経理担当が産休・育休に入る間だけ、外に出せるか|戻ってくる前提で切り出す範囲と、戻るときに困らない渡し方
経理を1人で回している会社から、こういうご相談をいただくことがあります。
- 経理の担当者から、来年の春に産休に入ると聞いた。おめでたい話で、戻ってきてほしい。
- ただ、その人がいないと月末の支払も、給与も、月次の締めも回らない。
- 代わりの人を採るほどではない。辞めるわけではないので、恒久的に外注に切り替える話でもない。
退職なら「次の人に引き継ぐ」、人手不足なら「採るか外に出すか」で考えられます。産休・育休はそのどちらでもありません。いずれ戻ってくる人の仕事を、期間を区切って預かるという、少し特殊な判断です。
この記事では、その間だけ経理を外に出すときに、何を出して、何を社内に残し、戻ってくる日にどう返すかを整理します。育児休業の給付や社会保険の手続きといった制度の説明はしません。そちらは社会保険労務士の領域です。
1|辞める人の引き継ぎと、何が違うのか
当サイトには経理の引き継ぎ|渡っていないのは手順ではなく「判断の理由」という記事があります。退職の申し出を受けてから、残り時間でどう渡すかの話です。産休・育休の場合、同じ手順で進めると、戻ってくる日に困ります。違いは次の4点です。
| 退職 | 産休・育休 | |
|---|---|---|
| 終わりがあるか | ない。渡した先が持ち主になる | ある。仕事はいずれ本人に戻る |
| やり方を変えてよいか | 次の人のやり方に変えてよい | 変えると、戻ってきた本人が自分の仕事を分からなくなる |
| いない間に本人に聞けるか | 辞めたあとは聞けない前提で組む | 聞けなくはないが、休んでいる人に頼る前提で組むべきではない |
| 準備の期間 | 申し出から1〜2か月が多い | 予定日が先に分かるので、数か月前から準備できることが多い |
いちばん大きいのは2行目です。預かる側は、やり方を良くしたくなります。勘定科目の使い方を整理したり、請求書の出し方を変えたり。どれも善意ですが、戻ってきた人から見ると、1年ぶりに開いた会計ソフトが知らない会社のものになっています。預かる間は、やり方を変えないのが原則です。変えたほうがよいと思う点は、一覧にして復帰の日に本人と相談します。
2|期間は、最初には決まらない
「いつからいつまで外に出すか」を先に決めたくなりますが、ここは読み切れません。
- 産前の休業は、出産予定日の6週間前(双子以上は14週間前)から本人が請求して休めます。体調によっては、予定より早く休みに入ることもあります。
- 産後の8週間は、原則として働けません。
- 育児休業は原則として子が1歳になるまでですが、保育所に入れない等の事情があれば、1歳6か月、2歳まで延びることがあります。
- 復帰したあとも、短時間勤務で戻ることが多く、休む前の仕事がそのまま全部戻るとは限りません。
つまり、始まりは前にずれることがあり、終わりは後ろに延びることがあるのです。期間は長い側で見積もり、契約は「何月まで」と固めるより、延長と終了の手続きを先に決めておくほうが実務に合います。「いつ戻るか」ではなく「どうなったら戻すか」で決める、と考えてください。
3|外に出す以外の選択肢と、並べて比べる
外に出すのが唯一の答えではありません。当社が外注の会社であることを割り引いて読んでいただきたいのですが、並べると次のようになります。
| 向いている会社 | 戻るときに起きること | |
|---|---|---|
| 社内の他の人で分担する | 仕訳の量が少なく、経理の経験がある人が社内にいる | 分担した人がやり方を独自に変えていることが多い。分担した人の本業も1年間削られる |
| 派遣で代わりの人に来てもらう | 社内の机で、同じソフトを同じように触ってもらいたい | 派遣の方の契約が切れる日と、本人が戻る日の間に空白が出やすい。立ち上がりの教育は社内の誰かがする |
| 期間を決めて1人採る | 預かる量が多く、1年以上の在籍が見込める | 戻る日に、仕事が2人分に割れる。採った人の次の居場所を先に考えておく必要がある |
| 外に出す | 定型の処理が多く、判断は社長か誰かが持てる | 契約を終えれば仕事は戻る。ただし、戻し方を決めていないと一度に全部戻ってきて本人が溺れる |
外に出すことの強みは、担当が1人の休みや退職に左右されないことと、終わらせやすいことです。弱みは、社内の机の上で起きていること(郵便、窓口、声をかけられて片付けていた雑務)が見えないことです。ここは社内に誰か1人、受け手が要ります。人手が足りないときの一般的な考え方は経理の人手不足|採用が決まらない会社が、まずやるべき3つのことに書きました。
4|何を外に出し、何を社内で預かるか
ひとり経理の担当者がしている仕事は、おおむね3つに分けられます。
| 区分 | 例 | 休業の間 |
|---|---|---|
| 毎月同じ形で回る処理 | 記帳、請求書の発行、支払データの作成、給与の計算、経費精算の確認 | 外に出しやすい。手順と勘定科目のルールを変えずに預かる |
| その都度の判断 | 支払の承認、入金が遅れている取引先への連絡、いつもと違う請求書の扱い、どの科目で処理するか迷うもの | 社内に残す。社長か、決めた1人が持つ |
| 急がない改善 | 規程の見直し、ソフトの入れ替え、勘定科目の整理 | 原則として止める。戻ってから本人と一緒にやる |
3行目を「この機会にやってしまおう」と外に出すと、1章に書いたとおり、戻ってきた人が自分の仕事を分からなくなります。止めてよいものは、止めて待つほうが、復帰のあとが早いです。
2行目の判断は、外に出しても消えません。委託先は「この支払をしてよいか」を決められないので、決める人が社内にいないと、預かった処理が途中で止まります。休業の間の判断役を、誰にするかを先に名前で決めてください。
5|休みに入る前の2か月でやること
(1) 少なくとも1回は、月の締めを一緒に回す
説明を聞くより、月初から月末まで一緒に回すほうが早く渡ります。本人がいるうちに1か月重ねて回せば、手順書に書かれていない作業がそこで見つかります。
(2) 手順より先に、判断の理由を書き出してもらう
「この取引先には月末ではなく翌月10日に払う」「この経費はこの科目で落とす」。手順は委託先が見れば分かりますが、理由は本人の頭の中にしかありません。書き出してもらう対象の絞り方は経理の引き継ぎの「渡っていないのは、この4つ」に書きました。
(3) 本人のアカウントを使い回さない
本人のIDとパスワードをそのまま委託先に渡すのは避けてください。誰が何をしたかが残らなくなり、復帰したときに本人の名前で身に覚えのない操作が並びます。委託先には委託先用のアカウントを1つずつ発行します。渡し方は経理の外部委託|アクセス権限の渡し方と、契約が終わった日のデータの戻し方に整理しました。
(4) 休業中の連絡の決まりを、本人と決めておく
「困ったら本人に聞けばいい」は、休んでいる人の負担になります。連絡してよいのはどういう場合か、連絡するのは誰か(委託先ではなく社内の判断役)を、休みに入る前に本人と合意しておきます。多くの場合、判断の理由を書き出してあれば、連絡はほとんど要らなくなります。
6|戻るときに困らない渡し方
復帰の1か月前に、変わったことの一覧を作る
休業の間にも会社は動いています。取引先が増え、請求の条件が変わり、会計ソフトが更新されます。いない間に変わったことを1枚にまとめて、復帰の前に本人に渡すと、戻ってからの最初の1か月がずいぶん楽になります。これは預かっていた側が作るものです。
戻す順番は、判断から
一度に全部を戻すと、本人は短時間勤務の中で、1年分の変化と毎月の処理を同時に抱えることになります。戻すのは、まず判断(支払の承認、取引先とのやりとり、迷う処理)から。定型の処理は、本人の勤務時間が落ち着くまで外に置いたままにする、という戻し方もあります。全部戻すか、半分だけ戻すかの考え方は経理の内製化|全部戻すより、行単位で分けたほうが早いに書きました。
契約の終わらせ方を、始めるときに決めておく
何か月前に伝えれば終えられるか。終えるときに、どのデータがどの形で戻ってくるか。預かった期間の仕訳や判断の記録を、本人が読める形で返してもらえるか。始めるときには気にならない点ですが、ここが決まっていないと、戻る日に揉めます。
7|やってはいけない3つ
- 預かる側が、やり方を「ついでに」変える。戻ってきた人は、自分の仕事が分からなくなります。
- 休んでいる本人に、毎週のように質問する。休業の意味がなくなり、本人も会社に戻りにくくなります。質問が多いなら、休みに入る前の書き出しが足りていません。
- 復帰の日に、全部を一度に戻す。短時間勤務で戻る人に、休む前と同じ量を渡すと、いちばん大事な判断の仕事が回らなくなります。
そもそも、1人がいないと経理が止まる状態そのものを崩す考え方は経理の属人化|手順書を作っても直らない理由と、崩す順番に書いています。産休・育休は、その状態に気づく機会でもあります。
8|シメゴの場合と、正直に申し上げること
- 退職・産休の引き継ぎには、最短1週間で開始できる体制を用意しています(状況により前後します)。ただ、本人と一緒に締めを1回重ねるには、休みに入る2か月ほど前にご相談いただくのが理想です。
- 預かる間は、御社のやり方を変えずに回します。改善したほうがよいと思う点は、その場で変えずに一覧にして、復帰の前にお渡しします。
- 判断は御社に残していただきます。支払の承認や取引先との交渉は当社では行いません。休業の間の判断役を、御社の中で決めていただく必要があります。
- 期間を区切ったご依頼の条件(開始の時期、延長と終了の手続き、データの返し方)は、ご契約の前に書面でお伝えします。
- 定型の処理が少なく、判断が大半を占める会社には、外に出すことをお勧めしないこともあります。社内の分担や派遣のほうが合う場合は、そうお伝えします。
- 産休・育休の手続き、給付金の申請、社会保険・労働保険の手続き、税務は扱いません。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行は社会保険労務士の業務、税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士の業務で、当社では行いません。
まとめ
産休・育休の間だけ経理を外に出すとき、設計の中心は「出すとき」ではなく「戻すとき」です。退職の引き継ぎと違って、仕事はいずれ本人に戻ります。だから、預かる間はやり方を変えず、急がない改善は止め、変えたいことは一覧にして待ちます。
期間は最初には決まりません。始まりは前にずれることがあり、終わりは後ろに延びることがあります。期間は長い側で見積もり、延長と終了の手続き、データの返し方を始めるときに決めてください。
休みに入る前の2か月で、締めを1回一緒に回し、判断の理由を書き出してもらい、委託先用のアカウントを発行し、休業中の連絡の決まりを本人と決めます。そして復帰の日には、変わったことの一覧を添えて、判断の仕事から返します。
休業の間に預ける仕事と、社内に残す判断を1枚にしてお返しします。
担当者がいま持っている仕事をうかがい、外に出せる処理・社内で預かる判断・止めて待つ改善に分けてお返しします。社内の分担や派遣のほうが合う、という結論になることもあります。
無料コスト診断を受ける →※本記事は、記載時点での一般的な整理であり、個別の会社における最適な体制を示すものでも、特定の結果を保証するものでもありません。退職と産休・育休の違い、選択肢の比較、仕事の3区分、休業前後の手順は、当社の受託実務およびご相談で見てきた範囲に基づく整理であり、統計調査に基づくものではありません。産前産後の休業は労働基準法に、育児休業の期間と延長は育児・介護休業法に定めがあります。個別の事情による取扱い、育児休業給付や社会保険料の免除等の手続きは、社会保険労務士・ハローワーク・年金事務所等にご確認ください。当社は税務代理・税務書類の作成・税務相談、労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出代行を行いません。