事では、その線をどこで引くか、どの順番で戻すかを書きます。

最初にお断りしておきます。上場審査の基準や、ある体制で審査に通るかどうかについて、当社は判断する立場にありません。ここで書くのは、当社が受託実務と経営管理の支援で見てきた範囲での整理です。個別の判断は、主幹事証券会社と監査法人に確認してください。

1|上場準備で経理に起きる変化は、仕事の量より「説明する相手」が増えること

非上場のあいだ、経理の数字を説明する相手はおおむね社長、顧問税理士、取引のある金融機関です。上場準備に入ると、ここに監査法人主幹事証券会社が加わり、申請の段階では証券取引所の審査が加わります。

この人たちが経理に向ける質問は、税務申告のときとは性質が違います。

どれも、作業を誰がしているかではなく、判断と確認を社内の誰が持っているかを聞いています。外注先が「その判断はお客様から指示を受けてやっています」と答えるしかない状態だと、質問は社内に戻ってきて、社内に答えられる人がいない、ということが起きます。

東京証券取引所は、上場審査の考え方や手続きを市場区分ごとの「新規上場ガイドブック」として公表しています。どの市場を目指すにしても、主幹事証券会社と一緒にまずこの一次資料を読み、自社の管理体制に何が求められるかを確かめるところから始めてください。この記事では、その手前にある「経理の何を社内に持つか」だけを扱います。

2|社内に戻すもの、外に残してよいもの

当社が上場準備に入る会社と線を引くときは、業務を次のように分けています。

業務上場準備での置き場所理由
会計方針・会計処理の判断(収益の計上時期、引当金、固定資産の扱いなど)社内に戻す判断の理由を監査法人に説明するのは会社。外注先は判断に沿って処理する側に置く
月次決算の締めの責任者社内に戻す締めの日程、未確定項目の扱い、数字の確定を決める人が社内にいること
予算・予実の管理と、経営陣への報告社内に戻す数字を読んで次の手を決めるのは経営の仕事。材料づくりは外と分担できる
監査法人・主幹事証券との窓口社内に戻す質問を受けて、社内外に割り振り、回答の中身に責任を持つ人
支払・入金の承認社内に残す(既に社内なら動かさない)お金を動かす権限は外に渡さない
仕訳の入力・証憑の整理条件付きで外に残せる手順が文書になっていて、社内の確認が毎月入ること
給与計算・経費精算の点検条件付きで外に残せる計算の結果を社内が承認し、変更の記録が残ること
支払データの作成条件付きで外に残せる作るのは外、承認して実行するのは社内、と分かれていること

表の上半分は「決める・説明する」仕事で、下半分は「決まったとおりに作る」仕事です。上場準備で社内に戻すのは上半分です。下半分は、外に残すか社内に戻すかをコストと人の採りやすさで決めてよい、と私は考えています。

「条件付き」と書いた条件は、どれも同じ形をしています。手順が書いてあること、社内の誰かが毎月確認していること、その確認の跡が残っていること。1人経理の会社で、お金の事故がどこで起きるかと、外に出したときに牽制が効く場面・効かない場面は経理の委託で牽制は効くのか|1人に任せている会社で、お金の事故はどこで起きるかに書きました。考え方の骨格は同じなので、ここでは繰り返しません。

3|戻す順番は「判断」から。作業から戻すと遠回りになる

上場準備で経理を社内に戻すとき、よく見るのは作業から戻す進め方です。経理担当を採用して、まず仕訳の入力を社内でやってもらう。慣れてきたら月次の締めも。いずれ判断も。

この順番だと、判断と説明が社内に来るのが最後になります。そして上場準備で最初に問われるのは、その最後の部分です。当社がお勧めしているのは逆の順番です。

  1. 判断を戻す。会計方針と、迷ったときの処理の決め方を、社内の責任者が持つ。外注先には、判断の結果を指示として渡す。
  2. 締めの責任を戻す。月次の日程と、何がそろったら数字を確定させるかを、社内の責任者が決める。
  3. 説明を戻す。試算表の主な増減を、社内の責任者が自分の言葉で経営陣に報告する。
  4. 作業は、最後に必要な分だけ戻す。判断・締め・説明が社内に来てから、作業のどこを内製するかを決める。

「戻すなら判断から」という順番は、上場を目指さない会社の内製化でも同じです。行単位で分けて戻す考え方は経理の内製化|全部戻すより、行単位で分けたほうが早いに整理しました。上場準備が違うのは、この順番に期限が付くことです。

4|いつ戻し始めるか。「監査を受ける期」から逆算する

上場を申請するまでには、監査法人による監査を受ける期間があります。何期分の監査が必要か、どの時点で監査契約を結ぶかは、目指す市場区分や会社の状況で変わるため、ここでは数字を書きません。主幹事証券会社と監査法人に確認してください。

そのうえで、経理の側で言えることは1つです。監査の対象になる期の数字は、その期が始まる時点で、社内が判断と締めを持っている体制で作られている必要がある、ということです。期の途中で担当と手順が入れ替わると、同じ期の中で数字の作り方が2種類になり、その説明から始めることになります。

ですので、当社がご相談を受けたときは、次の順で時期を置いています。

月次の締めを縮めるときに先に手を入れる場所は月次締めの早期化|1日縮めるために動かすのは、経理の外ですに、予算と実績を毎月比べて手を打つ回し方は予実管理とは|計画と実績の差を毎月見て、手が打てる状態にする実務に書きました。上場準備では、この2つが「説明」の材料になります。

5|外に残す業務は、契約と運用に5行を足す

作業を外に残すと決めたら、上場準備に入る前に、委託の契約と運用に次の5行を足しておくことをお勧めします。いずれも、監査法人や社内の責任者から「この数字はどう作られていますか」と聞かれたときに、外注先の中身を会社が説明できるようにするためのものです。

  1. 手順書の提出と更新。委託している作業の手順を文書で受け取り、変えたときは変えた日と中身を知らせてもらう。
  2. 担当者の交代の通知。外注先の担当が替わるときは、事前に知らせてもらい、引き継ぎの形を確認する。
  3. 監査対応への協力の範囲。資料の提出、作業内容についての質問への回答を、どこまで・どの期限で協力してもらえるか。追加の費用が発生するならその条件も。
  4. データの持ち主と置き場所。会計ソフトや証憑の保管場所は会社の契約で、外注先は招待されて入る形にする。やめたときに何が会社に残るかを決めておく。
  5. 再委託の有無。外注先がさらに外に出していないか、出すなら事前に承認を取る形にする。

外に出しても帳簿の保存や申告の責任が会社から消えないことは経理を外に出しても、会社から消えない義務があるで書いたとおりです。上場準備では、この「消えない責任」に、社外に対して説明する責任が加わると考えてください。

6|かえって困る、3つの戻し方

(1) 一度に全部を戻して、締めが遅れる

「上場するなら内製」と決めて、外注契約を一度に解約する。新しく採った担当者は会社の取引にまだ慣れておらず、締めが遅れ、試算表が出るまでの日数が外注していたころより長くなる。上場準備で最初に数字の遅れが出るという、いちばん避けたい形です。外注先との並走期間を置き、戻す行を1つずつ動かしてください。

(2) 作業は戻したが、判断はまだ誰も持っていない

入力も締めも社内でやるようになった。けれど、迷う処理は結局これまでの外注先や顧問税理士に聞いて決めている。作業の場所は変わったのに、判断の場所は外のままです。監査法人の質問に答えるときに、ここが露出します。

(3) 責任者の採用を「上場が近づいてから」にする

管理部門の責任者は、採用に時間がかかるうえ、着任してから会社の取引と数字を理解するまでにも時間がかかります。担当者の属人化を崩す順番を経理の属人化|手順書を作っても直らない理由と、崩す順番に書きましたが、上場準備ではその「崩す人」を先に確保しておく必要があります。

7|シメゴの場合と、正直に申し上げること

判断と説明の側、つまり会計方針の整理、月次決算と予実管理の組み立て、経理責任者が着任するまでの間の管理体制づくりは、シメゴの運営会社であるNever Redが経営管理のコンサルティングとして扱っています。表の上半分と下半分を、同じ設計図で分けて考えたい場合は、こちらもご相談ください。

まとめ

上場準備に入るからといって、経理を全部社内に戻す必要はない、というのが当社の理解です。戻すべきなのは作業の量ではなく、判断と説明です。会計方針の判断、月次の締めの責任、予実の報告、監査法人と主幹事証券の窓口を社内に置き、仕訳の入力や給与計算などの作業は、手順が書かれ、社内の確認が毎月入り、その跡が残る形であれば外に残せます。

戻す順番は判断→締め→説明→必要な分だけ作業です。そして、監査の対象になる期が始まる前に、社内の責任者がいる体制にしておくこと。そのためには、責任者の採用をいちばん先に動かすことになります。

外に残す業務には、手順書、担当の交代、監査対応への協力、データの持ち主、再委託の5行を足しておいてください。何期分の監査が要るか、どの時点から体制が問われるかは、会社ごとに主幹事証券会社と監査法人に確認するところから始まります。

いまの外注の範囲を、戻すものと残せるものに分けます。

いま外に出している業務と、社内で判断している人をうかがい、上場準備で社内に戻す行と、条件を整えれば外に残せる行を1枚にしてお返しします。上場審査の可否の判断はいたしませんが、線の引き方は一緒に整理します。

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※本記事は、記載時点での一般的な整理であり、上場審査の基準の解釈、特定の会社が審査に通るかどうか、その他の個別の判断を示すものでも保証するものでもありません。上場審査の考え方と手続きについては、東京証券取引所が公表する「新規上場ガイドブック」(市場区分ごと)の最新版と、主幹事証券会社・監査法人にご確認ください。表の「社内に戻す/外に残せる」の区分と、3つの困る戻し方は、当社の受託実務および経営管理の支援で見てきた範囲に基づく整理であり、統計調査に基づくものではありません。当社は会計監査、税務代理・税務書類の作成・税務相談、法的な判断を行いません。